第2話:能力値

 家に帰るとセロはすぐにご飯を食べた。今月はあと10日を800円で過ごさなければならないから、主食はもやしである。

 もやしにポン酢をかけてひたすら喰った後、適度に膨れた腹をさすりながら寝転がる。


「あ~もっと沢山食べたいな~」


 大学への進学を機に上京してきたのだが、それ以来ず~っと信じられないほどの金欠が続いた。どれだけ働いてもすべて学費と家賃と水熱費で消えてしまうのだ。だから食事は殆どもやしポン酢だった。

 そんなときに見つけたハンター募集の張り紙である。大学の学部掲示板にデカデカとポスターが貼ってあったのだ。最初は興味なんか無かったが、その下の謳い文句にまんまとひっかかってしまった。


「貴方もすぐに億万長者」


 と書いてあったのだ。流石は商学部の掲示板だ、商学部生の生態をよく分かってる。そんな風に感心しながらセロは電話をかけていた。

 そして現在、なんやかんやあってハンターになれてしまいそうだ。


「全然無理だと思ってたのになぁ……何があるかわかんないもんだな」


 そんな風に呟いていると突然目の前に文字が現れた。


「おぉ、看護師さんがいってたのこれかぁ」


 なんとも間抜けな声を出してしまったが、目の前にはボンヤリと数字が浮かんでいた。目をこらすと段々ハッキリ見えてくる。


【名前】カザマ・セロ

【種族】ハーフ**~*

【状態】—

【レベル】1

【HP(体力)】0.8/5

【MP(魔力)】72/327

【STR(筋力)】2.3

【VIT(耐久)】4.8

【DEX(器用)】3.1

【INT(知力)】94

【AGI(敏捷)】2.7

【称号】—

【スキル】―


「INTたっけえ!! しMPもすごいな!! なんか減ってるけど…………てか体力0.8っておれ死にかけってこと? やっぱもやしって栄養無いのかなぁ? 薄々わかってたんだけど安いから買っちゃうんだよなぁ」


――次の日

 セロは東都のギルドでギルドの仕組みについて一通りの説明を受けていた。


「ギルドというのはハンターさんの活動を始めから終わりまで支援する組合のことです。具体的には素材の買い取りや情報提供、それにパーティメンバーの斡旋なんかもしてますね。パーティやクランにレベルを割り振って、階級を作ったりするのも我々の仕事です。しかしここまでの説明はハンターさんが把握する必要のない情報ですので忘れて下さってかまいません」

「…………はい」


 ならなぜ説明したという言葉は話の腰を折りそうだったので飲み込んだ。


「そしてここからがハンターさんに大きく関係してくるところでして、毎年稼ぎに応じて会費を払っていただく必要があります。それと階級が上がると我々から時折、指名での依頼をすることがありますので、ご承知下さい」

「はい」

「ここまでで何か質問はありますか?」

「ないです」

「それではこれが君のギルドカードです。それが無いと何も出来ないからなくさないようにしてください」

「はい」

「討伐任務は基本的に一人でも受けられるんですが、なるべくならチームを組んだ方がいいでしょう。一人だと死亡率が跳ね上がりますから。それからその任務については、こちらの受付で申請してください。どんな任務があるかその端末で見られるので、暇なときにでも眺めてみるといいと思います」

「わかりました」

「それと、え~、あ、あれだ、毎週土曜と日曜に新人の研修会があるんですが、それに4回以上参加しないと任務は受けられないので気をつけて下さい。……はい。そんなもんかな。何か質問は?」

「ないです」

「今日も講習あるみたいですけど、どうします?」

「じゃあ参加します」

「了解です。それでは申請しておきますので、時間になったら受付まで行って下さい」

「はい」

「それじゃあ僕はこれで」


 案内をしてくれた人はそういっていなくなった。残されたセロは取り合えず時間まで東都ギルドのパンフレットを眺めていた。



――1時間後

 セロはギルドの近くの森に来ていた。風魔道士のハンターを含むチームと一緒だ。


「セロ君、あそこになにかいるのが見えるか?」

「あ、みえます」

「我々があいつを連れてくるから、さっきの要領で攻撃してみなさい」

「わかりました」


 講習会は思っていたよりも実践形式だった。しかし習うより慣れろとはよく言ったもので、色々と説明されるよりもやらせてくれた方がわかりやすい。

 目の前にやってきた白い鹿に向けて固めた風を刃のようにして打ち出す。すると凝縮された風が掌から打ち出され、目の前の鹿に大きな切り傷が出来る。鹿は角の辺りでバチバチと電撃を発し、こちらを攻撃しようとしてきたが、そこをすかさず付き添いのハンター達が攻撃する。

 角を砕き首を切り裂いた。鹿が動かなくなったのを確認するとこちらを振り向いてきた。


「どう? マナを吸収している感覚はある?」

「あ~、なんか暖かい感じがします」

「そうそうそれだよ、それを吸収するほど体は強くなっていくんだ」

「ほぇ~」


 試しにボンヤリと見えている数字に集中してみると、確かに数字が変わっていた。


【名前】カザマ・セロ

【種族】ハーフ**~*

【状態】—

【レベル】3

【HP(体力)】1.8/7

【MP(魔力)】43/389

【STR(筋力)】2.7

【VIT(耐久)】5.3

【DEX(器用)】3.3

【INT(知力)】108

【AGI(敏捷)】2.9

【称号】—

【スキル】―


「それじゃあサクサクいこうか」


 そして次の魔物を見つけた。


「よしいくよ」


 先頭をいく茶髪のお兄さんがそう言ってから音を立てないように近づいていき、狼のような魔物に石をぶつける。すると背中から炎を噴き出している狼はもの凄い早さでこちらを振り向き、そして駆けてきた。


「落ち着いてしっかり狙うんだよ」


 隣に立っている風魔道士のハンターがそう呟いたのが聞こえた。が別にそこまで緊張もしていなかった。どういう訳かさっきよりも頭がすっきりしている。

 迫ってくる狼に掌を向けると、空気を丸めて限界まで凝縮させた球を用意する。そして狼が目の前に迫った瞬間、その球を空気で押し出した。


――ドゴォオオオン!!!


 風の球はもの凄い速さで飛んでいき、狼に当たると轟音と共に爆発した。辺り一面に風が吹き荒れ、細い木なんて傾いていた。

 狼は地面に倒れてピクピクとしていたが、少なくとももう襲ってくる元気はなさそうだった。


「…………すごいね」

「ほんとに新人?」


 付き添いのハンターさん達が近寄ってきてそう尋ねてきた。先頭で狼を挑発していたお兄さんはケラケラ笑っている。


「きのう覚醒したばっかなんでしょ? それでこれって、アッハッハッハ、まじの天才じゃん」

「いやたまたまですよ」

「普通は風魔道士でもあんな風に風を操ったりは出来ないもんなんだよ。せいぜい風の刃やら小さめの竜巻が限界なんだ。君のさっきの爆発は、普通に異常だよ」

「…………なるほど」

「私の名前はハヤミ・ヤマだ。風魔道士だからもし気になることがあればいつでも質問してくれていいよ。これが私の連絡先だ」


 そう言ってメールアドレスの様な物が書かれた紙を渡される。他の二人も自己紹介しながら紙にアドレスを書き加えてくれた。

 こうしてハンターとして初めての狩り?は成功した。

 思っていたよりも順調なことに自分でも少し驚いたが、同時に少しだけ調子に乗っていた。これなら簡単にできそうだなんて思っていたんだ。

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