風魔道士の育ち方 風の魔道士はレベルが上がりやすいと聞いたんですが7から中々あがりません。置いていかれたダンジョンで化物に食われかけたらレベルが上がって進化が始まりました

ウォーカー

第1話:適性診断

「カザマ・セロさん。いらっしゃいますかー!!」


 受付で自分の名前が呼ばれた。なるべく気配を消してソロソロと受付に向かう。受付にたどり着くとそこに座っていた女性に声をかける。


「自分がセロです」

「はい、適正の診断結果が出ましたのでこちらへどうぞ」


 そう言って案内されたのは受付から少し離れたところにある小さな個別ブースだ。


「担当の者が来ますのでしばらくお待ち下さい」


 案内をしてくれた人はそう言ってすぐに戻っていった。することもないので天井を眺めていると、すぐに男の人が入ってきた。


「カザマ・セロさんであってますか?」

「あってます」

「それではまず、こちらが診断結果です」


 そう言って渡されたのは一枚の紙だった。紙には細かく色々な情報が載っていたが、重要なのは一番下だけだ。


――――――――――――――――――――

『適正診断書』


名前:カザマ・セロ

年齢:19

体内基礎魔力量:Aクラス

 詳細:風系統82%、水系統11%

~~~~~~~~~~~~~~~~~

        略

~~~~~~~~~~~~~~~~~


以上のデータより、カザマ・セロ様の適正は

以下の様になりました。


適合率

【風魔道士】:92%

【魔闘士】:62%

――――――――――――――――――――


「一通りみれましたか?」

「一応は」

「はい、ではカザマ様は適合率は60%を超えた物がございましたので、ハンター申請を受理いたします。ということで適合率的には風魔道士が一番だと思うのですが、カザマ様は希望はありますか?」

「いや、特には……というか風魔道士ってのはなんなんでしょうか?」

「まあ脳の特性に基づいた戦闘スタイルのような物ですかね。総合魔力研究会というところの基準にもとづいて我々が作った分類のうちの一つなんですが、魔道士は他の分類に比べて魔力の扱いに長けている事が多いです。まあ簡単に言えば器用で賢い脳だって事ですね」

「なるほど、じゃあ、風魔道士にします」

「承知いたしました。それでしたら風魔道士として仮登録いたします。本登録のためには試験を受けていただく必要がございますのでご承知ください」

「あ、その、仮登録っていうのは?」

「ハンターとして活動するためには脳を魔力に適合させる手術が必要なのですが、それよりも前に人格、思考力、判断力等を測る簡単なテストに合格し本登録をする必要がございまして、仮登録というのはそれらのうちのどれかが終わっていない人のために発行される一時的な証明書のようなものでございます」

「なるほど」

「事前の準備は必要ない簡単なテストですのですぐに受けてしまうことをお勧めしていますがどうなさいますか? 今すぐ受けることも可能です」

「そしたら今受けても良いですか?」



* * * * *


 『大宝たいほうの天災』と呼ばれる数千年前の大災害以来、世界中の生物が新たな力に覚醒した。その力はそれまでの世の理をすべて無視した完全に違う世界の物であった。しかし数百年もすると世界はその力に順応し、人類と呼ばれた種は殆ど完全にその力を操ることに成功していた。

 人々はその力を魔力と呼んだ。魔力は基本的には誰もが持っていて、しかし自由に使えるのはごく一部の限られた者だけだった。そういう人達は魔道士などと呼ばれるようになった。

 魔力とは本来は存在しなかった力であるため、脳がそれに対応しているいわば進化した人類にのみ使うことが出来たのだ。

 しかしある研究者がそれを覆した。


「対応していないのなら対応させてしまえば良い」


 彼はそう言って脳をいじったのだ。結果として見事にそれは成功し、その時に確立された手術法によって人類は希望すれば誰もが魔法を使えるようになっていた。


 本来であればそれで人類は完全な地上の覇者となるはずだった。しかし実際そうはならなかった。

 魔法が使えるようになったのは人類だけでは無かったのだ。

 明らかに脳の性能で人類に劣っているはずの動物たちも、どういうわけか魔法を使うようになってしまったのだ。その結果として野生の動物の中には魔力に対応した頑強な体と高い知能を兼ね備える個体が出てくるようになり、さらには人類による魔法を使った凶悪な犯罪行為が信じられないほど増加した。それらによる影響で人類の数は一気に減少してしまう。

 そこで登場したのがハンターという職業である。各地に存在するギルドに登録し、人に仇なす魔法動物(通称魔物)を討伐することを生業とする者のことだ。

 適性診断で高い適合率を出し、人格的に問題の無かった人にのみ脳の覚醒とギルドへの登録を許可するという制度が世界的に一般化したのだ。




「カザマ・セロさん、こちらにどうぞ」

「あ、はい」


 制服を着た女の人が呼びに来た。後についていくと手術室の様なところに通されて、診察台の上にのせられた。そこからの記憶は殆ど無い。

 気がつくと俺は病室のベッドで寝ていて、周りには誰も居なかった。

 起き上がって周りを見てみると隣にある机に紙が貼ってあった。


「起きたらこれをおしてください」


 なるほど、これを押したら誰か来るんだろう。取り敢えず押してみることにした。ボタンを押すと上についていたランプがチカチカと光り、しばらくして看護師さんがきた。


「早かったですね」

「そうなんですかね?」

「ええ、普通は起きるまでもう少しかかるんですが、まあどうでもいいですよねそんな事」

「まあそうですね」


 そう返事をすると看護師さんはおかしそうにケタケタと笑った。少しして笑いが収まると看護師さんは説明を始めた。


「カザマ・セロさんですね。え~っと、まず、あなたはもう魔法を使えるようになっています。その自覚をもって慎みのある行動を心がけて下さい。一般人に向けて魔力を行使した場合、どんなに軽くても20年の禁固刑になってしまいますので是非ともやめておいて下さい」

「はい」

「それから今日は脳が疲れてるでしょうから細かい説明はギルドの1階で明日するそうです。明日の15時です。ギルドに来て下さい。わかりました?」

「…………はい」


 まるで赤ん坊でも相手にするかのようにゆっくりハッキリと話すから少しだけ面白かった。


「あ、それから、突然目の前に文字やら数字やらが見えるときがあると思いますが、それは脳を覚醒させた人全員に共通している症状で、異常なことではないのでもしあっても落ち着いて下さい」

「わかりました」


 セロは礼を言うと家に帰った。4畳一間家賃9000円の家、家というにはあまりに粗末な気もするが、家に向かって歩き始めた。

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