第54話 天才

 アカネは師匠に話しかける。

「ほな、おっちゃんホットドッグ奢ってや」


「何でだよ! お前ら昨日帯とっただろ? 俺が奢って欲しいぐらいだ」


「うちのこと小学生呼ばわりした慰謝料や! 安いもんやで!」


「は? ふざけんな」


「奢ってもらうまで一生つきまとうでー」


「っち。しゃーねーなー……ちょうど小腹も空いてたし……圭一郎2Rのパドック頼むわ」


 俺が頷くとアカネも連れの男に話しかけている。


「んじゃザキもパドックみといてや」


 男は右手を上げた。


 というか水と油みたいな2人で大丈夫なのか? 


 俺の心配を読まれたのかザキさんが話しかけてくる。


「ああ見えてアカネは大人やからな。心配しなくてええよ。パドックいこや。俺は君が気になんねん」


 2人は売店の方に行き、俺とザキさんは一緒にパドックに向かいながらザキさんが話しかけてくる。


「君らは競馬歴どれぐらいなん?」


「自分は1ヶ月で師匠は……知りません」


「え!? 1ヶ月でパドック見てんの?」


 ……初日からパドックみてるけどね……


「ま、まあそうなりますねぇ」


「凄いなあ。1ヶ月で菊花賞と天皇賞で帯とってんやろ?」


「そうなりますねー。自分は馬を見るだけで予想は師匠がしてますけど」


「ん? ちょいと待てよ……1か月って菊花賞がちょうど1か月ぐらい前やろ! 競馬していきなりパドックみてるってことかいな!」


 あ!……そうだった……2か月ってことにしとけ


「違います違います。異世界馬券師初めて1か月ってことです。馬見始めたのは2か月前からです」


「2か月でも凄いやんけ。俺は子供ん時から馬が好きずっと馬見てきてん、そんで高校卒業してからサウザンファームの育成で5年ぐらい馬乗って。んで1年前に馬乗りやめて帰ってきてな。プラプラしてたらアカネに声かけられてな。一緒に馬券で稼ごうやって、まあアカネも小さい時から親と一緒に競馬の予想してたさかいな。まあうちらの競馬歴は10年以上はあるってとこや。ほんでやっとパドックで馬見れるようになってんのに、たった2か月で馬見れるて帯取れる予想だせるってあんたなにもんや」


「なにもんやって言われても……見れるものは見れるので……」


「あんたは馬を見れる天才かもしれんけど、この勝負負けるで。アカネは博打の天才なんや、何人かでパチをノリ打ちしたときにみんな負けても1人だけ勝つようなやつがおんねん。それがアカネや、あんたが馬を見る天才やとしても競馬は博打やさかい博打の天才には勝てん」


「天才だろうがなんだろうが勝つのは俺たちですよ。ザキさん」


 うちにもある意味博打の天才がいるから……


「じゃあお手なみ拝見させてもらうで」

 話しながらパドックにつくと2レースに出走する馬達がひかれている。


 PCを取り出して数値を入力していく。


 ザキさんはというと馬を眺めてぶつぶつ言っている。

「1番まだ緩いなあ……2番は右トモの入りが甘いな……3番の前進気勢はええな……」


 なにやら分からない単語が飛び交っている。


 するとザキさんが話しかけてくる。

「なあ7番どう思う?」


 ……どう思うってきかれても……すばやさが313ですとしか答えようがないが……


 答えることもできずに黙っていると


「せやなあ難しいよなあ。外目歩いて調子はよさそうなんよ。ただ前進気勢がつよおうてなちょっとギリギリな感じに見えるんよなあ。返し馬チェックしなあかんな」


 何を言っているのかさっぱり分かんないが、俺はその通り! と言わんばかりに全力で頷いておく。


 入力も終わりパドックで5分ほど待っていると親子連れような感じで二人がやってきた


 どうせ大喧嘩でもしてんのかと思ったら師匠はニコニコと機嫌よく二人の手には紙袋がある。


「ほい! これ圭一郎の分」

 そう言うと中からホットドッグと缶ビールがでてくる。


「あのアカネってのいい奴だわ。俺たちの菊花賞をすげーって言ってたぞ。それにこのビールはアカネの奢り」


 アカネにお礼を言っておこう。

「ビールありがとうございます」


「ええって、菊花賞はいいもん見せてもろうたし、菊花賞単勝1点勝負は痺れたわーさすがのうちも8帯は取ったことないわー」


「そうこいつって俺らのこと知ってたんだよ。しかもフォロワーだった」


「せやで、うちの個人アカウントでフォローしてたで」


 アカネがそういうとうんうんと頷く師匠。アカネは話を続ける。

「そのあとのお金の行方聞いてさらに爆笑したわ」


「600万ボートでスッた話か」


「さっき聞いて爆笑したわ。ほんまおっちゃん。おもろいわーギャンブラーの鏡や。あと天皇賞も凄かったなあ。3連単1点で帯! うちら穴狙いやさかいあんな馬券はとられへんわ」


「あの帯どうなったか知ってるか?」


「またボートでスッたんかいな?」

 師匠は首を横に振り

「次はオートだ」


「オート! おっちゃん渋いわ! かっこええなあ。うちらも昨日取った帯そこのボートで溶かしとうなったわ」

 そう言って腹を抱えて笑っている。


「よし今から平和島いくぞ」


「いかへんいかへん。冗談やて……さてと予想の仕事もせーへんとな」


 そう言うとアカネはザキのところにいって何やら話をしている。


 師匠が話しかけてくる。


「2レースはどうだ」


 師匠にPCを見せる。


「オッズは7番が単勝1.7倍たしかに馬柱みると4連勝してるし7番が強そうには見えるが、能力上位3頭はと……4番、5番、12番で7番は4番手と……でも逆転できる程度の能力差ではあるな……」


 あれ? 7番ってザキさんがなんかギリギリって言って馬のような気がする。


「7番をどうするかが鍵ですかね?」


「そう7番の取り捨てが鍵なんだよ。このレース。1レース目を見る限り前残りの可能性が強い。ということはこの前に行く7番でいい気がするが」


 するとアカネがやってきて話しかけてくる。


「どうや? 予想決まったか?」


 師匠が答える。

「あらかた決まってきたがもうちょっと考えたい感じだな。そっちは決まったのか?」


「だいたい決まったで。でもザキのやつが返し馬みたい言うとるから返し馬見てから予想をSNSにあげるわ。まあここもバイアス分からへんから見推奨やけどな」



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