第52話 平日の昼間
「師匠、やっぱりさっきの関西弁の女、穴の龍なんじゃ?」
「っぽいな。まあでも全力で潰すのに変わりはない」
「ですね」
「そうと決まれば馬券買い行くぞ」
師匠と一緒にマークシートに記入をする。もうこの辺は慣れたかんじで塗りつぶしていく。
「師匠いくら買うんですか?」
「10番から3番、5番、11番に馬連流し3点各1万。計3万だな」
「師匠、お金いくら持ってきてるんですか?」
「5万」
「え……所持金5万で1Rに3万もつかっちゃうんですか?」
「自信度星4つだぞ? 自信がなけりゃこの自信度にはしねぇよ」
ちょっと遠くを見つめた師匠はまた話し出す。
「俺はこの間の馬券対決で学んだことがあった。俺はもうひよらない。ひよるといいことはない! 俺はここで各1万買って一番高いのがくると20万になる。そしてそれを使って帯を取って穴の龍に勝つ! 圭一郎も勿論1万いれるよな!」
ビシッと俺を指差す。
「へ? いやですよ1000円づつで3000円です」
「馬連1万買うのひよってる奴いる?いねーよな?」
「無理です」
そういって俺は3000円の馬券を購入し師匠は3万馬券を購入した。
師匠は買った馬券をスマホで撮ってSNSにアップしている様子。
異世界馬券師の投稿をみると……
10番から3番、5番、11番に馬連流し各1万で3万円勝負だ!この買い方こそ自信度⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎の買い方だ!!
信頼と実績の異世界馬券師を信じろ!
文と一緒に馬券の写真も添えられている。
メインスタンドにやってくる。
目の前には砂が敷かれたトラックが広がっている。
「おっきい競馬場ですけど芝はないんですね」
「地方は基本ダートだけだからな。まあ盛岡には芝コースがあるけど」
「そうなんですね」
トラックの中央には京都競馬場や東京競馬場あるような大きなモニターが設置されている。
隣には親子だろうか? 小学生ぐらいの女の子と男がいる。
師匠がつんつんと俺を肘で押す。
「なんですか?」
師匠は小声で俺に話しかけてくる。
「小学生が平日の昼間から競馬場にいるとか世も末だな」
……平日の昼間から競馬場にいる俺たちにまんまブーメランなのだが……師匠は気づくはずもない。
「あれですよあれ、運動会の次の日とかで休みなんですよきっと? お父さんに動物園行こうってつれてこられたとか」
「へぇぇなるほどねぇまあ大井だしな川崎とか浦和だったらおいおいって感じだけど大井はまあ綺麗だしな」
師匠もなぜか納得したようで5分ほど待っていると自分たちのいるメインスタンドちょうど向こう側で馬達が集まってきている。そして旗振りおじさんがゴンドラで上にあがり旗を振る様子がモニターに映し出される。
ファンファーレが鳴り響くと場内の実況が聞こえてくる。
「馬場状態、良の発表。1レース、各馬スムーズにゲートに入っていきます。14番サムサアツサモが収まって……ゲート入り終わりました……スタートしました! 10番ハイハイアジサイ好スタート! 8番ゴーイングドゥドゥが押して押して出していきます」
師匠が本命にした10番の馬はスタートでぴょんと飛び出し、8番の馬は騎手にガシガシされながら走っている。
それを見た師匠は「もうこれ10番頭でくるだろ。もう俺のお金増えるの確定だわ」と上機嫌な様子。
場内の実況は続く。
「でていくのは8番ゴーイングドゥドゥ。10番ハイハイアジサイ控えて2番手 さらには9番アジャスター、12番ハイレゾクイーンが続いていきます。さらには14番サムサモアツサもが上がっていきます。好位のインコースには11番ハーゴンムービングがいまして、ひろがって3番コウコウムスコがいます」
穴の龍の本命の8番が先頭を走り、俺たちの本命の10番が2番手を走っているというなんか熱い展開。10番の方がステータス高いし1着になりそうな気はする。
「3コーナーのカーブに差し掛かっていきます。中盤の中ほどに3番キラリヒカルいましてそのすぐ後ろに1番フォートナザレとさらに最後方に2番トゥースブリッジです。4コーナーに差し掛かってきました依然先頭は8番ゴーイングドゥドゥ、10番ハイハイアジサイが並びかけてくる!」
腕を組んでみている師匠はうんうんと余裕表情で頷いている。
するとすぐ近くから聞いたことのある声が聞こえてくる。
「8番残せ!! 死ぬ気で走れぼけぇぇぇ!! 残せやあああああああああ!!」
これって穴の龍のアカネじゃ……その声はすぐ隣にいる小学生……小学生!!!??
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