第51話 魔境大井
帰りの新幹線の車中で駅弁とビールでささやかな晩飯をとっていると師匠が話しかけてくる。
「圭一郎明日空いてる?」
「空いてますよ」
「明日、大井にいくぞ!」
「え、大井?大井って穴の龍が言ってた大井競馬ってとこですか?」
「そうだ。あいつら今勢いづいてるからな、ここで叩いて俺達の方が上ってアピールをする。名付けて出る杭は打つ作戦だ!」
「なるほど」
「SNSに投稿していいか?」
「いいですよ」
ふふ、今までの師匠だったら許可なんか取らずに勝手に投稿してたよなあ。効いてる効いてる。
スマホをポチポチする師匠。
「これでよし! 投稿っと」
スマホを開いて師匠の投稿を見る。
明日ついに異世界馬券師が魔境大井デビューを果たす! エリザベス女王杯アオイハルを本命にした伝説の予想で魔境大井を完全攻略する!
異世界馬券師を信じろ!
「魔境大井ってなんですか?」
「地方競馬って大抵堅いんだが大井は違う。3連単100万を越えるのがポンポンでるかと思ったらカチカチになったりまあ馬券が当たらん。俺、大井で勝ったことねーもん」
「……え? 大井で勝ったことないのに穴の龍に喧嘩売ったんですか?」
「大丈夫、大丈夫。圭一郎がいたら勝てるからへーきへーき」
「ですよねー穴の龍はステータス見れないですもんね!」
これでいいんかな?
――翌日
大井競馬はナイター競馬ということで14時40分から始まるらしい。
時刻は13時過ぎ、ということで大井に向かう。
あ……師匠のお金預かるの忘れてた……
昨日はお金を半分ずつ出し合っていたから5万が12万になり師匠と6万ずつ分けた。
その後に師匠が大井行きをいいだしたってのもあるけど……
絶対あの人お金残ってないよな……
13時半に浜松町駅で師匠と待ち合わせ。
師匠がニコニコしながらやってきた。
あの感じだともしかしてお金減ってない? むしろ増えてるまである?
「おはよう圭一郎くん!」
「もうお昼ですけどね。随分と機嫌いいですね師匠」
「さっきパチンコ打ってたんだわ。で6万突っ込んでもうダメかと思ったらそっからレバブルからのズキューン!で13連1万2000発で5万戻ってきたんだよ」
「1万減ってますよそれ……」
「は? 6万負けが1万負けまでまくるのは実質勝ちだから!」
「はいはい……」
「じゃあ行こうぜ。魔境によ!」
ということでモノレールに乗って大井競馬場に向かう。
モノレールは数分で大井競馬場前駅に着く。
モノレールから降りて歩くこと数分。
ちょっと昔のアメリカの映画館のようなデザインの建物にTOKYO CITY KEIBAと書かれている。
「ここが大井競馬場ですか?」
「ああそうだよ」
「なんかオシャレな感じですね。地方競馬って聞いてたんで浦和競馬場みたいな感じかと思ってました」
「大井は規模的に言えば中央みたいな感じだからな。クリスマスとかイルミネーションとか凄いらしいぞ」
「らしい?」
「男1人でクリスマスに大井なんてこねーから!」
「そりゃそうですね……そんなデートスポットになってるなら俺もこないですね……」
入場料の100円は機嫌のいい師匠が出してくれた。
師匠が話しかけてくる。
「1Rのパドックそろそろ始まるころだ行くぞ」
師匠に付いていきパドックにたどり着く。
平日の昼間ということもあってか、昨日の京都競馬場と比べるとめちゃくちゃ人は少なくスーツ姿の仕事サボってますとい感じのリーマンや、ワンカップを持ってるおっさんの姿、若い男女のカップルの姿なんかもあったりする。
人が少なくてめっちゃ快適にパドックが見れる。
いつものようにプロパティと呟く。
1番パンツハイテル
HP250
MP0
たいりょく163
ちから171
すばやさ155
まりょく0
みりょく43
ちりょく15
全14頭のステータスを入力したものを師匠にみせる。
「なるほどな……ステータスは大体人気通りか……ただ大井の1200は荒れるんだよなあ」
「そうなんですか?」
「大井はな距離に応じてコーナー外回りと内回りがあってな。外回りは最後の直線が386メートルで地方競馬最長なんだが内回りは286メートルになって川崎競馬場より短くなる」
「へー」
「つまりは外回りは直線が長くて差し追い込みに利があるし、内回りは直線が短い分、逃げ先行が有利になる」
「だったら外回りのこのレースは差し追い込みでステータス高い馬買えばいいんじゃないですか?」
「甘いな圭一郎くん。ショートケーキよりずーっと甘いよ。ダートは基本的に前有利でだし、トラックバイアスによってはそのまま逃げきるなんてことも多々ある」
「外回りだからといって差し追い込みが勝つとは限らないと……」
「そういうことだ圭一郎くん」
師匠がうーんと唸りながら予想をしていると、すぐ後ろでどこかで聞いたことのある関西弁の女の声が聞こえてくる。
「あかんで初日の1レース目なんかバイアスもなんもわからへんからな」
ちょっと低めの男の声が聞こえてくる。
「パドックは5番、3番、10番、12番の順やな」
「持ち時計1番速いのは10番やな。でもこの馬後ろからの馬やねん。バイアス分からんときは逃げ馬かえばええねん」
「ほな予想はどうするん?」
「8番やな。騎手も乗り替わりで上手い騎手に変わっとるし、ここは勝負気配や」
「パドック無視かいな!」
それを聞いていた師匠は
「ぷー8番はない。8番はステータス1番低いし、1200は外回りだから直線長いから前は不利なんだよなあ。大井素人か?」
「というかこの人達、穴の龍じゃ?」
「え? まさか大井には来てないだろ? 関西弁の女なんて腐るほどいるし」
……あ……いいこと思いついた!
「俺の力使えば名前みれますよ?」
「そうだったな。確か穴の龍の女の方はアカメだかタガメやら言ってたな」
「アカネですよ。アカネまあ本名なんて使わないと思いますけど」
そう言って師匠をチラッと見る。
別になにも気にした様子はない。
まあいいや。後ろを振り返るとすでに2人はいなくなっていた。
師匠がSNSに投稿した予想。
大井1R、本命は10番! 独自のアルゴリズムで数値化した結果この馬が勝つ確率が1番高いという結果になった!
買い目は10番から馬連で3番、5番、11番に流す。魔境大井だがここは荒れない堅い決着とみた!
自信度は⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
魔境でも異世界馬券師を信じろ!
穴の龍の投稿した予想。
大井1R、まだトラックバイアスが不明のため買わないことをお勧めするが、パドック診断は5番、3番、10番、12番。おすすめ穴馬はバイアスが前だとすれば8番を推す。
基本買わないことを勧めるが買うなら8番の単複か。
穴の龍の予想をみた師匠はニヤッと笑う。
「あーダメだねーこんな逃げの予想してるようじゃダメダメ」
そして答え合わせがはじまる。
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