第39話 見推奨といいながら当てる予想家

 師匠はスマホ取り出すとこういった。

「あ!配信みなきゃな! さっきの本命を当たてたの俺たちだけだったはず 配信コメントも大絶賛間違いなしだ」


「確かにそうですね。11番を本命にしてたのは俺たちだけでしたし」


「まあ買い方でボックス買いとかしてるやつもいるだろうから全員が外れたわけじゃないだろうが……本命印は俺たちだけだったはず」


 スマホに目を落とすとケンタの声が聞こえてくる。


「さきほどの新馬戦ですが、波乱の展開となりました。圧倒的1番人気のアパッチトマホークがまさかの着外の惨敗そして単勝23倍のコロデゾンが1位入線となりました……」


 ヨーコがケンタの話に相槌を打ちながら話し始める。

「まさかの結果ですね。21組の予想家さんの17組が本命だったアパッチトマホークがまさかの着外。11番を本命にされた予想家さんはなんと1組異世界馬券師さんだけでした」


 そう言われた瞬間、師匠が肘で俺のことを押す。


「ほれほれ。きたぞきたぞ! 俺たち1組だけって言ってるぞ。配信コメントみてみろよ」


 配信コメントを見ると……


<ヤマザキパドックが消えるんか……>

<単勝1点5万はやりすぎたなヤマザキパドック>

<まさかアパッチトマホークが負けるとはなあ……>


 あれ? コメント俺たちのこといってないんだけど……


<ヤマザキパドックwww節穴で草生えるwww>

<は? 何言ってんの? 新馬と言えばヤマザキパドックだから新馬の回収率120%だぞ>

<えーでも外してますよね? ヤマザキパドックさん>

<こんな一発勝負だとはずれることもあるから回収率でみないと意味ない>

<え?ヤマザキパドックの回収率0じゃね? もう挽回のチャンスもないんだけど>


 師匠の方を見るとスマホで何か入力しているように見える。


「し、師匠なにやってんですか!」


「何やってるってこいつらはずれたやつのことしか言ってないから当たってるやつもいるって教えてあげようかと思って」


「……おしえてるというかそれ煽ってるだけでしょ……」


 するとケンタがなにやら読み上げている。

「ここで敗退が決定したヤマザキパドックさんからコメントをいただきました。今回は私の力が及ばず申し訳ない。私を信じて馬券を買ってくださった方には本当に申し訳けなく思っています。今回の馬券対決の勝負では敗退が決まってしまいましたが、今後も精進しパドック道を究めるために邁進していくので応援よろしくお願いします」


 ヤマザキパドックさんって人は人格者って感じだなあ……


<今回はここでしか勝負できなかったからなあ……競馬に絶対はないし俺はヤマザキパドックについてくわ>

<大丈夫だぞ! 俺たちはずっとお前を応援してるから!>

<はずれた奴がなにかっこつけてんの?>

<優勝するヤマザキパドックさんを見たかったけど……またチャンスはあるよがんばれ!>


 コメントもヤマザキパドックさんを応援するコメント多いなあ師匠の煽りコメントなんてすぐ流れていく


 ヤマザキパドックのコメントを読んだケンタが続けて話す。

「私もヤマザキパドックさんはフォローさせてもらってますし、今回結果は残念でしたがまた次回の馬券対決では決勝ラウンドで戦う姿をみさせてください。今度僕のチャンネルとヤマザキパドックさんとコラボさせてもらうのでその宣伝もいっしょに」


 そう言って笑っている。


 ヨーコがケンタに話しかける。

「異世界馬券師さんは見事でしたね。100円とはいえ単勝11番を購入されていました」


 師匠は嬉しそうに頷いている。

「そうそう。100円だったけど1点で的中! 圭一郎がもっと強く推してくれさえいればなあ」

 そう言うとちらちらと俺の方を見ている。


<でもさ異世界馬券師はここは見の100円っていってただろ>

<そうそう見推奨って言ってたから買ってねぇんだわ>

<さすが異世界馬券師さんだなあ……選ぶ馬のセンスがいい>

<異世界馬券師を信じてたら買っちゃダメだろ>

<見推奨と言っておきながら自分だけは当ててるって予想家としてどうなの?>


 ……コメントはどうも俺たちを絶賛しているようには見えない……むしろ非難さえされていそう……


 ケンタはにこやかに答える。

「異世界馬券師さんはもうちょっと買ってたらよかったと後悔してそうですね。たしか購入コメントもあえての100円で見推奨とのことでしたし」


 ケンタも配信コメントと同じようなことを言ってる。


 師匠は首を横に振る。

「いやいやいやいや100円でも当たりは当たりだから当たったことを褒めなさいよ」


「まあでもここは見って言ってましたし……買わなくていいってルールだったら買ってないですよね?」


 そういうと師匠はスマホに打ち込む手を止め


「……買って……ない……かな……」


「ならもういいでしょグチグチいっても仕方ないし、最後の3レース目でトップに10位以内に入ればいいだけです」


「そうだな。エリザベス女王杯は荒れることで有名だからここをバシッと当てて配信コメントの連中を見返す絶対にな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る