第38話 メイクデビュー京都
師匠とメインスタンドにやってくる。G1がある日ということで人がやたら多い。先週、先々週と同じぐらい人がいる気がする。
馬たちがゲートの後ろに集まっているのがターフビジョンに映し出され、旗を振るおじさんが歩いて姿が映し出される。
師匠に話しかける。
「師匠、こういう場合は8番が負けることを祈ったらいいんですかね?」
「そうだなあ……とりあえず8番が負けたら他の予想家の回収率さがるしヤマザキパドックにいたってはもう終わりだからなぁ」
「ですよね。俺たちにしてみたらそっちの方がいいですよね。8番負けろオーラを出しますよ」
そういうと師匠は首を横に振る。
「負けを祈るんじゃなくて、他の馬が勝つことを祈ろうぜ」
それは同じことではと思ったが師匠が続けて話す。
「8番の馬にも関係者がいるだろ? ただその馬の負けを祈るのはその関係者達に失礼だと思うんだ。だったら他の馬が勝つことを祈った方がいいと思う」
なんか師匠久しぶりにまともなこと言ってる気がする。いやでも待てよ……8番を選んだら節穴だの酷いこと言ってたと思うんだけど。
まあでも負けを祈るよりは他の馬の勝ちを応援したほうがいいな。これは師匠が正しいな
「確かにそうですね。みんな勝ちたいんですもんね」
「そりゃそうよ。馬だって勝たないとな……」
そういって口ごもる師匠。
そんな話をしているとファンファーレが流れ場内の実況が聞こえてくる。
「第5レースメイクデビュー京都。芝1600メートルの舞台に今日のデビューの若駒16頭がゲートに入っていきます。おっと13番ローエース少し嫌がってしりっぱねを見せておりますが……奇数番入りました」
大金賭けてないレースはいいな。なんだろう……こう心が安定して見てられる……ってここは8番以外を応援しないと俺たちが決勝ラウンドに進めなくなる! ここは師匠のいう通りに8番負けろじゃなくて11番を応援するつもりで……
そんなことを考えているとガシャンとゲートが開いてスタートする。
実況がスタート直後の状況を伝える。
「スタートしました。15番スウィングスムーズ好スタート! ハナを切ってい行きます。13番ローエース、5番サカモトセンセイちょっとダッシュがつかないか!8番アパッチトマホークは4番手を追走していきます」
師匠に話しかける。
「11番、出遅れませんでしたねよしよし」
師匠が呟く。
「ああそうだな……それより8番まずまずスタートだなあ」
15番が好スタートで先頭に立ってそのまま走り続けているのが見える。
場内実況の声が響く。
「15番スウィングスムーズ先頭3馬身ほど後方に7番プラスブレス、その横に13番センネンドケイそしてその後ろに8番アパッチトマホークと好位集団を形成しております」
11番は中団のやや後ろといったあたりで実況でも名前が呼ばれない。いや先頭から全体の並びを紹介するときに1度呼ばれた程度。
師匠の呟きが聞こえてくる。
「8番いい位置につけてやがるわ。まあ大丈夫。8番能力は他の馬と大差ないから大丈夫、大丈夫」
何やら師匠の呟きは自分自身に言い聞かさせてるようにも聞こえる。
ターフビジョンに1000メートル1分1秒と表示されそれを見た師匠が口を開く。
「1000メートル1分1秒かよ! これ8あるんじゃね?!」
そして場内の実況のボルテージが上がる
「さあ残り600メートル! 第3コーナーを抜けて第4コーナーに入っていきます15番スウィングスムーズのリードはなくなって、13番センネンドケイが並びかけてくる。そのすぐ後ろに8番アパッチトマホーク! さあ好位だアパッチトマホーク、鞍上海田まさが外に出したぞ!」
師匠が頭を抱える。
「まじかよ! 8番絶好じゃねぇかこれ8番勝っちまうぞ!!」
そう言うと師匠は顔上げて叫ぶ
「8番負けろ!! 負けろよ!! 負けろって!!」
……他の馬を応援しようって言って人が……
師匠にかける言葉を失っていると実況の声色が一段階ぐらい高くっている。
「ちょっと伸びないかアパッチトマホーク! うちから11番コロデゾンが伸びてきたぞ。コロデゾンと一緒に3番タイヨーパッケージもやってきている。アパッチトマホークは伸びない! 1番ヨーキーヒーも差し脚を伸ばして!!」
え? 8番きてない?
「よっしゃーーー! 8番負けたぞこれ!!」
師匠はそう言ってガッツポーズをしている。
実況はゴール前の攻防伝える。
「11番コロデゾン1馬身ほどリードしてゴール!! 2着争いは微妙!3番タイヨーパッケージと1番ヨーキーヒー!! アパッチトマホーク敗れました!!」
師匠はその結果を見てうんうんと頷いている。
「なんですか師匠……負けろとか言うのやめようとか言っておいて自分が一番に負けろっていってたじゃないですか?」
そう言うとばつが悪そうな表情で答える師匠。
「……いやいや、8番があまりにも手応えがよくてさあ。あれあのままじゃ勝っちゃうぞ、なんてことになったら咄嗟に負けろって言葉が出ちゃった。あれは俺の本心じゃないから」
「負けろとかいうなという師匠かっこいいって思った自分を返してくださいよ」
ばつが悪そうにしていた師匠はふと何かに気が付いた表情を見せる。
「まあ。それはいいとして11番1着だったな」
「そうですね! 100円買ったんですよね」
俺がそう言うと師匠ははぁとため息をつく。
「100円買ってるじゃないんだよなあ。単勝23倍ついてんだよなあの11番」
「そ、そうなんですね」
すると師匠はちょっと語気を強めてこう言い放った。
「そうなんですねじゃないんだよ! もっと11番を強く推しなさいよ! そしたら1万円ぶち込んで回収率450%越えだぞ! 決勝ラウンド決まりみたいもんだったぞ!!」
俺も語気を強めて言い返す。
「だって師匠がここは混戦だ。資金があれば低いオッズの馬を買うことで期待値を拾いにいけばいいが1万円しかない今そういう買い方は危険。となれば最後のエリザベス女王杯に資金を回した方がいいっていってたじゃないですか! 一言一句まちがいないですよこれ!」
そう言うと師匠はとぼけた表情で顔を傾けながら口を開く。
「……とにかくだ。飯。飯にしようぜ! 飯食いながら作戦会議だ。そう腹が減ってるから圭一郎も怒りっぽいんだよそうだよなそう!」
そう言うとくるりと体の方向を変えた師匠であった。
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