第37話 馬体は抜けてよく見える

 師匠がいうようにここで抜けた馬がいない。


 18頭の中で一番すばやさが高いのは11番コロデゾン


 高いと言っても221で一番低いのが15番の173


 そして220から200の間に10頭がひしめいており、すばやさだけではとても判断できない。ちからやたいりょくどの数値も全部似たり寄ったり。


 ステータスを眺める師匠に弱気な感じで声を掛ける。


「師匠……どうしましょう?……」


「圭一郎ならどうする?」

 師匠はどこか自信ありげに質問を質問で返して来た。


 このピンチを打開するチャンスが師匠にはあるんじゃないか? ここは俺の見解をきいてそうじゃないこれはこいつだよと師匠らしくアピールするに違いない。


 ここでの俺は自信なくすばやさが一番高い11番を推すべき。


 すると師匠は首を横に振ってこういうに違いない


 あまいなあまいぞ圭一郎! ここで俺が推す馬はこれだと……


「えっとすばやさが一番高い11番でしょうかね?」


「ふーん11番ね」

 あっけらかんと師匠は答えた。


 ちょっと間があく……


 あれ……師匠ここでズバッとそうじゃないよって……いわ……


 師匠はスマホを弄って馬券対決の運営に買い目を送ってる様子。


「し、師匠もうしかしてもう運営に送ったんですか?」


「おうよ。馬券のスクショはネットで馬券を買って送っておいた」


「買い目は俺には言わないんですか?」


「ふふふ。買い目は配信で発表します!」


 なんかいつもの師匠の反応と違うのがきになるんですが……まあなんか自信ありげだし大丈夫かな……



 ――京都5R締め切り5分前


 師匠が口を開く。

「そろそろ5分前だな配信みるか」


 頷いてスマホを取り出し馬券対決の配信を見始める。


 ケンタとヨーコが画面に映る。


「さあ京都5R新馬戦が締め切り5分前を迎えました。ここを予想される予想家さんは21組! なんと21組の予想家さんがこの新馬戦を予想されています!」


 となりのヨーコさんが驚いたといような表情で口を開く


「東京で2レース、京都で1レースの新馬戦が行われるのですが、まさか京都にこんなに集中するとは」


 ケンタが頷きながら答える。


「今回は3つあるれーすのうち1つを選ばなければなりません。予想家さんたちがここに集中したのは理由があるでしょう。それでフォロワー10万人のパドック専門ヤマザキパドックさんの予想からみていきましょう」


 画面にパドック専門ヤマザキパドックの買い目という文字が現れ。


 8番アパッチトマホーク単勝5万円


 という文字が表示される。


 コメントも

<でたーヤマザキの強気勝負!!>

<新馬戦はヤマザキに限る回収率100%超えてるからな>

<ヤマザキには逆らえんしなあ。オッズ下がるからやめてくれ>


 ヨーコの声が聞こえてくる。

「ヤマザキパドックさんの理由を読み上げます。私の本命は8番のアパッチトマホーク。前評判通りの見栄えする馬体。トモの張りや歩様状態、2歳の馬の中では抜けています。長年パドックを見てきてこれほどの馬はちょっとみたことないかな。デビューはちょっと遅くなってしまいましたが、来年のクラシックが楽しみになる1頭。オッズは安いがこの馬で決まるのは仕方ない。ただこの馬が抜けて見えるが他に買いたい馬はいない。だから単勝のみ1点勝負でいかせてもらうとのことです」


「21組中18組が8番アパッチトマホークが本命ということで馬券を組み立ているようですね」


 ケンタがそう言うと画面いっぱいに小さい字で予想家名と買い目が表示されている。


 その買い目が表示されている中ケンタが口を開く。

「8番以外を本命あげられている方は3組。その3組の予想家の本命は5番、11番、15番と割れていますね」


「その中でえっと異世界馬券師さんの買い目がこれです」


 11番コロデゾン 単勝100円


 え……さっき異世界馬券師さんの買い目はこれですっていったよな……


 ケンタが丸い目で口を開く

「え……単勝100円ですか?」


 ヨーコさんは頷く。

「間違いなく100円です。馬券のスクショも100円でした。異世界馬券師さんの理由はこれです。独自のアルゴリズム解析を行った結果。圧倒的1番人気の8番の能力は抜けていない。この馬を本命にするのは目が節穴と言わざるを得ない。本来ならばこのレース見をして東京の新馬戦で勝負したいのだが我々の解析は現地でしかできない。今回涙を呑んで単勝100円のみ購入とした」


 スタジオの空気が重くなる


 配信コメントが一気に速く流れ始める。

<は?こいつヤマザキに喧嘩売ってんぞ!>

<うわーでたーただの逆張り野郎じゃんパドックも何も見えないのにこいつらこそ節穴だろう>

<はいはい炎上商法炎上商法>

<こいつ1R目で降着して外した奴だろ? おもしれーフォローしとこ>


 ……これは炎上? 炎上商法やってるって思われてる?


 シーンとしたスタジオの中ケンタが口を開く。

「そ、そうですか。異世界馬券師さんはそういう見解で……次へ行きましょう」


早々と打ち切られ次の予想家の予想を発表している。


「し、師匠……なんで単勝100円なんですか?」


「言った通りここは混戦だ。資金があれば低いオッズの馬を買うことで期待値を拾いにいけばいいが1万円しかない今そういう買い方は危険。となれば最後のエリザベス女王杯に資金を回した方がいい」


師匠はとにかくこのレースは買わないという選択をしたらしい。


「でもあのコメントはヤバくないですか? めっちゃ非難されてますよ」


「ヤマザキパドックだろ? 俺もフォローしてるもんあいつの新馬戦パドック結構当たるから参考にしてた。見る目ねぇなあと思って今フォロー解除したわ」

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