第36話 節穴さん
5レース新馬戦の馬達がパドックに入ってくる。
1番から順番に入ってきたのだが、すぐに8番の馬に目が行く。
俺もこう見えてこの1か月間、馬をいっぱい見てきた。ステータスの高い馬はこんな馬みたいなのは流石に分かる。この馬はステータスを見なくてももう強い。もうこれが勝つ。体から強いですオーラさえ出てる気がする。
前もって5億円の馬って聞かなくてもこの馬が強いって思えるほど。
「師匠、これステータスを見る間でもなく8番では?」
「そりゃ5億だし見映えはすんじゃないの?」
「俺も1か月ぐらいずっと馬見てきましたからね。さすがにあれは強いですよ」
そう言って自信満々で師匠に啖呵を切った。
それでも師匠は半信半疑と言った感じで
「いうねぇ圭一郎くん。俺は大したことないと思うけどなあ」
「それは師匠の願望ですよ」
「まあとにかくステータスをみてくれよ」
ちょっとイラッとしたような口調の師匠。
まあ見ない理由もないし1番からステータスを見始める。
1番アントニーキノイ
HP257
MP0
たいりょく152
ちから211
すばやさ214
まりょく0
みりょく54
ちりょく22
うん。大したことない、平凡な馬って感じだ。とても8番に勝てるほどのステータスじゃない。
2番……大したことない。
3番……大したことない。
こうしてステータスを見て行って8番の順番が来る。
8番アパッチトマホーク
HP263
MP0
たいりょく179
ちから213
すばやさ199
まりょく0
みりょく103
ちりょく28
……嘘だろ……
いやいやいやいや、5億の馬だし強いオーラが出てる馬だぞ……俺の力を疑うわけじゃないがもう1回だもう1回ステータスを見ないと……
目を擦ってもう一度8番の馬に向かってプロパティと呟く。
8番アパッチトマホーク
HP263
MP0
たいりょく179
ちから213
すばやさ199
まりょく0
みりょく103
ちりょく28
一緒だ。間違いない。アパッチトマホークのステータスはみりょく以外は大したことない……
というかこのみりょくの高さで馬がやたら強く見えてるのかも……
しかし……どうしよう師匠にステータス見なくても強いって言っちゃったよ……こう見えても1か月馬を見てきたから分かるとかいっちゃったよ……
と、とりあえず平静を装って全部の馬のステータスを入力しよう……
震える手を隠して全部の馬のステータスをノートPCに入力し終える。
「終わったか。ステータスを見せてくれ」
見せたくない……あんなこと言っちゃったし、正直見せたくない……
渋っていると師匠がちょっとイラッとした感じで口を開く。
「ん? どうした? 早くみせろよ」
もういいこうなりゃ開き直ろう!
「いやあ5億って円じゃなくてジンバブエドルでしたね」
そう言って師匠にノートPCを渡す。
は? というような表情見せた師匠はステータスを見て驚きの表情で口を開く
「これってマジ?」
自信満々に答える。
「2回見ましたけど間違いないですね」
師匠は腕を組んで遠くを見ながらこう言った。
「あれ? こう見えても1か月馬を見てきたんですあの馬は強いとか言ってる人いなかった?」
そう言われて顔に血が集まってくる感覚を覚える。
「いってませすん!」
「ませすん? そんな日本語はねぇんだよなあ」
「そんなにいじめないでくださいよー」
師匠とそんなやり取りをしているとすぐ隣にいる二人組の男達の会話が聞こえてきた。
「んーやっぱり8番で決まりだな。あのほれぼれする馬体を見てみろよ。やっぱり5億の馬は違うわ」
「やっぱりそう見える?」
「ああもちろん。他の馬なんて全部あの馬に比べたら牛だよ牛。馬は8番しかいねぇ」
「でたー関さんのパドック診断」
「まあ俺の相馬眼はプロ級だからさ。新馬戦は俺の予想に乗れば勝てるんだよなあ」
「馬券対決ってやってるからそれに出ればよかったのに、関さんなら優勝間違いないなし」
「SNSで予想公開してるやつらなんて胡散臭さすぎて俺には無理無理」
とりあえず、関さんは馬を見る目がないことだけは分かった。
師匠がヒソヒソと話しかけてくる。
「ほらあんな節穴さんがいるからあんなオッズになるんだよなあ5億だから強いってわけじゃないんだわ」
「そうですね……師匠でもこのレース、16頭ほとんど能力が変わらないんですが……」
「そう! 軸馬がいないんだ! それが問題だ」
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