第33話 京都1Rの結果

レースを見届けるためにメインスタンドにやってきたのだが、今日はG1があるせいか、1R目から人が多い。昨日の東京競馬場の3倍は人がいそう。


 スタート位置がスタンド前のためか芝生の向こう側の砂の上に馬達がくるくると輪になって歩いているのが見える。すると旗振りおじさんが歩いてきた。


 師匠がそれを見て話しかけてくる。

「さあ圭一郎。俺たちが新たなステージに上がる1日の始まりだ」


「そうですね。こんなところでつまづくわけにはいきませんしね」


 ゴンドラがせり上がり、おじさんが赤い旗を振る。録音されたファンファーレが流れる。


 ファンファーレが終わると拍手が起こる。


 場内の実況が聞こえてくる。

「みなさんおはようございます。秋晴れの空の下、今日はG1エリザベス女王杯が行われる京都競馬場。馬場状態は芝、ダートともに良。1レース目は2歳未勝利戦ダート1800メートルです。各馬順調にゲートインしていきます」


 メインスタンド前がスタート位置とはいえ芝コースを挟んでいるため、ちょっと遠いため、ターフビジョンでゲートインの様子をみていく。


 15番の馬が曳かれてゲートに入った瞬間。


 おおおという歓声というか驚きの声が聞こえ、場内が騒がしくなる。


 ターフビジョンには5番と書かれたゲートの中の馬が立ち上がっているのが見えた。驚きの声はこれのせいだ。


「師匠。大丈夫ですか? これ?」


「大丈夫。あのおっさんが落ち着いた時を見計らってボタンを押すから……おっさんを信じろ! それに5番は軸じゃねぇ!!」


「ですね!」


 そう5番がダメでも3番と15番が一着か二着になればいいだけ


 実況が正確な状況を伝える。

「これは5番サムライグッバイでしょうか? ゲート内で立ち上がっているようですが……」


 普通だったら15番が入ってすぐにスタートするのだが、ちょっとした間が空く。そして……


 5番の馬が落ち着いたのを見計らってガシャン! とゲートの扉が開く。


 おじさんの職人技というか流石プロ? 旗振ってるだけの人かと思ってました……


 場内実況が聞こえてくる。

「さあスタートしました。 5番サムライグッバイ好スタートです! 13番ワンダーアキュセラ大きくでおくれてしました。 9番エンジョイサプライズが出鞭をくれてハナをとりにいきます。サムライグッバイは控えて2番手、その外に10番……」


 え……5番めっちゃいいスタート……


 師匠が呟く。

「たまにいるんだよなあ立ち上がったりして目立って好スタート決めるやつ」


「そうなんですねぇ……」


 実況がレース様子を伝えている。


「現在先頭は9番エンジョイサプライズ。その2馬身ほど後方に5番サムライグッバイがいます。そしてその外に7番ブータンフォーラムがいます」


 とりあえず俺たちの15番はどこに?


「中団の中ほどに3番コウゲンプリティ、その外に15番ドーナッツパワーがいます」


 いた。先頭からちょっと離れた馬群の後ろの方にピンクの帽子をかぶった騎手の15番のゼッケンをつけた馬が。


「どうなんですか師匠?」


「まあ、悪くはないが前に行って欲しい感じはあるなあ。ペースも落ち着きそうだしそのまま逃げ展開も……」


 師匠がそういった瞬間。


 おおおおっと場内がどよめく。


 その異変を場内実況が伝える。

「15番ドーナッツパワーがまくって上がっていきます!」


 それを聞いた師匠はうんうんと頷く。


「いいぞ! ナイス判断! この馬の能力だったらここで仕掛けても勝てるはず! 古瀬こせいけーーー!!」


 そのまま15番は先頭に並びかけそのままコーナーに入っていく。


 場内の実況の声が響く。


「さあ4コーナーを抜けて直線に入っていきます! 先頭は15番ドーナッツパワー! 後ろからサムライグッバイも来ている。そしてその外から3番コウゲンプリティ!! さらに外7番ガイアメモリも来ている! ドーナッツパワー先頭!!」


 師匠と俺は同時に声をあげる。

「「そのまま!! そのまま!!」」


 場内の実況がゴール前の状況を伝える。

「残り100メートルだ! ドーナッツパワー先頭で1馬身ほどリードだが外からサムライグッバイ、その外からコウゲンプリティがやってきているぞ! ああっとこでサムライグッバイは失速! 内からガイアメモリも伸びてくる! ドーナッツパワー先頭だ!! ドーナッツパワー先頭でゴールイン!! 2着は3番コウゲンプリティ! 7番ガイアメモリは追い込みましたが届かずの3着! 少し離れまして5番サムライグッバイ4着……」


 勝った!! 勝った!! 2着も3番だし


「やりましたね師匠」


「……」

 何も言わず難しい顔をして師匠は掲示板を見ている。


 掲示板上には審議の文字がある。


 場内の実況がこう伝える。


「このレース審議です。お手持ちの勝ち馬投票券は勝ち馬が確定するまでお持ちになるようにお願いします」


 また場内の実況とは違う声でアナウンスが流れる。


「京都競馬第1レースは最後の直線コースで5番サムライグッバイ号、および3番コウゲンプリティ号の進路が狭くなったことについて審議しております。審議対象が上位入線しておりますのでご注意ください。繰り返します……」


 師匠が頭を抱え呟く。


「これ降着あるぞ……」


「え? 降着ってなんですか?」


「さっきの5番が変な失速しただろ? あれ15番が外によれて5番と3番の進路を邪魔したんだよ。もし進路の邪魔がなければ5番が勝っていたと判断されたら15番は降着される」


「え……それじゃ15番は1着なのに1着じゃなくなるってことですか?」


「そう……そして2着か3着の3番にも影響してるから下手したら4着になるかもしれん……」


 師匠とそんな話していると場内のアナウンスが流れる。


「これからパトロールフィルムを流します」

 ターフビジョンには正面から映し出されたさっきの直線の様子が映し出される。


 場内はその映像でどよめく。


 残り100メートルのあたりで15番が大きく5番の馬の方に寄っていき5番が3番に挟まれるような感じで失速。そのまま15番は3番にもぶつかって3番の馬がよろめいてた……


 そして10分ほど待っていると場内アナウンスが流れてくる。

「お待たせいたしました。京都競馬第1レースの審議についてお知らせいたします。第1位に入線した15番ドーナッツパワー号は最後の直線で外側に斜行し、5番サムライグッバイ号および3番コウゲンプリティ号の走行を妨害しました。その走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着できたと認めたため、15番ドーナッツパワー号は4着に降着いたします」


 そのアナウンスのあと15、3、7、5と点滅していた掲示板が3、7、5、15へと変わり点滅から点灯し審議から確定の二文字に変わった……

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