第29話 複勝転がし
――土曜日朝。
東京競馬場で師匠を待つ。
この1週間ダラダラと有意義に過ごすことができた。この土日が仕事だと思えばいい。
いつものボサボサヘアーにジャージ、サンダルスタイルの師匠がやってくる。
「おはよう圭一郎君」
「おはようございます師匠」
師匠は機嫌よくニコニコとした表情でこういった。
「じゃじゃん。ここでクイズ。俺の全財産を当てろ!」
「え……」
「え? じゃなくて俺の全財産いくらでしょーか?」
えっと……こんなに機嫌がいいってことはもしかしてめっちゃ増えた? 増えてるに違いない。先週は150万は持ってたはずということは……300万?……いやこの間の600万は超えてるんじゃないか? ということは800万! 師匠の全財産は800万だ!!
「は、はっぴゃくまん?」
俺がそういうと師匠は両手を掲げ、はああと一息をつく。
「甘いねぇ圭一郎くん。甘いよマックスコーヒーよりずーっと甘い」
「そ、そうか1000万ですね! さすが師匠150万を1000万にするなんて」
師匠は首を横に振る。
「0だ。俺の全財産は0。まあ正確にいうと返済したキャッシングの枠も使ったからマイナス5万?」
……え……いったいこの人はなにを言ってるんだ……先週の150万は
「へ? 0? 先週150万ありましたよね……」
「そら6帯を一週間で溶かす俺よ?1.5帯なんぞ1日だ1日」
「……」
開いた口が塞がらないとはまさにこのこと……
「圭一郎くん……ってバイクのステータスとか見れないよね?」
「見れるわけでないでしょ……っていういかなんで競馬以外やってるんですか?」
「元STAPの木林くんが頭でくればなあ……」
そう言って遠くを見る師匠。
「いやいや木林くんじゃないですよ! どうするんですか今日の資金は!」
ポケットに手を突っ込む師匠するとぐしゃぐしゃの千円札が出てくる。
「あーあったよかったよかった。0じゃなかった全財産。千円だった。今日の軍資金は千円。この千円を十万にするからへーきへーき」
「いやいや入場料どうするんですか」
「それは圭一郎くんに奢ってもらうってことでおなしゃす」
おなしゃすじゃねーし……
仕方なく師匠に200円を渡し東京競馬場に入っていく。
◆◇◆
パドックを歩く馬のステータスをノートPCに入力をする。そのデータを師匠がみて◎などの印をつけてSNSに自信度ともに投稿をするこれが競馬場についてやること。
早速パドックを見て師匠に各馬のステータスを見せる。
そのステータスをさらっとみて師匠が口を開く。
「1R目の本命は5番だな」
「ですね。すばやさ、たいりょく、ちからとも他の馬より一回りぐらい高いですね」
「じゃあ5番の複勝を1000円買う」
「え? 単勝じゃないんですか? 単勝2.5倍ぐらいですよ?」
「ああ。複勝でいいよ。この1000円なくなったら今日終わりだし。それに今日は俺、複勝転がしでいこうと思ってるんだよね」
「複勝転がし?」
「この馬の複勝が今1.2から1.6倍まあ堅くきまれば1000円が1200円になって返ってくる。そして次のレースでまた複勝を今度は1200円買う。それを繰り返してお金を増やすのが複勝転がしだ」
「なるほど……」
「複勝は当たる確率が高いから単勝転がしより現実的なんだよ」
師匠から現実的とかいう言葉きけるとは思わなかったが……
「じゃあ自分も今日は師匠と同じように複勝転がしでいきます」
「俺が金持ってたら単勝で買うのになあ」
「うーん……やっぱり師匠とおなじようにします」
「ということで複勝1000円購入」
ささっとマークシートに記入してくしゃくしゃの千円を両手で挟んで皺を伸ばしながら券売機に突っ込む。
自分は
――1R終了。
「あぶねぇぇ……」
「よーし!」
師匠はそういって頷く。
5番はその能力をいかんなく発揮し最初から先頭に立っていたのだが飛ばしすぎたのか、なんか最後に疲れて3番の馬が来て2着になった。
「1着と3着が人気薄だからこれはつくぞ」
そういって上機嫌な師匠。
「よかった……単勝にしなくて」
競馬場の中心にあるでっかいモニターに確定の文字がでて5番複勝150円と表示されている。
1万円が1万5千円になり師匠の1千円は千五百円になった。
「この千五百円を全部また複勝に賭けるってわけよ」
こうやって俺の力を使って確実に3着以内に入れそうな馬を見つけだす。能力が均衡している場合は買わない。
これを今日1日繰り返し俺は途中でリタイアし15万、師匠は12万ほどになった。
「この買い方もいいですね」
「そうだろ? 金がないときは複勝転がしに限る。まあ俺はあんまりやらんけどな。これ外れた時の徒労感が半端ないんだよ」
「たしかに積み上げたものが一瞬で無くなるわけですからね……」
「じゃあ、飯いこうぜ!」
師匠は上機嫌でそう言った。
「ちょっと待ってください師匠。5万円ください」
俺がそう言うと眉をひそめる師匠。
「あ? なんでよ? おめぇに借金してねぇぞ?」
「いやいや今朝200円渡したでしょその金利です」
「は? おまふざけんな」
「ってのは冗談ですよ。だって師匠来週の馬券対決のお金なくなるでしょ? 京都までいかなきゃいけないのに。その旅費と対決参加費の半分2万5千円です。もう半分は自分が出すんで」
「えー?なんでよ大丈夫。大丈夫、来週はお金あるから」
おどけて見せる師匠に俺は真顔で答える。
「ダメです。師匠にお金を持たせてはいけない」
そういうと渋々5万円を出しそれを受け取った。
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