第19話 先入観

「さあ、菊花賞のパドックが始まるぞ……」

 そう言って息を呑む師匠。緊張しているようにも見える。


「それにしても人が多いですね……ちょっと嫌になっちゃいますよこれじゃ」

 ほとんど身動きがとれないほど人で溢れかえっている。


「お前、何テンション下がってんの? G1前にテンションが下がるやつなんていねぇぇよなあ。俺はもうドキドキしてるぞ」


「は、はあ……」

 馬が曳かれてパドックに入ってくる。その瞬間、空気ピリッとしたような感じで、カシャカシャとシャッターの音とカポカポと馬が歩く音が響く。


「師匠……この馬達ってステータス見なくても雰囲気が違いますね」


「ああ。G1に出走できるだけでも馬の世界では超エリートだからな」


「なるほど……」


 早速プロパティと呟く


 1番の馬のステータスは……と


 オールドプレイ

 HP422

 MP0


 たいりょく422

 ちから451

 すばやさ452

 まりょく0

 みりょく62

 ちりょく34


 んーみんなが熱い視線を送るほど能力が高いとは思えないけどなあ……


 2番の馬は

 イタズラダイスキ 


 HP493

 MP0


 たいりょく428

 ちから530

 すばやさ463

 まりょく0

 みりょく55

 ちりょく21


 ちから高いけど他は普通かな……


 ……3番の馬はと……


 チャンピオンベルト

 HP453

 MP0


 たいりょく601

 ちから480

 すばやさ543

 まりょく0

 みりょく57

 ちりょく32


 あ……この馬能力高い……とりあえず今まで見た馬の中で一番総合力が高いかも。たいりょくなんて600超えてるし。


 4番の馬の能力は特に目立ったこともなく、5番の馬は……2番の馬よりちょっと高いかなというぐらい。そして14番の馬の能力を見る。


 ストラトヴァリチェ

 HP380

 MP0


 たいりょく421

 ちから602

 すばやさ556

 まりょく0

 みりょく63

 ちりょく24


 強ーい! 勝つのこの馬じゃない? 絶対この馬だよ。


 そして全18頭の能力を入力して師匠に見せる。


「ここは14番ですね。総合力が違いますよ」

 俺がそういうと師匠も頷く。


「ああ。ストラトヴァリチェはステータスを見る前からその力が違うと思ってた……菊花賞買うならこの馬からだとな。クラシック戦線賑わせてきたがいまいち届かなかったこの馬が最後の1冠を取るはずいやとってくれるはず。ただ距離適性の問題はあるが能力の違いで押し切れるはず」


「距離適性って何ですか?」


「ああ。この馬の父親は主に中距離馬を多く輩出してる。この馬も適性は中距離と思われててしかも気性の問題で長距離は厳しいと不安視されてて人気を落として2番人気。これは絶好だぞ圭一郎!」


「え? このレースって長距離なんですか?」


「ああ。長距離だが」


 もう一度PCに入力した馬を上から見直す。なんだろうこの違和感これじゃない感じ……


「自分で言い出しておいて変えるのもなんですが……本命は3番にしませんか?」


「え? 3番?! なんでだよ!! 能力一番高いのストラトヴァリチェだろ。本命はストラトヴァリチェだ」


「3番の馬は一番たいりょくが高いんすよ。たいりょくはスタミナだし……」


「3番は逃げ馬で競りかけられると弱いんだ。菊花賞を逃げ切った馬なんてここ20年いない。だからスタミナが高くてもキツイ」


「待ってください。師匠はこの馬と決め打ちしてから別の視点が持てないんじゃないですか? 俺は3番だと思います」


 師匠は明らかにムッとした表情でこう言い放つ。

「何を偉そうに競馬のけの字知らない奴が偉そうに言ってんじゃねぇよ」


「だからです! 先入観なく馬が見えるから……ここはステータス重視でたいりょくが高い馬を選んだ方がいいと思うんです!」

 そうここで引いちゃダメなよう気がして……


 眉間に皺をよせた師匠は傾けボソッと呟く。

「……素人の勘か俺の勘か……」


 そしてスマホを取り出し入力を開始した。

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