第17話 異世界馬券師を信じろ

「菊花賞って何時からですか?」

 パドックに向かう途中で師匠に話しかける。


「3時40分発走だからパドックは3時頃からだな」


 スマホの時計を見る。12時20分と表示されている。


「まだ2時間ぐらいあるんですけど……」


「6万人いるんだぞ! 早いうちに取らないと見ることもままならねぇぞ」


「た、確かに……」


 みんな同じことを考えているようでパドックはやたら人が多い。なんとか一望できる場所を確保することができた。


 ちょうどパドックには馬が現れて人に曳かれて歩き始めている。


 師匠が呟く。

「今ちょうど6Rのパドックが始まったな。3歳以上1勝クラスかとりあえずここから予想するぞ。とりあえず4頭ピックアップして本命、対抗、穴の順で印をつけてSNSに乗せる」


「なるほど……分かりました」

 俺は背負っていたリュックサックからノートパソコンを取り出す。


「お! いいもの持ってんな」


「はい。エクセルを使ってデータベースを作ろうかと思いまして」


 プロパティと呟き。馬の名前と年齢、ステータスをセルに記入していく。


 18頭すべての記入が終わりそれを師匠に見せる。


 師匠は顎を撫でながら口を開く。

「ふむふむ……ゴロゴロファイターが総合的に見て一番強いか……」


「そうですねすばやさ値が421、たいりょくが324、ちからが402ですねHPも特に問題ないですね」


「ダート1800だからちょうどいい感じだな。よし本命は15番ゴロゴロファイターだな。二番手はと……」


「これなんかどうです?」


 ノートパソコンの液晶を指差す。


 サファイアグラス HP421 すばやさ 385 ちから434 たいりょく301……


「いい馬だな……騎手もラメールを乗せて勝負気配とみた」


「ですよね!」

 師匠にそう言ってもらえるとなんだか競馬の達人になってきた気分。


 残り2頭を決めると師匠はスマホを取り出し何やら入力をしている。


「これで良し」

 師匠は投稿をし終えた様子。


 異世界馬券師のアカウントから投稿されたメッセージを見てみる。


 中央競馬 京都6R

 ◎15 ゴロゴロファイター

 〇6 サファイアグラス

 ▲9 オモチダイスキマン

 △11 サスケ


 15番は独自のアルゴリズムで解析した結果このメンバーの中ではスピード、パワー、スタミナの総合力上位。6番は総合力では15番に劣るがパワーがメンバー最上位。

 この2頭に続くのが9番と11番。

 買い目は馬連6-15 3連単15-6-9,11の三点勝負!!

 ここは人気所だが逆らわず小点数に資金を集中して勝負!!


 異世界馬券師を信じろ!!


 #中央競馬 

 #京都6R


 投稿されたメッセージはこのように記入されていた。


 師匠の方をみて口を開く。

「なんですか……この『異世界馬券師を信じろ!』って……」


「かっこいいだろそれ。こっちに来る途中考えてたんだ最後の決め台詞ってやつ?」


 決め台詞って……信じろって言われて信じられる人なんていねぇよ……胡散臭ささ全開だよな……


「ん? なんか不満か?」


「なんか胡散臭くないかなあって……誰もこんな予想信じませんよ……」


 俺がそういうと師匠呆れ顔をでこう言った。

「予想が当たりさえすりゃいいんだよ! 結果がでりゃどんな文言いれようが信じてついてくるんだ」


「た、確かにそうですけど……」


 馬達に騎手がまたがりパドックから出ていく。


「それじゃ俺は馬券を買ってくるから、お前はここに居ろ」


「俺も馬券買いたいんですけど。ここまでの交通費を稼がないと」


「場所離れると取られちゃうだろ?」


「た、確かに……」


 師匠は馬券を買いに行って帰ってきて、交代で俺も馬券を買いに行く。


 マークシートを前にして悩む……


 何を買えばいいのか聞くの忘れてた……ってあれか予想の通りに買えばいいか。


 ということでスマホを取り出し異世界馬券師のメッセージを見る。


 すると師匠の馬券がアップされている。


 馬連6-15 3万円。3連単15→6→9 11 各1万円


 うわあ5万も入れてる……


 俺はいくらにしようかな……


 馬連が1万円、3連単5千円にづつってところかな。昨日4万円プラスになったから半分の2万円で勝負しよう。


 そして馬券を購入し師匠の元に戻る。


「もどってきたな。そろそろレースが始まるぞ」

 そういって師匠はスマホを取り出し地面に置いてネット配信の競馬中継を見始める。


 俺も師匠の横に座ってそれを眺める。


 赤い旗が振られファンファーレが流れると馬達がゲートに入っていく。


 場内の実況とスマホから流れる音声に数秒のラグがあり少し気持ち悪い感じ。


 場内の実況に耳を傾ける。


「スタートしました!! 15番ゴロゴロファイター好スタート! ハナを切っていきます。つづいて9番オモチダイスキマンが続く……1番人気6番サファイアグラスはダッシュが付かない!」


 え……


 師匠の方を見ると師匠も頭を抱えている。


 実況は続く。

「先頭は15番ゴロゴロファイター続いてオモチダイスキマン。そのすぐ後ろにグリードマッスル……」


 おいおい6番どこだよ。どこにいんだよ……


 実況が各馬の位置取りを先頭から順に伝えていくそして……」


「そして後ろから2番目にサファイアグラス」


 ……終わった……俺の2万円サヨナラ……


 くっそーーー6番は俺が推した馬だ……別の馬を推しとけばよかった……バカバカ俺のバカ!!


「4コーナーを回って先頭はゴロゴロファイター! 後ろからオモチダイスキマン詰めてくるが、ゴロゴロファイターが突き放す。おおっと外の方からサファイアグラスが来ている! 凄い脚だ!! しかしゴロゴロファイターには届かない! 3着は追い込んだサスケがオモチダイスキマンを交わしたようにみえますがどうでしょうか!」


 え……もしかして……師匠を見ると頭を抱えていた両手をそのまま掲げて俺の方を向いて感情を爆発させたような感じで口を開く。


「やった! やったぞ!!! 当たった当たった! 3着まで完璧だ!!」


 胸の奥から空気がいっきに口からでる。


「ああああああああああああああああああよかったあああああああああ」


 師匠は手をあげハイタッチを求めている。


 それに応じるように手を掲げパチンと手を合わせる。

「異世界馬券師デビュー戦はパーフェクト馬券だったな!」


「ですね!」


 異世界馬券師の予想メッセージを見るといいねが1件ついていた。

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