第10話 新馬戦

「新馬戦ってなんですか?」

 パドックに行く途中に師匠に話しかけると師匠は歩きながら答える。


「新馬戦ってのは馬のデビュー戦だ。今まで走ったことない馬達が走るんだ」


「なんでそれだと俺の力が一番役立つんですか?」


 師匠は歩くのをやめ俺の方を向いて答える。

「レースに走ったことがないってことはその馬がどれぐらいの力があるのか分からないってことだ」


「あーそうかみんなは今までの走ったレースからどれが勝つとか予想してるんだ」


 そういうと師匠は大きく頷く。

「そういうことだ。走ったことがある馬はそのレースとかからある程度、予想ができる。競馬新聞なんかにはその情報が書かれているんだが新馬戦はそれがない」


「だけど俺の力は……」


「そう圭一郎の力は馬の能力を見ることができる、新馬戦は一勝もできない馬もG1を勝つような名馬もみんな一緒に走るレースだからな」


 俺は首をかしげる


「どうした?」


「いや、それだとみんなどうやって予想してるのかなって……そんなレースみんな買わないんじゃないですか?」


「地方競馬は新馬には能力試験っていう試走がある。そのタイムと調教の追い切り、血統、馬の体型、騎手、有力な騎手が乗ってるってことはその馬に期待してるってことだからな」


「な、なるほど……」

 師匠が何をいってるのかは分からないが、とりあえず予想をする指標のようなものはあるらしい。


「ただ能力試験なんて本気で走らないし、調教は抜群によくても本番にダメなのもいる。だから新馬戦は難しいんだ。新馬戦は買わないって人もいる」


 ということでパドックで流れる馬を見る。


「これだけなんですか?」

 今までのレースと違って5頭ほどしかパドックに馬がいない。


「地方の新馬戦だから頭数がすくないんだ。それに1頭強いのがいるしな」

 師匠が掲示板を指差す。


 そこには3アイドルアイドル 1.2と書かれている。


「あの馬は能力試験でもほかの馬より1秒近く速く走ってるし、騎手も南関リーディング上位の騎手だ。そしてきゅう舎の成績もいい。ということはあの馬がみんなにはよく見えてるってことだ。どうだ圭一郎あの馬の能力は?」


「プロパティ」

 と呟くとステータスが表示される。


 アイドルアイドル

 HP180

 MP0


 たいりょく186

 ちから201

 すばやさ183

 まりょく0

 みりょく48

 ちりょく21


 この見えた能力を師匠に伝える。


「おおお、やっぱりな。さっきのC3クラスの古馬より能力が高いのか。これで決まりだな。単勝1.2倍かみんな見る目あるな」

 師匠はこれで決まりというような表情をしている。


 4番の馬の能力を伝えたあと5番の馬の能力が目に飛び込んでくる。


 アルアルバイト

 HP180

 MP0


 たいりょく186

 ちから221

 すばやさ193

 まりょく0

 みりょく45

 ちりょく31


 え?……3番の馬より5番の馬の方がステータス高いんだけど……


「師匠3番の馬より5番の馬の方が……」


「え?まじ?」


 師匠に5番の馬の能力を伝える。


「……まじか……能試も全然たいしたことないし、騎手やきゅう舎もパッとしないそして最低の5番人気……これはもろた……もろたで……」


 突然、師匠は身体を震わせながら急に関西弁で話す。


「で、馬券は5番の単勝ですか?」


 師匠は目を細めてこう言った。

「いや……ここは馬単でいこう」


「うまたん? 馬の舌ですか? 美味しいんですか?」


 師匠は呆れ顔で答える。

「牛タンじゃねぇんだから。馬単ってのは1着、2着を当てる馬券。単勝よりオッズが良くなる」


「なるほど師匠は5番が1着、3番が2着になるからその馬券を買えということですか」


「そういうこと、そうと決まれば買いに行くぞ」


 マークシートに馬単5-3、1200円と記入。券売機にお金をいれマークシートをいれると馬券が出てくる。


 馬単 5-3と1200円と馬券には書かれている。


 師匠が俺に小さい声で話しかけてくる。

「圭一郎、ここが勝負所だ。お前も全財産突っ込んだんだろ? 俺も全財産突っ込んだ。これが来たら俺は帯だ」


「帯? 帯ってなんですか?」


 師匠は慌てた様子で俺を静止する

「声がでかいって! 俺たちが買ったのがバレたらオッズが下がるだろ?」


「は、はい」


 師匠は再び小声で俺に話しかけてくる。

「帯ってのは100万だ。100万の束に帯封がついてるだろ。それを帯っていうんだ」


「え……これが当たったら師匠は100万になるってことですか?」


「ああ。そうだ……俺の持ってる全財産を入れたからな……もし来なかったら俺と圭一郎はオケラだ一緒に歩いて帰ろうぜ」


 そうだった……これ外れたら俺、歩いて帰らなくちゃいけないの忘れてた……


 赤い旗をふる人が台に乗って旗を振り馬達がゲートの中に入っていく……

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