第9話 昼飯

「飯、いこう。飯」

 払い戻しを終えた俺に師匠が言った。


「次のレースは買わなくていいんですか?」


 ちらっと新聞に目を落とした師匠はこういった。

「次はいいや難しいし、この次の次が圭一郎の実力を見せるレースだ」


「そうなんですね。じゃあ飯にしましょうか……って……俺1200円しかないんすけど……」


 そういうと師匠はニヤリと笑ってこう言った

「圭一郎のおかげで今日3万プラスだから奢ってやるよ飯ぐらい」


 師匠についていくと競馬場の屋外フードコートに連れて行かれる。朝、通った時に目には入っていたが昼時ということもあってか焼き鳥のたれが焼けるいい匂いが漂ってくる。


 人が多く席を空いてる席を探すのも一苦労で確保すると師匠が立ち並ぶ店の方に歩いていく。数分待つとを師匠がテーブルに着く。


「浦和に来たら鶏くわねぇとな」

 そう言って山盛り焼き鳥と缶ビール2本をドンとテーブルに置く。


「遠慮すんなよ」

 師匠はそういうとブシュッと缶ビールを開け、焼き鳥を串をつまみ口の中に入れる。


 頷き、師匠に倣ってビールを飲んで焼き鳥の串を一本とって口に入れる。


 甘辛い垂れが絡んで鶏もほどよい弾力があって美味い! こりゃ名物にもなるわというレベルの美味さ。


「美味いっすね。焼き鳥」


「そりゃそうだ。浦和に来たら鶏を食えって言ったろ?」

 師匠は自信満々で言った。


「昼間に飲むお酒も美味しいし……なんか分かった気がします」


「なにが?」


「競馬場いる人って赤鉛筆を耳にさしてワンカップ飲んでるイメージが……こんな美味いもんあったら酒も飲みたくなりますよね」


「……偏見ありすぎだろ」


「しょうがないです。こんなにも美味しいんだから癖になりますよ」


 師匠の視線が俺の下の方にむくと不思議そうな顔して話しかけてくる

「そういや旅行で競馬場にきたんか? 馬券の買い方も知らない初心者なのに」


 ???師匠は意味の分からないことたまにいう。


「なんで旅行なんすか? 旅行してるように見えます? まあうちまあ遠いけど電車で1時間ぐらいのとこですし」


 師匠はアタッシュケースを指差す。


「旅行してるようにしか見えないんだよな。そのカバンって旅行でもないのに何で持ち歩くもんなの?」


 ……あ……そういやそうだ。持ってきたアタッシュケース俺……お金が持ち帰れなくなったらどうしようって……


 ビールの所為ではなく顔が熱くなり、頬から火が飛び出そうになる。


「こ、これは……今日は馬券外れないからお金持って帰るの大変になるかなって……」


 師匠は一瞬きょとんした表情をすると「ぎゃはははははははは」と大笑いをし俺の肩を叩く。


「圭一郎、お前最高だな! 最高にロックだよ。気に入った! 金が持って帰れなくなるからってぎゃははははは」


 師匠はそう言って腹を抱えて笑っている。


「だって、馬の能力見れたら絶対勝てるって思って……」


 そういうと師匠は笑うのをやめ真剣な表情で話しかけてくる。

「そういや、圭一郎の能力はどうやって手に入れたんだ? それが一番の謎だわ」


 そこから俺がこの能力を持った経緯を話す。


 ――5分後


 全てを聞いた師匠は感心したような表情で口を開く。

「へぇぇ夢の世界ね……」


「まあ俺は夢って思ってないですけどね。このスキルもあるし」


「まあそうだよな……俺も行ってみてぇなそんな世界……でもその世界にギャンブルはねぇんだろ?」


「多分、ないと思います」


「ならいいや」

 とニコっと笑って答えた。


「師匠ってギャンブル依存症ですね」


「確かにな」

 そういうとまたニコっと笑った。


 買ってきた焼き鳥、ビールを飲み干すとちょうどレースが終わり次のレースのパドックが始まろうとしている。

「さあ次のレースだ。次のレースは圭一郎の力が一番発揮されるレースだ。ここで大勝ちを狙うぞ」


「そうなんですね。頑張ります! でどんなレースなんですか?」


「新馬戦」

 師匠はそういうとパドックの方に歩いて行った。

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