第7話 競馬の師匠
「俺の名前は確かに富田だ。そんな嘘ついても仕方ないし、実際お前さん1万負けてるんだからはステータスが見えるってのはほんとっぽいな」
富田さんはそうはいったもののまだ信じられないというような雰囲気。
「はい」と返事をすると同時に頷く。
「どんな感じで見えるんだ?」
「HPとMPとたいりょく、すばやさ、ちから、まりょく、みりょく、かしこさですね」
「ふーん。RPGみたいだな。それでみりょくとまりょくは関係ないとして、すばやさとたいりょくとちからがどんな風に競馬に作用してんの?」
「……すばやさしか意識してなかったです……」
少し考える素振りをして富田さんはブツブツと一人呟いている。
「すばやさが馬のスピードはある。あとはたいりょくとちからがレースにどう影響するかだな次のレース一回見してパドックで全部の数字を抜き出せてみるか……こいつがほんとに見えるってなら面白いしな……」
「富田さん聞こえてますよ?」
「あーすまん。すまん。次のレースはパドックで馬を見てどのステータスが競馬にどう影響しようか見てみよう。それで次の4レース目で勝負しよう」
……勝負って……俺の残金……
「……そうはしたいんですが……自分残り300円しか……」
「っぷ! お前1万しかもってなくて1万あの馬の単勝にぶち込んだのか?」
「だって絶対1番になると思ってたんですもん……」
「まあ、俺もそう思ったらぶち込むからな。まあお前さんの買い方は間違ってないよ。さあパドック行こ」
ということで馬が曳かれて回っている。
俺は富田さんに回ってる馬のステータスを伝える。富田さんは競馬新聞にその数字を書いている。
「ふん、ふん。分かった。たいりょくはその馬の距離適性まあ平たく言えばスタミナみたいな感じだな。ちからは瞬発力やダート適正、道悪適正って感じか。かしこさは気性に関係しそうだな」
「へぇぇぇ凄いですね。なんでそれでわかるんですか?」
富田さんは新聞を広げて説明してくれる。
「一番たいりょくが高かった馬は長い距離が得意な血統だし、この馬自体も長い距離が得意。ちからが高いこの馬は後方から追い込む瞬発力がまあまあ高い。ちから低いこの馬は芝ではまあまあ実績があるけどダートはあんまりよくない」
「へぇぇ。凄いですね富田さん……」
「いや、凄いのはお前さんの能力だよ。その能力があれば一番強い馬が分かる。勝てる確率が高くなる」
「ということは全部の能力の平均値が高い馬を買えば当たるってことですか?」
そういうと富田さんは首を横に振る。
「それだけじゃダメだ。あとはその日の馬の調子、騎手の腕。トラックバイアス、それらを合わせて考えないとダメ」
「……そんなの俺には無理です……やっぱり競馬で儲けるのは難しいんですね……」
300円しかないし……歩いて帰るしかないか……富田さんに電車賃借りる? いや返すのがめんどくさいし……もう競馬はやめよう。
普通に仕事して普通に生活しよう……
その場を後にしようと踵を返すと……
富田さんが俺に話しかけてくる。
「お前さんいや……名前を教えろ」
「小川です。小川圭一郎」
「圭一郎、よく聞け俺たちは馬の実際の能力は新聞を見たり、パドックで馬の形や血統を見て推測するしかない。圭一郎のその力は馬の能力が実際に分かる。それは大きな武器だ」
「大きな武器だなんて……」
「圭一郎は馬の能力を見る。俺がその他もろもろその推測をする。それで馬券を取ろう」
「え! いいんですか?!」
「もちろん。このレース見をすると言ったが、まだ時間はある5番の単勝に圭一郎の300円をぶち込め」
「は、はい!」
そして言われたとおりに5番の単勝に財布の中の全財産300円を入れた。
このお金がなくなると……もう飲み物すら買えない……ここから歩いて帰るには6時間はかかりそう。
飲み物も買えないのはきつい。やっぱりやめとけばよかった……
「と、富田さん……俺この300円なくなると帰るのもきついんですけど……」
「大丈夫。5番ステルノキンシはすばやさは3番手だが、たいりょくは2番手、ちからは3番手。まあ平均的だが、この馬は先行力がある。今のトラックバイアスは先行有利。その上に騎手もリーディング上位の竹川だ。5番で間違いない。ただ単勝2.0倍だから600円にしからなんけどな」
「そ、そうなんですね……」
富田さん何を言ってんのかさっぱり分かんないが、とにかく300円は600円になるらしい……ちなみに富田さんは1万円買っていた。
そしてレースが始まり、富田さんの言う通りに5番の馬は2番手からコーナーで先頭に立つと1着でゴールを駆け抜けた。
「師匠! ありがとございます!!」
もう富田さんのことは師匠と呼ぶしかない。
「あ? 師匠? 俺のこと?」
「はい。富田さんは俺の競馬の師匠です!」
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