第5話 単勝128倍

 ――翌朝。


 寝る前に浦和競馬場の行き方は大体調べた。


 ただ俺は今までギャンブルというものをやったことがない。パチンコすらない。当然馬券なんて買ったこともない。


 競馬場のイメージはワンカップを持って新聞片手に赤鉛筆を耳に挟んで叫んでるおっさんがわんさかいるイメージ。


 南浦和駅から無料送迎バスが出ているらしいのでそれに乗っていけば迷うことはないはず。


 ということでいつもの出勤時間より少し遅くに家を出て競馬場に向かった。


 鑑定眼が動物につかえるかどうか? それはすでに試してある。カラスに向かって鑑定眼を使ってみたらちゃんとステータスが表示されていた。


 そりゃそうだ魔物のステータスも表示される。というか魔物のステータスを見るためのスキルと言ってもいい。


 これで俺の億万長者は約束されたも同然。今日競馬場から帰るころには、このアタッシュケースいっぱいの現金を持って帰ることになるだろう。


 昨日のうちに気がついて良かった。手ぶらで行ったら持ち帰るのに苦労するところだった。


 電車を降り、バスに乗り浦和競馬場に到着する。


 そのまま人の流れにのって、前の人についていく感じで競馬場の中に入っていく。


 あれ? 今日って平日だよな?


 そう平日なのに人が多い。赤鉛筆をさしたおっさんばっかりかと思ったけど、そうでもない。ネクタイをして仕事をさぼってるサボリーマンや、若いカップルの姿なんかもある。


 場末感はあんまり感じない。


 きょろきょろとしていると突然、音が流れだしアナウンサーの競馬実況が始まった。 おらあああ!! させえええ!! と叫び声が聞こえる。


 こええ……やっぱり競馬場こええ……


 で、でもこの力を使ってお金を稼ぐにはこれしかない


 人が群がっているところがあり、そこに行ってみるするとTVで見た馬を曳いた人が歩いてるところだった。みんな紙を片手にゼッケンをつけた馬に熱い視線を送っている。


 多分、ここを周ってるってる馬が次走る馬なんだよな……

 ここにいる人達は鑑定眼も使えないのに品定めしてるんだな。


 俺が見せてやろうこれが本物の品定めだ!


 ということで1番の馬が目の前に来たタイミングで『プロパティ』と呟く。


 サガノファイター


 HP240

 MP0


 たいりょく154

 ちから162

 すばやさ148

 まりょく0

 みりょく50

 ちりょく15


 よしよしちゃんと表示された。この12頭の中から素早さが一番早い馬を選べばいんだな。


 次々と目の前を流れていく馬をチェックしスマホのメモに『すばやさ』を記入していく。

 1、148、2、152、3、147……という感じで。


 12頭全部のすばやさ書き出して比較してみる。


 7、173


 7番が173で素早さが抜けてる。このレース勝つのは7で間違いない。俺の財布の中にある1万円全額を7に賭けよう。絶対当たるんだし。


 ということで券売機の前に立ってタッチスクリーンを触るが何の反応もない。


 ……馬券ってどうやって買うの?……


 もう一度タッチスクリーンを触るが何の反応もない。


 え……ここで買うんじゃないの? 後ろに人も並んでるし……絶対ここで買うんだよな……


 後ろ振り返えると40代ぐらいのボサボサ頭でトレーナーにジャージ姿のいかにも競馬で借金してますみたいな身なり人と目が合う。


「す、すいません……馬券ってどうやって買うんですか? 7番の馬を買いたいんですけど……」


「お金を先にいれて、マークシートを入れるそれでいいよ」


「……マークシート?」


「分かった。ちょっとどいて」


「は、はい……」


 その人は慣れた手つきで馬券を購入する。


「俺についてきて」


「はい」


 その人は券売機の近くにある紙をとって俺に渡す。


「これがマークシート」


 渡された紙にはいろいろなことが書いてあってどこに何を書けばいいのかさっぱり分かんない。


「す、すいません記入の仕方が分からないんですけど」


「分かった。分かった。俺が記入してあげるから、見てて」


「はい」


 男の人はマークシートに鉛筆でぐりぐりと印をつけていく。

「何の馬券買うの?」


「7が1着になるやつで」


「単勝?」


「単勝ってなんですか?」


「単勝ってのは勝った馬が1着なったら勝ち、2着、3着関係なしにね」


「じゃあそれで」


「ほい、ほい」


「でいくら入れるの?」


「1万円」


「はい、はい1万……っておい! おまえあの7番のオッズ知ってんのか?」

 急にその人は驚きの表情を見せる。


「オッズ?」


「そうだオッズだよ。7番は単勝オッズ128倍だぞ。1万買って1着になると128万になるってことだ!」


「はい」


「だからさ。来ないってことなんだよ7番が1着になる確率は滅茶苦茶に低いってこと。あんた初心者だろ? 勘だけで勝てるほど甘くないよ」


「大丈夫ですよ。あの馬が一番速いのは間違いないです」


「……まあいいや俺の金じゃないし。7番の単勝に1万ね」


「はい。ありがとうございます。お兄さんも7番の馬買った方がいいですよ」


「いや、俺は買わねぇよ」


 お兄さんに教わった通りにして券売機で7番の単勝1万円分購入した。

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