第3話 鑑定眼だけってま?
え……治らない?
そ、そっか自分には使えないんじゃないってことだよな。エルラインでは自分にも使えていたが……まあここはエルラインじゃないからな仕方ない。
かと言って人を傷つける訳にもいかないし……
自宅近くの最寄り駅に電車がつきホームに降り立つ。
「とりあえず、自分には使えないから他人で試すしかないんだけど……どうしようか……」
などと呟きながら改札を抜ける。
まあ魔法、スキルは使えるんだから慌てる必要はない。
「えーん。えーん。いたいよう」
と子供の声が聞こえる。
声の方向を向くと転んだのか膝を擦りむいた2,3歳ぐらいの女児の姿があり、母親らしき人物が抱き上げてなだめている。
「痛いの痛いのとんでけー」
「いたい。いたいよー」
よっぽど痛いのか女児は泣き止まず声は大きくなる。
これは……千載一遇のナイスチャンス。
ゴッドハンド小川の力を見せるときだ。
そうここで俺が魔法の力を使って、子どもの擦り傷を一瞬で治す。するとそれを見ていた母親が奇跡だなんて言い出す。一瞬であの擦り傷を治すなんて奇跡以外のなんでもない。
すると母親がSNSに投稿してバズる。もしかしたらTVになんかも出演するかもしれない。そしたら俺の元には治してほしい患者が一杯やってくる。
はい億万長者の出来上がり。
すっとその子供の前に立つ。
母親が怪訝そうな顔で俺を見ているのが分かる。
「なんでしょうか?」
「お嬢ちゃん痛いんだな。お兄ちゃんがその傷治してあげるよ」
「え?」
母親はポカーンとしている。
「任せてください。僕はこうやって手をかざせば傷を治せる力があるんです」
「は、はあ?」
「お嬢ちゃん。いたいねぇ。でもお兄ちゃんが治してあげるからね」
手を女児にかざす。そして『ヒール』と呟く。
すると女児の身体は光に包まれ……ず。そのまま泣き止むことはない。
「あ、あれ?……おかしいな……もう一度……ヒール!!」
女児の身体は光に包まれることはなく。傷口もそのまんま。
「え?」
「離れてください!!」
母親が叫ぶ。
「い、いえ……すいません……」
こ、これはヤバい……とにかく逃げよう……
全力疾走でその場から駆け出す。そして駅構内から出て2,3分走り、公園にやってくる辺りを見回すと誰も追ってきていない。
「はあはあはあ」
息を切らしながら公園のベンチに座る。
なんで……なんでヒールが使えない? 俺は魔法が使えるはずなのに……あれじゃただの不審者じゃねぇか……暫くあの駅使うのやめとこう……
しかしこれで一つ分かったことがある。俺はヒールの魔法は使えないということ……他の、他の魔法なら使えるはずだ!!
立ち上がると腕を真っすぐ伸ばし『ファイヤ』と呟く。当然のように言葉だけがむなしく響く。
火の魔法も使えないということか……
「ウォーター! ブリザード! ウィンドォ!! サンダー……」
魔法全部唱えてみた。
どれも当たることなくむなしく言葉だけが響く。
……ま……じ……
ヤバい……魔法全然使えない……どうしよう……いやまて……鑑定眼は使えたんだ鑑定眼は……あ!! そうか!! 鑑定眼はスキル!! スキルなんだ使えるのは!! 俺は何という勘違いをしていたんだ。魔法は使えなくて当たり前。俺が使えるのはスキルだったんだ!!
そうと分かれば簡単なこと。「ストロング」と呟く。
これは自身にバフを掛けるスキル。このスキルを使って強くなって格闘家にでもなればいい。普通の人間なら一撃で倒せるほどの力だ。
見た目はガリヒョロの俺がこんな力を持っているとはだれも思わないだろう。
いきなりボクシングジムに道場破りにいってもいいが、とりあえず試しにこのベンチを二つに叩き割ってみよう。
拳を握り、振り上げてからベンチの中心をめがけて振り下ろす。
バーーーンという激しい音立てるベンチ。
拳に激しい痛みが走る。
「いってぇぇぇぇぇぇ!!!」
拳がうっすらと赤くなり、血がにじんでいる。肝心のベンチは真っ二つに割れることはなく、そのままの姿で鎮座している。
え……力つよくなってない?
もしかして……あの一瞬だけ? スキル使えたのって……
いやいやいやいやまてまてまて
落ち着こう……もう一度プロパティを使ってみればいい……
俺のことを遠巻きにして眺めている主婦の軍団がいる。
『プロパティ』
その主婦を眺めながら呟く。
その主婦たちのステータスが表示される。
ほら!!! 鑑定眼は使える!!! スキルは使えるんだ!!!
いやまて……スキルが使えるというより俺が使えるのは鑑定眼だけ? このただステータスが見えるだけのスキル鑑定眼が使えるだけ?
このスキルを使ってどうやって生活すんの? 人事部で面接するぐらいしか使えないんじゃ……
ヤバい……仕事辞めちゃった……
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