第2話 ゴッドハンド小川

こ、これは……


「あ!? 何見てんの?」

 クリヤマアズミと表示されている女子社員は眉間にしわを寄せ不機嫌、不愉快さを全開にアピールしている。 

「す、すいません……」


 すぐに顔を伏せコピー機を操作しているフリをする。


 ……あの表示……あれは見覚えがある。というか見覚えしかない。俺が夢の世界で使えていたスキルがった。そのスキルを使うときは『プロパティ』と呟くこと……


 そうプロパティと呟けば俺のスキル『鑑定眼』が発動しステータスが表示される。


 ステータスが表示されたということは……


 あれは夢じゃない!!


 いや、まて朝、魔法は使えなかったが……もしかして時間が経ったことで使えるようになったとか?


 顔を上げてクリヤマアズミの方をみるともうスキルの効果は切れており、ステータスの表示はされていない。


 もう1回鑑定眼を使ってみるか。


「アズミちゃん今晩空いてる?」


「空いてますよぉ」


「じゃあ飯でもどう?」


 クリヤマアズミと談笑している木下の姿がある。


 とりあえず近くにいるその二人の方を見ながら「プロパティ……」と呟く。


 すると木下とクリヤマアズミに被せるように文字が現れる。


 キノシタ シンイチ

 HP83

 MP0


 たいりょく35

 ちから32

 すばやさ20

 まりょく0

 みりょく25

 ちりょく10


 うわ……木下ってちりょく10しかないんだ


 まあバカだろうなとは思ってたけど、本当にバカだった。こうやって数値でみるとほんとにわかりやすいな……


 ……というか木下の分析なんてどうでもいい。


 スキル鑑定眼が使えるということはやはり俺は……………うおおおお! 俺は勇者だあああ!!


 思わず叫びそうなったが、すんでのところで止める。


 コピーなんてどうでもいいや。仕事なんてしなくてもへーきへーき。


 なんせ俺は勇者。スキルも魔法も使える俺はこの世界では最強。


 さあ仕事なんて辞めて家に帰るか。金を稼ぐ方法なんてこの力を使えばいくらでもある。


 コピー機から離れ自分のデスクに向かう。


 奥にすわる課長と目が合う。


「コピー早く渡せ」


「自分、仕事辞めるんでそれじゃ」


「は? 何言ってんだお前? 早くコピーを渡せ」


 それを無視して荷物をまとめる。


「おい。コピーは!!」


 課長の怒声がフロアに響く。


「はあ 誰に向かって言ってんの? 俺は勇者だぞ!」


 課長はぽかんとした顔をして、シーンと静まり返るフロア



 荷物をまとめた俺はペコんと頭を下げリュックサックをもって職場を後にする。


 家に向かう電車に乗り込む。スマホには会社から電話がかかってきている。会社からの電話を着信拒否しておく。


 さあこれからどうしようか……スキルや魔法を使ってこの世界で稼ぐ方法を考えないといけないな。


 スマホのメモを機能を開き、そのメモにエルラインで使用していた魔法やスキルを打ち込んでいく。


 えっと俺が使えた魔法は……


 攻撃魔法各種。火、水、風、氷などの属性を使った魔法。主に敵を倒すために使う魔法。


 この魔法を使って何をするか……殺し屋でもやるか? 確かに魔法を使う殺し屋なんていないから捕まることもないだろう…… 


 いやいやちょっとまて俺は勇者だし殺し屋なんてやりたくない。


 次は自分を強化するスキル。


 このスキルを使えば攻撃力が上がったり防御力が上がったり、自身のステータスを強化することができる。


 このスキルを使って格闘家や陸上選手? まあ候補の一つにでもしとくか。


 あと使える魔法は敵にデバフを掛ける魔法。


 この世界に敵はいないし、デバフを掛ける相手もいないから却下だな。まあ自分の身に危険が迫った時なんかデバフを掛ける場面はあるかもしれんけど。


 あ……そうだ回復魔法。回復魔法があったわ。医者になる? いや今更医学部に行って医者になるとかはめんどくさい。もぐりの医者になるか、手かざしで治す宗教家とか?


 いいねぇぇこれは人の役に立つ上に治療費とかお布施とかいってお金も貰える!! そうだこれにしよう。名前はゴッドハンド小川。


 俺って天才だわ。これで俺も億万長者の仲間入りだあああああ。


 まあいきなり人に使うのは気が引ける。まずは自分で試してみよう。リュックサックにつけてあるバッジの安全ピンで左の人差し指の先を突く。


 チクリとした痛みが走る。


 人差し指の先に小さな真っ赤な血の玉ができている。


 その指先を見ながら『ヒール』と呟く。


 エルラインの世界であれば傷口はあっという間にふさがり痛みも何も感じないはず。



 指先にできた血の玉は消えることはなく少しだけ大きくなった。

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