異世界馬券師~ステータスが見えちゃうから競馬なんてイージーです~
ぽいづん
第1話 夢かよ
目の前には、真っ赤な口を開けたどでかい竜の姿がある。その大きさは怪獣映画にでてくる怪獣そのもの。
そう山のような大きさ。
俺はその竜に向かって剣先を向ける。俺の後ろには魔法使いや戦士、格闘家、神官からなる仲間がいる。
「あれが竜の王バハムート……」
仲間の一人が呟く。
別の仲間が俺の方を向いてこういった
「大丈夫……勇者ケイならやれる……」
俺はコクリと頷く。そしてバハムートの方を向いて呟く。
「プロパティ」
そう呟くとバハムートに被せるように文字が現れる。
名前バハムート
HP230000
MP120000
たいりょく200000
ちから150000
すばやさ5000
まりょく50000
みりょく5000
ちりょく10000
俺のスキルの一つである鑑定眼を使ったのだ。この力を使えばステータスを見ることができる。
これがバハムートのステータス……
正直いって滅茶苦茶つよい。しかし俺たちも3年間で遥かに強くなった。今なら竜の王バハムートすらも倒せるはず!
「ケイやれるよな?」
筋骨隆々で大きな斧を持った男が俺に向かってそう言った。
コクリと頷き、剣を両手で持ち構える。
そして目の前の巨大な敵、バハムートに向かって走り出す。
バハムートは俺たちの方に向かって真っ赤な口から火球を繰り出す。その大きさは乗用車程度はある。
その火球にもひるまずに俺はバハムートに向かって走る。
火球が俺にぶつかる直前に、手に持った聖剣デュランダルから光が溢れだし、俺の身体を包みこむ。
その光の中にいると火球でダメージを受けない。
そして
「うおおおおおお!!」
俺の手に持った聖剣デュランダルがバハムートの心臓を貫いた。
その瞬間
「あれ?……ここは……」
懐かしい景色が目の前に広がっていた。
その景色は正確に言えば3年前まで俺が住んでいた部屋。
ビビビビビビと静寂を切り裂く音が流れる。
「わああああ!!」
その音にびっくりしながら音がする方に顔を向けると長方形の黒い物が時間を表示しながら音を発していた。
スマホ……
その音はスマホから流れてきたアラームの音。
スマホの画面には20××年10月21日(水)6:00と表示されていた。
「え……この日って……」
この日はなんとなく見覚えがある。スマホの画面に表示されていた日付、それは俺が3年前に旅立った日の翌日だと思う。
なにぶん三年も前のことなのではっきりとした日にちは覚えてはないが10月だったという記憶はある。
ということは……ちょっとまて……あれが夢? 嘘だろ……信じられない……今もはっきりと覚えているあの世界のことは……
俺は3年前、この部屋で寝た。起きると俺はエルラインという世界にいた。その世界で俺は勇者として召喚された。
その世界では魔法や色々なスキルは使うことができ、3年間、技を磨き、エルライン最強の竜王バハムートを倒すところまで追い詰めた。いや倒したはず。
そして俺はエルラインで英雄として生涯を送るつもりだった……
まさかあれが夢?
今も思い出すエルラインの世界のことを草原の匂いや火山の溶岩の熱さ。そして数々の魔物との闘い、今も身体に傷が残っているはず……
この傷はカレンを守ったときにできたんだよな……回復魔法がギリギリ間に合ったおかげで
さっと胸に手を当てる……傷跡は……ない。
「嘘だろ……あれが夢だったなんて……」
そうだ! 魔法だ!魔法なら使えるはず。
ちょっと焦り気味に手を水平に伸ばし呟く。
「ファイヤ」
超初級の火の魔法だ。俺がエルラインに召喚されてすぐ使うことができた魔法……
俺がエルラインでこの魔法を使ったときは大きな火の玉ができたんだっけか……そして近くにいた騎士のアルフレイが驚いてたな……
そんなことを思い出す。
あ……だめだ。ここでファイヤ使ったら火事になる!!
一瞬そんなことが頭をよぎったが手のひらからは火の玉がでることもなく……
「そうだよね……そうだと思った……」
俺は超リアルな夢を見ていただけなのか?
えっとこっからどうすればいいんだっけ……思い出さないと……そうだ仕事にいく準備をしないと……
「はあ……」
ため息一つついて、洗面所に行き鏡で自分の顔を見る。
「俺はケイ……エルラインの巫女に選ばれし勇者……じゃなくて……小川圭一郎。26歳……派遣社員
ゲームのやりすぎで変な夢を見た男……」
夢とはいえ3年経った感覚のなかで朝のルーチンを思い出し、朝食は摂る気分になれず仕事に行く支度をし自宅アパートを後にした。
――1時間後
久しぶりの満員電車に揺られ、気持ち悪くなりながらもなんとか職場のあるビルにたどり着く。
「おはようございます……」
挨拶をしながら職場の席に座り、辺りを見回すと職場の同僚や上司の顔が懐かしく見え、隣に座る陽キャ全開の木下の顔を見る。
「ん?俺の顔になんかついてる?」
「い、いや」
「じゃあジロジロみんなよ」
「う、うん」
デスクの下で拳を握りしめる……エルラインだったこいつぶっ飛ばしてやんのに……
「小川君!!」
奥の机にふんぞり返って座っている偉そうな男、奥田課長……
「はい」
奥田課長のところまでいく。
「この書類、コピーしてこい。ちゃんと裏表両面印刷で20部な」
「は、はい……」
紙をもってコピー機の前に立つ……
「あ……両面印刷ってどうやってやるんだっけ……」
俺の後ろを隣のコピー機
「す、すいません……両面印刷ってどうやってやるんでしたっけ?」
声を掛けられた女子社員は少しに眉間にしわを寄せ答える。
「プロパティを開いて印刷設定」
なんのかざりっけもなく女子社員はそういう。
「アズミちゃん!」
と木下が声を掛ける。
その女子社員の眉間しわは一気に解消され
「あ、木下さん」
と明るい声で答える。
そんなやりとりを聞きながら「プロティ、プロパティ」呟きながらコピー機を触る。
タッチパネルのディスプレイのどこにプロパティがあるか分からない……
顔を上げるとさっきの女子社員が視界に飛び込んでくる。
その女子社員から吹き出しようなものと一緒に文字が表示されていた。
クリヤマアズミ
HP52
MP0
たいりょく18
ちから15
すばやさ14
まりょく0
みりょく23
ちりょく18
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