5日目 仲直りしました

「あー、くそ。あんな事やって事務所に顔出せねぇよ」


 昨日からずっとこんな感じで、喧嘩、と言うか胸ぐらを掴んでしまった自分に自己嫌悪している。


 時計を見ると4時をさしていた。普段ならもう事務所に着いている時間だが、俺はまだ家を出ていない。


「明るい感じで行ったら誤魔化せるかな? ……無理だよなぁ。こんな事になってしまったら惚れさせるどころじゃねぇよ」


 頭から布団を被りベッドに横になり現実逃避をする。


 ピーンポーン。


 突然チャイムが鳴った。誰だろう。……まあどうでもいいか。どうせ俺はあと3日で死ぬんだし。


「無視だ無視」


 俺は居留守を決め込む事にした。


 ピーンポーンピンポンピンポン………


 と向こうも帰るつもりがないようでチャイムを連打しているようだ。


「あーー!!! うっせぇな! 分かったよ! 出るよ!」


 人がナイーブになってる時に誰だよ!

 俺はどかどかと地面を鳴らしながら玄関に向かった。


「何回も鳴らさなくても聞こえてるよ!」


 俺はバンっとドアを開ける。


「どうも。やっぱり居たんですね」


 するとそこにはつい先日喧嘩したばかりの霊歌ちゃんが立っていた。


「れ、霊歌ちゃん。なんでここに」


「住所は貴方を調査した時に確認済みです」


 俺が困惑していると澄ました顔でそう言った。そういう意味で聞いたわけじゃないんだけどな。

 ってか住所を調べたって探偵みたいだな。


「いや、そういう事じゃなくて……何しにここへ?」


「…………謝りに来ました。昨日はすみませんでした」


 突然頭を下げられてビックリした。


「……俺の方こそ悪かった。ごめん」


 俺もすぐに頭を下げた。


「ではこれでお互い様という事にしましょう」


 笑顔でそう言われて俺も頷いて答えた。


「ああ、そうしよう。よし! じゃあこれから仲直りを祝して、ご飯でも行く?」


「……少し早いですがいいですね。行きましょう」


 それから俺達はファミレスに移動した。ここならジュースも飲み放題だし、好きな物も食べられるしな。


「それで霊歌ちゃんはあれからどうしたの?」


 気になっていた質問をした。あれから小崎はどうなったんだろう。


「もう一度依頼者に相談しました。彼を呪い殺すのかどうかを……」


「それで依頼人はなんて言ったの?」


「一度考え直してみる。また決まったら連絡すると言われました」


「そっか。なら大丈夫だろ」


 多分依頼人も、もう殺してくれなんて依頼しない筈だ。一度考え直すことができたならきっと大丈夫だろう。


「そう、ですかね?」


「多分ね、本当に殺したかったらその場でお願いしてるよ。きっと詐欺にあった時は殺してやるほど憎かったんだろうね。でも最後に一度確認されて考え直せたんじゃないかな」


「………」


 俺が喋り終えると霊歌ちゃんがすごい驚いた顔をしていた。


「俺おかしなこといった?」


「いえ、そこまで考えれるなんて意外というかなんて言えばいいんでしょうね」


「本当に俺のことなんだと思ってんだよ!?」


 料理の時といい麗香ちゃんからどう見られているのか知りたい。


「……変人ですかね?」


 少し悩んだ顔をした後そう言われた。


「それ本人に言う?」


「褒めてますから」


 いや、どう捉えたら褒められてるってなるんだよ。


「変人は褒め言葉じゃないからな!」


「ふふっ、それと貴方の依頼人にも昨日本当に呪い殺すのか確認をしました」


 少し笑った後、霊歌ちゃんは真剣な顔になりそう言った。


「!? それでソイツはなんていったんだ?」


 予想外のことに驚きつつも続きを促す。


「そのまま殺してくれ、と言われました」


 くそ、なんだよそれ。俺は何もしてないぞ。


「……そっか」


「はい」


「………」


「………」


 空気が重い。……ダメだった物は仕方ない。切り替えないとな。


「じゃあ霊歌ちゃんは俺のことどれくらい好きになった!?」


 俺がそう質問すると霊歌ちゃんが指で輪っかを作った。


「まる?」


「いえ、もっとよく見てください」


 言われた通りよくみると指と指の間に少しのスペースがあった。


「…………2ミリくらいスペースが空いているけどこれってどういうこと?」


 すると霊歌ちゃんは困った顔になった。


「2ミリくらい好きになったということですね」


「素直に好きになってくれた事を言ってくれるのは嬉しいけど2ミリかよ! ってか4日も一緒にいて2ミリだけってどういうことだよ!?」


「ようやく自分の魅力の無さに気づいたようですね、これじゃあ私を惚れさせるなんて夢のまた夢ですね」


「辛辣! ここまで毒吐かれたのは初めてだよ……くそぅやけ食いしてやる!」


「まるで失恋した女の子ですね」


「誰のせいでそうなったと思ってんの!?」


 俺は目の前にあるスパゲッティを一心不乱に食べた。


「ふふっ」


 そんな俺の事を見て霊歌ちゃんが笑っている。


「まだ食べるぞー!」


「私にも注文させてください」


 俺達はタブレットにさらなる注文をするのだった。



 惚れさせる事はまだできてないみたいだけど仲直りができてよかった。


 

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