4日目 喧嘩しちゃいました
事務所に着くと霊歌ちゃんが黒髪になっていた。
「おはよう! 霊歌ちゃんイメチェンでもしたの?」
戸惑いつつも挨拶をする。
「何を言っているんですか?」
霊歌ちゃんは本当に何を言っているのかわからないと言う表情を浮かべている。
俺だけ霊歌ちゃんの髪の色が違って見えてるのか?
「髪だよ髪。銀色から黒色にしたの?」
俺は自分の髪の毛を少し摘んでそう言った。
「あー、今日は調査があるので目立たない色にしているんですよ」
「……調査?」
今日も何か依頼が入っているのか?
「はい、呪ってほしい人がいると言われたのでその人が悪人かどうか調査しに行くんです」
と霊歌ちゃんは何食わぬ顔をして言い放った。
……俺の時も調査したとか言ってたな。
「………」
俺は言葉がでない。なんと言えばいいかわからないからだ。
「別に嫌ならこなくてもいいですよ。貴方にとっては辛い事になるかもしれませんし」
そう言われるが、行かないと言う選択肢はない。霊歌ちゃんがどんな調査をしているのかも気になるし。
「いや、行くよ」
「……そうですか。なら行きましょうか」
と言って霊歌ちゃんは外に出た。俺もそれを追うように外に出るのだった。
「ここで対象が出てくるまで待機ですね」
ビルの前で立ち止まったかと思うと霊歌ちゃんはそう言った。そして近くにあったベンチに腰をかけてスマホを見始めた。
俺も霊歌ちゃんの横に腰を下ろした。
「それで今回のターゲットはどんな人なんだ?」
「まだ話していませんでしたね。今回の対象の名前は小崎翔太。27歳の結婚詐欺師です。容姿はこれを見てください」
と言ってスマホを見せてきた。ビシッとしていて誠実そうなイケメンだ。
「ふーん。結婚詐欺ねぇ」
「何か含みのある言い方ですね」
「ちょっと気になる事があるんだけどそれって依頼者は何人居たの?」
俺の質問に対して不思議そうな顔をする霊歌ちゃん。
「1人ですが、それがなにか?」
「それって単純に振られた逆恨みでとかじゃないの?」
少し言葉が強くなってしまう。
そもそも俺がこんな事になってるのは俺の知り合いが嘘の報告を霊歌ちゃんにしたせいだ。
あまり良くない事なのだろうが、その依頼人を疑ってしまう。
「なんですか? 同情しているんですか?」
霊歌ちゃんの言い草に少しカチンときてしまう。
それに仮にこの人が結婚詐欺をしていたとしても殺すのはやりすぎだと思う。
「いや、同情とかって訳じゃないけど……仮にこの人が結婚詐欺をしていたとしても殺すってのはやりすぎじゃない?」
「でしたらこの人にこれから騙されていく人達はどうするんですか!?」
と急に声を荒げた霊歌ちゃんにびっくりする。
「だったら証拠を持って警察に………ってあの人じゃないか?」
ヒートアップしそうになったところに今回のターゲットがビルから出てきた。
「………ふぅ。この話は一度忘れましょう。すこし距離を空けてあの人を追いましょう」
俺は霊歌ちゃんの言葉に頷いた。
尾行を始めて少しすると小崎はお洒落なカフェに入っていった。
「私達も入りましょう」
「うん」
俺と霊歌ちゃんは小崎の後を追うように店に入った。
店員さんに案内された場所はちょうど小崎の隣の席だった。
「ちょうどいい席だね」
俺は霊歌ちゃんだけに聞こえるくらいの声でそう呟いた。
「なるべく自然にしましょう」
俺達は他愛もない会話をしつつ小崎の会話に耳を澄ました。
内容は簡単に言うと親が事故に遭って手術する為のお金が足りない。もしよければ結婚した後に返すからお金を貸してくれとの事だった。
結局女性はお金を渡す約束をしていた。
「あれは流石に黒だな」
小崎と女性が出て行ったのを見送ってから俺はそう言った。
「そうですね、依頼者の時とお金を借りる口実も一緒です」
「……黒だと分かったけど霊歌ちゃんはどうするの?」
「今日の夜帰ってから依頼者に確認をとって呪いをかけます」
やっぱりか。
「なあ、本当に殺す必要あるのか? 警察に通報したらいいんじゃないか? 証拠だってあるんだからさ!」
いくら結婚詐欺を働いたからと言っても殺すのはやりすぎだ。
「なんなんですか? 同情してるんですか? もしかしてここで呪いを掛けるのをやめさせたら自分も解呪して貰えるとか思ってるんですか?」
「は? 今はそんな話してないだろ。ここでアイツを呪い殺すのはやり過ぎだって言ってるんだよ」
霊歌ちゃんの言い方にムカついて言葉が強くなる。
「偽善者ぶらないでください! そんな事言って本当は自分が助かりたいだけなんでしょ!?」
俺は霊歌ちゃんの胸ぐらを掴んだ。
「今はそんな話してないだろうが! じゃあお前の言うようにアイツを殺したとして依頼者とお前自身はどうなんだよ? クズでも人を殺せば人殺しだ。呪いで殺したからってその罪がなくなるわけじゃない! その内絶対後悔するぞお前も、依頼人も!」
俺が言葉を言い終えると霊歌ちゃんは涙目になっていた。
「そんなこと分かってますよ」
霊歌ちゃんは消え入りそうな小さな声でそう呟いた。
そこで我に帰ってハッとする。周りの人達がこっちを見ているのだ。
「ッチ、俺がここの会計は持つから。じゃあな」
バツが悪くなり、俺はその場を逃げるように去った。
車に乗り込みため息を吐く。
「やっちまったー……これからどうしよう?」
俺の質問に答えてくれる者はいない。
そして悶々とした気持ちを抱えながら俺は家に帰るのだった。
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