3日目 除霊しました
「そろそろ行くか」
俺は待ち合わせ時間の午後4時の10分前に店に着くように家を出た。
車で店の前を通ると霊歌ちゃんが立っていた。
「おーい! 霊歌ちゃーん! こっちこっち!」
俺は助手席側の窓を開けて霊歌ちゃんに手を振った。
俺に気づいた麗香ちゃんはこっちを見つけると何も言わずに小走りで走ってきた。
「失礼します」
そう言って車に入った彼女は制服だった。まあ当然と言えば当然か。
「今日は除霊するんだったよね?」
「はい、目的地はここでお願いします」
と言って住所を見せてきたので、カーナビにその住所を登録して俺は車を発進させた。
「走行中ですが、今回の依頼の確認をしても大丈夫ですか?」
助手席で麗香ちゃんがそう言った。
「うん、お願いするよ」
「はい、依頼内容は悪霊の除霊です。依頼者はアパートに住む27歳の女性、職業は会社員です」
へー、意外としっかりしてるんだな。なんか探偵みたいだ。
「なんかあれだね。テレビの特番とかでやってそうな設定だね」
「不謹慎ですよ」
「ごめんごめん、1つ気になったんだけど除霊って呪術師の仕事なの?」
「基本的には違いますね。お祓いや除霊は神社、またはお寺の仕事ですが、取り憑いた霊が呪いに近い物に成り果てる事があります」
あー、なるほど。目には目をってやつか。
「じゃあ今回がそのケースだったと」
「はい、今回最初に依頼を受けた神社の方から手に負えないという事で私に依頼が来ました」
「へー、神社とかの神に仕える人達と呪いをかける呪術師は仲悪いのかと思ってたけど、逆なんだ」
俺のイメージと少し違った。
「そうですね、多くの呪術師は仏教や神道に通ずる者と同じ祖先から生まれたと言われています」
「ふーん」
なんか壮絶すぎてピンとこないな。
「聞いてきた割には興味がなさそうですね」
とジト目で睨まれた。
「いやぁ、なんか話のスケールがデカすぎてピンとこないや」
「まあ別に構いませんけど……話を戻しますね。今回の除霊は私1人で行うので貴方は車にいてくれて大丈夫ですよ」
タクシー代わりかよ。
……でも除霊には興味があるな。除霊とか体験したことないし。
ちょっとお願いしてみるか。
「なぁ、霊歌ちゃん」
「わかりました着いてくるんですね。では一応このお札を渡しておきます」
俺が頼もうとしたら声をかぶせてきた。しかもなんで内容がわかってるんだよ。
「なんで分かったんだって顔してますね。短い期間ですが一緒にいれば分かりますよ。貴方自分の気になったことがあったら突っ込んでいくタイプの人でしょ」
そこまで俺の事をわかっているのか。
「もしかし」
もしかして惚れてる? って聞こうとしたが遮られた。
「惚れてないので安心してください」
……高校生にここまで見透かされる俺って……なんか悲しくなってきたな。
そんな話をしているとナビが目的地に到着しました。と言った。
「着いたようですね」
「だね」
俺は近くにあった有料駐車場に車を停める。
「……何も感じないな?」
目的地のビルはどこにでもあるビルって感じがする。外から見た感じだが何も感じない。
「貴方に呪術師が向いていないと言う事は分かりました。外にいるのにかなり強い呪いの力を感じます」
横を見ると、霊歌ちゃんの手が震えていた。
「……本当に」
「いくよ、どちらにせよあと4日で死ぬんなら色々な経験したいからね」
と俺はさっきの意趣返しのつもりで声をかぶせてやった。
すると霊歌ちゃんは緊張が解れたのか少し笑った。
「性格悪いですね」
少し笑ってから霊歌ちゃんは歩き始めた。俺は霊歌ちゃんの初めての笑顔に戸惑いつつも霊歌ちゃんの後ろを追った。
「……ここですね」
霊歌ちゃんはとある部屋の前で歩みを止めた。
「この部屋か……」
ここまで来たが特に何も感じない。昔から霊感ゼロだったし仕方ないか。
霊歌ちゃんは持っていた鞄をゴソゴソし始めて鍵を取り出した。
「えっ!? なんで鍵持ってんの?」
「依頼者から借りました。……ふぅ、では行きますよ」
……鍵を借りてるって事は依頼者は今は別のところにいるのか。
それだけ危険ってことか。
「よし、俺はいつでもいいぞ」
俺は霊歌ちゃんからもらった札を握りしめる。
ガチャリと言う音がして、鍵が開いた霊歌ちゃんがドアを開けると部屋の奥で何かが倒れる音がした。
「マジかよ」
こう言う現象の事をポルターガイストっていうんだっけ?
「貴方は私の後ろをついてきてください」
そう言うと霊歌ちゃんは俺の返事を待たずに歩き始めた。
「分かった」
俺は返事をして後ろを歩き始めた。
ミシミシと床が軋む音がする。不気味に感じつつもリビングに着いた。
綺麗な部屋だ。
しばらくこの家の持ち主は帰ってないのか生活感はあまりない。
「ん? これは?」
少し辺りを見渡すとグラスが横になっていた。
これがさっき落ちたのか。
俺が元に戻そうと屈んだ瞬間霊歌ちゃんが叫んだ。
「危ない!」
それと同時に黒いモヤのような物が体に当たった。俺はその衝撃で壁に打ちつけられる。
「いつっ!?」
「ーーーーーー」
霊歌ちゃんを見ると何か小さな声で呟いている。すると周りにふよふよと札が浮かび始めた。
「―――――っは!」
唱え終わり黒いモヤに向けて札を放つが全て避けられて黒いモヤが霊歌ちゃんに襲いかかった。
「っっっ!?!?」
霊歌ちゃんは声にならならない悲鳴をあげた。
「ふざっけんな!」
気づいたら俺の体は動いていた。霊歌ちゃんに纏わりついている黒いモヤを引き剥がそうとするが実体がなく掴めない。
「……っ!? 私、は大丈夫、ですか、ら」
どう見ても大丈夫じゃない。俺がなんとかしないと。
そういえばこの札……
俺は札を手の平に乗せて黒いモヤに掴みかかった。
するとさっきまでは掴めなかったが、掴めるようになった。
「今だ!」
俺は霊歌ちゃんからモヤを引き剥がして暴れるモヤを離さないように掴む。
「ーーーーーーーーはっ!」
さっきと同じように札を呪い向けて投げつける。今度は俺が捕まえているため呪いも逃げることができずに札に吸い込まれていった。
「はぁ、はぁ、お、終わった?」
俺が霊歌ちゃんに確認をした。
「はい、依頼は終了です」
「よかったー!」
俺はその場で大の字に倒れ込んだ。どうにかなって本当によかった。
「……もうここに用はありません。帰りましょう」
霊歌ちゃんは札を拾ってクールにそう言った。
……プロだな。
「…………」
「…………」
帰りの車だが空気が重い。
霊歌ちゃんが全然話そうとしないのだ。俺が声をかけても心ここにあらずだし、どうしたのだろう。
「あの……なんで助けたんですか?」
霊歌ちゃんが突然そう言った。
黒いモヤに纏わりつかれた時の話だろうか?
「……なんでだろう? なんか気づいたら体に勝手に?」
本当なんでだろう。
「はぁ、馬鹿ですか? あそこで私が死んでいたら呪いが解かれる可能性とか考えなかったんですか?」
ため息を吐いたと思ったらそんな事を言った。
「えっ、助けなかったら俺の呪い解かれてたの?」
「いえ、寧ろ術者が死んだ事によって強力になります」
あぶねー。助けてよかったー。
「その顔を見るにその事は知らなかったんですね」
「当たり前だろ! こちとら一般人だぞ!」
「……そう、ですか。あの、ここで下ろしてください」
ここで下ろす? ここからだと店までまだ距離があるぞ。
「ここでいいの?」
「はい、この後少し用事がありますので、ここでお願いします」
「分かった」
俺は車を道の脇に停める。
「……その、今日はありがとうございました。明日も来るんでしたら4時に事務所にきてください」
霊歌ちゃんは頭を下げて車を降りた。
「おう、どういたしまして! それと了解! じゃあまた明日!」
俺は霊歌ちゃんに手を振ってから車を出した。
「……なんで霊歌ちゃんのこと助けたんだろ?」
咄嗟だったとは言え俺を殺そうとしている奴を助けるなんてとても正気とは思えない。
俺はなんとも言えない感覚を感じながら家に帰るのだった。
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