2日目 この店、暇でした

 2日目の朝、店を開く10分前に俺は何でも屋レイに来ていた。


「おはよう! 霊歌ちゃん!」


 俺は店に入り笑顔で挨拶をする。いくら呪われた相手だからと言って愛想悪くすればそこで俺の死が確定するからだ。


「おはようございます。……私はどこからツッコミを入れたらいいんですか?」


「何かおかしいところでもある?」


「ええ、まずその花はなんですか?」


 と言って俺の持っている花を指さした。


「ああ、これか! この花はデンファレって言ってな、花言葉はお似合いの2人なんだってさ! 俺達の為にある花だと思わないか!?」


 そういうと呆れたような顔をした。


「頭が痛くなってきました。……花は置いておくとして、その白いスーツと白い帽子はなんですか?」


「これは買ってきたんだ! 霊歌ちゃんに会うんだ。正装でこないとな!」


「馬鹿ですか? 仕事しに来てるんですよね? 目立つのですぐに服を着替えて来てください」


 なんてひどい言われようだ。ちょっと傷ついたぞ。


「そ、そうか? なら後で着替えてくるよ」


「最後にそのラッピングされた箱はなんですか?」


「これはネックレスだ! 霊歌ちゃんに似合うと思って買ってきた!」


 そう言って俺は霊歌ちゃんにネックレスを渡した。


「どうせ死ぬ人からこんな物貰っても嬉しくないのですが」


 うぐっ、チクチク言葉だ。霊歌ちゃんって毒舌だよね。


「まあまあ、一応ブランド物だしいらなかったら売ってもいいからさ! じゃあ俺ちょっと着替えてくるわ!」


 花とネックレスを置いて俺は一度車に戻って服を着替えた。


「この調子だと厳しいよなぁ……いや、弱気になったらダメだ! 頑張るぞ! おー!」


 俺は1人車の中で予備の服と着替えつつ気合いを入れる。

 そしてすぐに店に戻るのだった。




「…………」


「…………」


「…………ねぇ、霊歌ちゃん」


「なんですか?」


「暇すぎない?」


「そうですか? 普通だと思いますが……」


 と彼女は言うが昨日含めてお客さんがまだ来ていない。


「もう昼過ぎになるんだけど、お客さん来てないよね? 昨日も来てなかったし……」


「うっ、うるさいですよ。そもそも呪術師なんて仕事がない方がいいんです」


 それっぽい理由を言っているが店長としてそれでいいのか。


「……とりあえずご飯でも食べよっか。お腹すいたし」


「そうですね、冷蔵庫に食材が入ってます」


「……それは俺に作れと?」


「そうですが、なにか?」


「……霊歌ちゃんって意外とズボラだよね、俺がくる前は掃除もしてなかったみたいだし」


「文句あるんですか? クビにしますよ?」


「………すぅー、やらせていただきます」


 俺に対して最強のカードをチラつかせくるあたり本気でめんどくさいんだなと思いながら俺は厨房へと入った。




「オムライスセット、おあがりよ!」


 調理を済ませて、机にオムライスとスープとサラダを置く。


「………」


 霊歌ちゃんは無言だ。


「あれ? どうしたの? もしかして卵ダメだった?」


 卵が冷蔵庫に多く入っていたから使ったが不味かったのだろうか?


「いえ、貴方が料理できたことに驚いています」


「まあ一人暮らしの大学生だからね、これくらいはできるよ、冷めないうちにどうぞ」


 俺がそう言うと霊歌ちゃんは手を合わせた。


「いただきます。もぐもぐ、美味しいです」


 スプーンでオムライスを食べてそう言ってくれた。嬉しい事を言ってくれる。


「うしっ! どう? ちょっとは惚れた?」


 ガッツポーズをしつつ確認をする。


「いえ、もぐもぐ。馬鹿ですか? もぐもぐ。女性がそんな簡単に惚れると思わない事です。もぐもぐ」


 毒を吐きながらも食べるのをやめないあたりとても美味しかったのだろう。


「そんなに喜んでもらえるなら良かったよ。じゃあ俺も食べるかね」


 俺は手を合わせてからオムライスを頬張る。うん、美味いな。



「………また暇だね」


「静かにできないんですか?」


 夕方になったがこの店に客が来ることはなかった。霊歌ちゃんはペラペラと本のページをめくっている。


「ふっ、ふっ、ふっ、こんなこともあろうかと実は持ってたものがあるんだよね!」


「また何か余計な物を持ってきたんですか?」


 地味に傷つくこというなぁ。


「余計な物じゃないよ、じゃーん! ゲーム機です。そしてコントローラーも2個あります!」


 そう言ってあらかじめ車から持ってきていたゲーム機をテレビの前に置いた。


「へー、一番新しいのですね」


「おっ、よく知ってんじゃん! じゃあやろう! すぐやろう!」


 S◯itchのセッティングを完了させてコントローラーを霊歌ちゃんに渡す。


「じゃあこのパーティゲームにしようか」


 持ってきていた51種類のゲームが収録されているカセットをS◯itchに挿す。


「まだやるとは言ってません」


 まあそうだよなぁ。まだ仕事中なわけだし。


「なに? 霊歌ちゃんは負けるのが嫌なの?」


「……目に見えた挑発ですが乗ってあげましょう。まずは何から始めます?」


「ハハッ、チョレ〜」


「何か言いましたか?」


 目を細めてそう聞かれる。


「いや、なんでもありません。じゃあ最初は……リバーシからやろう!」


「いいでしょう、相手になります!」


 それから数分後。


「よしっ、なんとか勝てた!」


 意外と強くてびっくりした。


「……もう一回です」


「勿論いいとも」


 数分後。


「また俺の勝ちだな」


「ぐぬぬ、違うゲームで勝負です!」


 あれ? 霊歌ちゃんって負けず嫌い?


「もう一回です!」


「まだまだ!」


「違うゲームです!」


 それから夜になるまで俺達はゲームを続けた。


「わ、私の勝ちですね。今日はもう遅いですしやめておきましょうか」


 と初めて勝利をかざった後に彼女はそう言った。


 勝ち逃げするつもりかよ。普段はクールな癖して意外と可愛いところもあるな。


「そうだなー、じゃあまた明日同じ時間に来るよ」


「いえ、明日は月曜日ですので学校があります。夕方の4時に車で来てください」


 あー、そっか。霊歌ちゃんは高校生だもんな。


「分かった。にしても車でってどっか行きたいところでもあるの?」


 乗り物を指定したことに驚きつつ質問をした。


「はい、明日は除霊の依頼が入っているのでそのつもりでお願いします」


 除霊か……そんなこともするのか。


「分かった。詳しいことは……」


「明日説明します。それと……」


 顔を赤らめてモジモジしている。


「それと?」


「……その迷惑じゃなければゲーム機を置いて帰ってくれませんか?」


 コソ練するつもりか。可愛いやつめ。まあそのくらいならいいか。


「それぐらいなら全然いいよ。じゃあ俺は帰るよ。また明日」


「……はい、また明日」


 と返事を返してくれた。

 今日で少しは距離が縮まっていたらいいけどなぁ。

 と思いつつ俺は家に帰った。

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