5 幽霊の正体

「あれが……ようもりゆうれい!?」

 おおきすぎるヘビをたりにして、ジャンはとりはだてている。


「ほうぉ! またしてもにんげんどもか。おや……そこのむすめにはおぼえがあるぞ」

 ヘ、ヘビがしゃべった! このひろくうかんぜんたいふるわせるようなひくくてよくとおこえで。


 うすあおけっかいに、またひびがはいる。


五〇〇ごひゃくねんぶりだな……」と、ヘビにへんをしたローザは、いまいましげなひょうじょうだ。


「シグマ!」

 とつぜんおおごえびかけられた。このこえは――ミサキのこえだ!


 ひろくうかんのすみのほうにミサキとティボルトがいた。すわりこんでいるポーシャとマルカムも。ポーシャとマルカムはヘビをて、こしをぬかしたらしい。


「ったく! やっぱりいたのかよ!」

 はなれていたので、シグマもおおごえびかける。「なにしてんだよ、げろよ!」

われなくても、そうするつもりだけどさ!」

 こたえたミサキがポーシャを、ティボルトがマルカムをかかえあげた。

 ミサキは、ほっそりとやせているけど、じつかいりきなのだ。

「シグマたちこそ、なにしてんの!? さっさとげな! あのヘビのバケモノにはソーサリー・ストーンをそうしたれのぐんじんたちですらあしなかったんだから!」


「――げたかったらげて。わたしはひとりでもたたかう!」

 ローザはヘビからはなさない。「けっかいはいずれほうかいする。そうなったらきっと、このヘビはにんげんたちをおそう。せっとくつうじるあいじゃない。だから、わたしはたたかう!」


「……たしか、ローザとかいうまえだったな、むすめよ?」

 くろいヘビもあかかがやひとみでローザをろしている。

 パリンッッ!! とけっかいはんぶんじょうんだのは、そのときだ。

むすめうとおりだ。われらマルスへいもくてきじゃあくなるじんるいぜつめつなのだからな」


じゃあくなるじんるいだって……!?」

 なんだそれは? シグマははんしゃてきにヘビにききかえしていた。


にんげんはこのほしにはひつようない。そうはおもわないか、ぞう?」

 ヘビのあかひとみがシグマをる。

ひとあらそい、にくしみうことをやめぬ。べつ、いじめ、ころい。いったいなんびゃくねんなんぜんねんおなじあやまちをくりかえせばがすむのか。えいえんにわかりえぬじんるいなど、もはやかすひつようなどなかろう。ひとかみしっぱいさくだ」


 パリパリパリンッ!! ガラスがわれるようなおとがする!

 ふういんけっかいがすべてくずれさったおとだ!

 バカにするようにわらったヘビが、すこしずつぜんしんしてきた。

 そのたびにズゥゥン! ズゥゥン! とどうくつぜんたいりがともなう。


「りりしいつらがまえのぞうよ、さまとてひとならばおぼえがあるだろう。いじめられたり、べつされたり、くだされたり、せいとうひょうされなかったりしたことが」

「まあ……あるけど……それがなんだ!?」


 プロのぼうけんになれたのに、どもだからってゆうでまとなってくれなかった。

 どろぼうつかまえてもけいさつからははんにんまえどもあつかい。

 そんなどもを、あかぼうのころにどうようせつてたのはシグマのおやだ。おとだ。

 てられたゆうなんてらない。ハンナせんせいですららないんだから。

 シグマのおやだんじょふたりが〝じっ〟にやっていっぽうてきにシグマをせついていったらしい。そのふたりはみょうわなかった。

 だからシグマというまえもノルニルというみょうも、ハンナせんせいがつけてくれた。

 おやかおすらたことがない。

 だからシグマはおやのことなんか、なんともおもっちゃいない。でも、ぶんてられたんだというじつわりはなかった。ひとって、ほんとにがっだよな……。


 ジャンもたりよったりのしんきょうだろう。

 シグマとおなで、だいがくしっされて、きっとこれからもいやなことはたくさんある。


「でも、だからって!」 

 シグマはヘビをにらみつけた。


「なあ、ぞうよ!」

 ヘビがちろりとしたした。

へいまんかさねがつよにくしみにわるのだ。ひとはだれかをねたみ、にんこうへいひょうできぬものだ。かんじょうてきすぎるのだよ。ささいなにくしみがかさなり、やがてはぼうりょくぶ。ほうふくがくりかえされ、みんながきずつくのだ」


ひとには……にんげんには、いいことろだって、たくさんある!」

 シグマはほんでそうおもっている。

 ハンナせんせいえた。ジャンともしんゆうになれた。プロのぼうけんにだってなれたんだ。

 おいしいものべたらしあわせなちになれるし、ひとひとやさしくできるものだ。

「だからッ! ぜつめつなんてじょうだんじゃないぞ!」


「マルスのかんしょうによってはなたれたじんこうのうは、おろかなにんげんどもをぜつめつさせるべきだとはんだんしたのだ」


「だから、それがなんだってうんだよ!? おまえらのかっはんだんなんかるか!」

 あたまたシグマは、おおごえかえしてやった。


ひとほろびれば、じんるいながきにわたるあらそいのれきからかいほうされる。それこそがしんへいである。みな、びょうどうにゆく。こうへいで、もっとごうてきで、こうふくはんだんだ」


「てっめえ! さっきからなに調ちょうこいてんだ、ああッ! このバケモノが!」

 ミサキのこえだ! ミサキがピクピクとまゆをつりげている。


 あいつら、まだげてなかったのか!


 ミサキはりょうかかえていたポーシャを、やりティボルトにおぶらせていた。

「キャ、キャプテン……なにするんですか!? おれだってマルカムを――」

「うるさいねぇ。ティボルトはちからちなんだから、ふたりぐらいゆうだろ」

「アネさん……あのバケモノとやりうの!?」

 ティボルトのかたにつかまりながら、ポーシャがあんげなひょうじょうできく。

「まあね。じんるいみなごろしにされたらとうぞくしょうばいあがったりだろ。ティボルトはポーシャとマルカムをあんぜんしょれていくこと。それがいまの、あんたのごとだよ」

 いっぽうてきめいじたミサキは、かいぞくせんちょうのようなよこながぼうかたさえながら、こっちにかってはしってきた。

 ティボルトは「やれやれ」とって、ためいきをつく。

「キャプテン! ぜったいに、きてかえってきてね!」

 マルカムはきそうになっている。

 ミサキのちゃめたい。でも、こしをぬかしたままのポーシャとマルカムをそのままにはできない。そういたげなこまったひょうじょうで、ティボルトはポーシャをなかにおぶった。

 それからマルカムをりょうかかえなおすと、ミサキにうなずいて、どうくつからていく。


「というわけだ、シグマ。このミサキがいちてきなかになってやる。ぬほどかんしゃしろ」

「おう、ありがとうよ! ミサキもものきだよな」

「そりゃそうさね!」

 ガハハッとごうかいわらってこたえたミサキは、かいせいぐんじんとしたのだろう、ソーサリー・ストーンつきのサーベルをひろいあげた。

「おたから、ゲットだ!」

 ゲットしたサーベルといっしょにみぎのムチもかまえる。

ものきのわりものでなけりゃあ、とうぞくのリーダーなんてだれがやる? シグマもこのバケモノとやりうんだろ? おまえもじゅうぶんものきだよ、ぼうけん!」

 まったくだな。シグマはなおみとめてしょうした。


 ふるえながらも、うなずくジャン。きらりとりょうひからせたジュズまる

 そして、じっとヘビをにらみつけているローザ。


「あんなバケモノがあいなんだ。げるのがわるいことだとはおもわない。けどさ、おれはローザをいてけぼりにはできないんだ」

「……なにきゅうに。かっこいいことっちゃってさ」

 ローザがいっしゅんだけがおせてくれた。「でも、ありがとう、シグマ」


「そうか。では、よかろう!」

 ヘビがせせらわらった。マルスのひかり宿やどしたあかほのおのようにらめかせながら。


「わがはオロチ! すべてをかいしつくすマルスにえらばれしもの。さあ、るがいい。のほどらずのにんげんどもよ! きにして、すりつぶしてくれる!!」

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