3 ローザ

「よし、わかった! マリナのまちしょかんがある。そこにこう」


 ジャンがやさしい調ちょうでローザにった。かたふるわせはじめたかのじょあゆみよるジャン。

 おくそうにえて、がいせっきょくてきだったんだな……。シグマはこころのなかでしょうした。


 ローザはローザで、きゅうかたふるわせたりして、でもいたのかよ?

 そんなかんそういだきつつ、「しょかんよりびょういんじゃないのか?」とシグマがきいた。


しょかんでいいんだ。ローザにはそれがひつようなのさ。かのじょ、すごくこんらんしてる」


 こたえないローザのわりに、ジャンがこたえた。

 シグマはためいきをつく。すっかりホレたおんなかただな。


 しばらくすると、ホワァァァンという、れっしゃけいてきおとがきこえてきた。

 あかひかすすはいとうからきだしながら、れっしゃえきのホームへとすべりこんでくる。

 ローザは、またしてもしんじられないものたぞ、というひょうじょうになった。


「おいおい、れっしゃもはじめてなのか? はくぶつかんにはなかったのかよ?」


 シグマがわざとじょうだんめかしてっても、ローザはひょうじょうこおりつかせたままだ。

 かのじょわるゆめでもているかのようなかおつきになって、やっぱりなにもこたえてくれない。

 シグマとジャンは、せきせきかいわせになっているもくせいのボックスせきならんでこしかけた。ローザもかいのシートにすわる。ものめずしそうに、まわりをながら。


「このゴーグル、やまのなかでひろったんだ。きみのかな? もしそうならかえすよ」

 ジャンがカバンから〝しゃべるゴーグル〟をつまみだした。


「……うん、それ、わたしのだ。ありがとう」

 ジャンがしだしたゴーグルを、ローザはまじまじとつめてからった。


 きのゾウがさんするようなそくで、のろのろとれっしゃうごきはじめる。


「ジャンがうにはさ、そのゴーグル、しゃべるんだって。じつなら、すげえよな」

 ローザはまゆをひそめた。ちらりとシグマのほうをながら。

「……そりゃ、しゃべるでしょ。でんれでもないかぎり」

 シグマからをそらしたローザは、さもとうぜんのようにった。


 え、マジでってんの!? ジャンだけじゃなくて、ローザまで……。シグマがこえをつまらせると、ローザがとつぜんまどにゴーグルをかざした。かざしたしゅんかんに――。


 たいようしろしをめたレンズが、ほんのりとひかったぞ!


 シグマとジャンは、「おおッ!?」とはんしゃてきにさけんでいた。

 とうめいなゴーグルのレンズがたいようこうかえしているわけじゃなさそうだ。

 レンズたいがホタルのひかりのように、うっすらとみどりいろはっこうしている!


でんれだったみたい」

 ローザがった。「いまたいようこうじゅうでんしてるから、そのうち、しゃべるでしょ」

「あああぁ、そうか! そういえば……うん、あのときも、レンズがひかってた!」

 おおきくひらいて、ジャンがポンッとをたたく。

「ゴーグルがきゅうにしゃべったのは、ぼくがふるどうのあるおもてどおりにったときだ。ゴーグルをまえきずがないかかくにんしようとして、カバンからして、そのとき、ちょうどたいようひかりをあびたから、しゃべったんだ! それからカバンのなかにもどして、たいようこうがさえぎられたから、またでんれになって、しゃべらなくなった。そういうことか!」


「――どうします。おや、ローザ、ひさしぶりですね」

 うおおおぉぉ! マジでゴーグルがしゃべったぞ!! おとこひとこえで!


 シグマはぽかんとくちをあけたまま、ほっぺをつねった。いたい。ゆめじゃない。

 こしかしたジャンは、「ほらろよ!」と、たからくじでもてたみたいにおおよろこびだ。


「ほんと、ずいぶんとひさしぶりになってしまって……」

 ローザだけは、いたってれいせい。「ハヤト、しつもんしても?」と、たんたんはなしかけている。


「ハヤトってまえなのか、そのゴーグル?」

 こうふんさめやらぬひょうじょうで、シグマがローザにたずねた。


「うん。ハヤトはわたしのあにまえ。あなたにしているつるぎほんらいぬしでもある」


 そういや、そんなことってたな。ローザからつるぎしてもらったときに。

 ってことは、このつるぎまえをつけるなら……「ハヤトのつるぎ」になるのかな?


「ってかさ、なんでにいちゃんとおなまえなんだ? ローザのゴーグルなんだろ、それ。もとはにいちゃんのゴーグルだったとか?」


 つづけてシグマがしつもんする。ローザはすぐにはこたえず、なぜかかなしげなかおになった。


「もとからわたしのゴーグル。そのゴーグルにあにこえをインストールした。だからあにこえでしゃべる。あなたたちにはきっと……なんのことだか、わからないでしょうけど」


 シグマはけんにしわをせた。「あなたたちにはきっと……なんのことだか、わからないでしょうけど」なんてわれて、バカにされたとおもったからじゃない。

 ゴーグルにこえを、イン……インス――なんちゃら? じっさいのところ、ローザがなにをったのか、シグマにはさっぱりわからなかった。

 ジャンにはわかっているのかいないのか、おおかおでうなずいている。


「――おはなしちゅうしつれいします。ローザ、わたしにしつもんとは?」

 ゴーグルがおだやかな調ちょうでわりこんできた。


「いまが西せいれきで、なんねんだかわかる?」と、ローザがきく。


二八一二にせんはっぴゃくじゅうにねんです」とゴーグルが――ハヤトが――そくとうした。

 ローザのかおからいていった。……なんなんだ、このはんのうは?


二八一二にせんはっぴゃくじゅうにねんじゅうがつ」と、なんねんだけでなくなんがつまでおしえてあげたのはジャンだ。


 ……おいおい、まさか、いまがなんねんなんがつだとか、そんなことまでらなかったの?


 ローザは、どうやらほんとうらなかったらしい。シグマはびっくりした。


 しゃべるゴーグルをきしめながら、ローザはしずかにうなずいている。れっしゃがマリナのまちくまで、ローザはそのままひとこともしゃべらなかった。

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