第一部 テンルウ山の秘密

1 冒険家の少年 シグマ・ノルニル

 あきからふゆにかけて、まってきびしいさむさがやってくる。

 それが、キタウミのしまとくちょうだ。

 こうわんのオータルは、よこながおおきなしまなん西せいにある。

 みなとまちのマリナも、そのオータルにあった。


 そのじゅうがつはいってさいしょゆきがふっただ。

 まだゆうがただったけれど、使つかふるしのじゅうたんそっくりにえるはいいろくもが、どんよりとひくれこめていた。


 マリナのまちは、すでによるのようにくらだ。がんじょうそうなあかレンガのたてものならまちいちばんにぎやかなおもてどおりだってれいがいじゃない。

 まだどうのガスとうかりがともされるかんでもなかった。


 綿わたあめのようなゆきがときどき、かぜかれていあがる。


 ファァァァァンとけいてきをならしながら、まちのなかをつうしていくれっしゃが、あかすすのようなひかりすじはいとうからきだしていた。

 あかひかりのひとつひとつはこまかくてちいさいけれど、たいりょうにたえまなくをひいている。まるでそらかってながれるひとすじかわのように。


 あかひかりしろゆきが、つぎつぎくもぞらしたかさなりった。よごれているいしだたみどうあかひかゆきがポタッポタッとちていく。

 しゃりするたてものふるたてものとのあいだにあるみちにも、あかゆきじったすきまかぜきこんできた。


「うぅ、さっむ……」と、つぶやいたシグマ・ノルニルは、さっきからずっとみちかどかくれている。シグマのけつしよくのいいほおにも、じんわりとゆきがにじんだ。

 それからほどなくして、あちこちのみせからランプやでんきゅうひかりがもれはじめた。


 まちさんばんおおきなからターゲットのおとこがやっとてきたのも、そのときだ。


 おとこはキョロキョロとあたりをまわしてから、おりもののズボンのポケットにっこんで、あかひかりだした。


 シグマはなるべくあしおとてずにかいのみちからようとした。


 すると、おとこはたちまちシグマにがついたらしい。いちもくさんけだしていく。


「あっ、てよ!」

 ここずっと、このおとこをこっそりっていた。

 だからがさないぞ。シグマはこころのなかでそうった。そんなシグマのかみがたは、ゆるくウェーブのかかったあかるいちゃぱつだ。そのちゃぱつらしながら、げるあいいかけた。


ぞう、これはかいだ!」

 まえのめりになってはしりながら、おとこはふりかえっていわけをする。


かいなら、なんでげるのさ?」


 おとこはボサボサのかみをふりみだしている。

 よれよれのリネンのふくうえあおいマントをはおっているおとこは、じゅうさいのシグマよりもずっととしうえで、四十二よんじゅうにさんさいぐらいにえた。

 ふくよかなからだつきのおとこは、おもたそうなブーツをはいていて、あしがおそい。

 それにくらべて、シグマはほそいけれど、ほどよくきんにくがつきはじめている。

 シグマのちは、ちゃいろぬのふくに、ぶくろとブーツ。すすからまもるためにくびからさげているやすもののゴーグルと、こしのベルトかららしているサーベル――そんなかっこうをしていた。

 サーベルはほんものそっくりのぞうひんだ。つまりニセモノだから、たいしておもくはない。


 だいじょう、すぐにいつける! とシグマがかんがえたちょくだった。


 ぜんぽうちゅうおとこが、くだものぐるまにぶつかった。

 そのぐるまんであったリンゴやバナナが、どさり、どさりところがりちていく。


「てっめえ! なにしてくれてんだァ!」

 くだものてんしゅのおじいさんがりちらした。


 おもてどおりをあるひとたちも「なになに!?」とうまになってさわぎはじめた。

「おい、あれ、なんかやってるぞ!」

「あのガキ……ぼうけんってるぞうじゃないか」


 つめってきたくだものてんしゅばして、おとこがまたはしりだした。

 シグマはおとこのマントをつかむすんぜんだったけれど、こしめんちつけたてんしゅのおじいさんをこすほうがさきだ。


だいじょうかよ、くだもののじいちゃん?」

「なんのしんぱいもいらんわい。それよりシグマ、こりゃあ、なんのさわぎかね?」

「ごめん、せつめいしてるヒマとかないんだよ」

 シグマははやくちにそうって、おとことのきょをふたたびつめていく。


「しっつけえ、ガキだな。ぼうけんりが、こっちにるんじゃねえ!」

 めいをあげたおとこには、あのあかいしがにぎられたままだった。

 キラキラとひかっているぶりなボールがたいしは、もちろん魔法の石ソーサリー・ストーンだ。

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