第12話 恭子12
涼子はなんで消えたのだろう。
私は好きな人と一緒にいるためだって思ってた。
それは涼子が家出をしてまう理由が、他に思いつかなかったからだ。
成績が良くて、金銭的な余裕もあるし、最近綺麗になった。
向かうところ敵なしじゃないか。
だから、理由があるとすれば、誰にも内緒にしているその想い人に関係したことだろうと、勝手に思ってしまっていた。
私は見当違いの方向へと進んでいるのだろうか。
校庭に戻ると、片付けがもう始まっていた。
残っているのは、私たちも含めて十人程度。本当に食べるだけで帰ってしまった参加者もいるようだ。
使い終わった食器類が集められていたので、数人で校舎内の家庭科室へと持っていった。
家庭科室は、昨日侵入した校舎とは別の棟の中にあった。
昨日見て回った教室はどこも、少し古めかしい感じがしたけれど、この家庭科室はとても綺麗で現代的だった。今も頻繁に使うから、リフォームしたのかもしれない。
食器や鍋を洗い、水気を拭いてから、それぞれの場所にしまう。
みんな疲れているのか無口だった。
主さんも後輩さんも校庭のほうにいた。あっちは長机やテントを片付けているのだろう。
二人と連絡先を交換すべきだろうか。
いや、でも、断られるだろう。友達を作りたい人には不向きのイベントだと言っていたから、この場限りの交流を好む二人なのだ。連絡先を聞いたら嫌がられそうだ。
それに二人とも涼子のことを知らないようだったし。
どうしても連絡を取りたければ、またこのイベントに参加者すれば良い。主さんは常連だと言っていたから捕まりやすいはずだ。
最後にシンクの水気を布巾で拭き取って終わった。
この布巾は誰が洗濯するのだろうかと、関係ないところで少し心配した。
校庭にまた集まって、お疲れ様と挨拶すると、みんな帰っていった。
守衛小屋で鍵を渡して荷物を受け取る。
私が最後だった。
笑い顔の人が「どうだった?」と聞いてくる。
少しムッとしてしまった。
けれど、不機嫌さを表に出すのは失礼だと思ったので、深呼吸をして気持ちを切り替える。
笑い顔の人は私をこのイベントに呼んでくれたのだ。実りがなかったのは、この人のせいではない。
「今のところ手がかりはなしです」
「ふーん、残念だったね」
ふと笑い顔の人の手元が目に入る。
取手のついた小さな金属製のボックス。
そこではたと思いつく。
「あの、お金」
「え?」
「イベントの参加費! すみません、全然考えてなかった。おいくらでしょう?」
今の今まで思い当たらなかった。
カレーの材料費だって、ここをレンタルするのだってお金がかかっている。当然参加費が発生するはずだ。
お財布には、そんなに入っていない。
「あー、いいよ、今回は。俺が招待したんだしね」
「え、でも、払います。カレーも食べたし」
「じゃあ、次から、次から払ってよ」
「次?」
「あれ? 友達のことがわかるまで、参加するのかと思ってた」
笑い顔の人は頬杖をつく。
「他にも常連っているから、その人たちに聞いていくのも良いかと思ったんだけど」
どうする?
涼子の家出の理由を探り直す?
学校の友達を当たっていく?
でも、そうやっていろんな人たちに聞いて回ったら、涼子が戻りづらくならないだろうか。
他に探せる場所はある?
どうする?
どうする?
「ちなみに、次はいつですか?」
こことの関わりは持っていたほうが良いかもしれない、そう結論づけた。
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