第2話 恭子2
ことの始まりを思い出す。いつからだったのか。
そうたぶん、友達が綺麗になったことに気づいてからだ。
涼子が綺麗になった。
でも、具体的にどこが変わったのかわからない。本人に気づかれないように、こっそり顔を観察してみたのだけど。
そもそも、これまで顔のパーツ一つ一つを良く見ていたわけではないから、もし整形手術をしていたとしても、わからないのかもしれない。
私も涼子も自分たちの写真を撮ることがなかったから、比較することができない。
もちろん整形手術ではないはずだ。そんな時間もなかったし。
どこも変わったようには見えない、でも綺麗になった、それだけは不思議とわかるのだ。
私たちは、いや、私はクラスの中では普通の位置にいた。
キラキラとした子たちとも違うし、地味なことで逆に目立っている子たちとも違う。まあ、普通の中では地味に寄っていたと思うけれど。
その他大勢の位置だった。
それが居心地が良かった。
頑張らずに、なんとなくで毎日を過ごしていた。
大学には行こうと思っているけど、そんなに偏差値高いところは狙ってないから、まだ本格的に勉強は始めてなくて、部活もしてなくて。だからといって遊び回るのも、なんだか怖い。
いろんなことを頑張るのは大学に入ってからにしよう。たぶん、そう思ってた。
ふんわり生きていた。
涼子は成績が良いのに、私と一緒にいるせいで、いつのまにかふんわり生きるようになっていた。
そんな学校生活のなか、涼子が綺麗になった。しかも、みんなが注目してしまうくらい。
彼女の周囲には、クラスメイトが集まって話していて、私はそれを自分の机から見ていることが多くなった。
置いていかれた焦りも、涼子が人気者になりつつあることでの嫉妬心も、正直ちっとも湧いてこなかったので安心した。
ただ、綺麗になった理由について全然思いつかないから、仲が良いと思ってたのは自分のほうだけだったのか、という寂しさはほんのりあった。
涼子のお母さんに話しかけられたのは、三者面談のときだ。
私の番はもう終わっていて、仕事に戻るお母さんを見送るために昇降口にいた。そこへ涼子のお母さんがやってきた。涼子の番はこれからだったから、私は教室まで案内することにした。
当たり障りのない話をするうちに、お礼を言われた。どうやら最近、涼子が私の部屋に来て夜遅くまで勉強をしているのだと、お母さんは思っているようだった。
そんな事実はない。ないけれど、もちろん私は本当のことは言わずに、笑って誤魔化した。
教室まで来ると涼子が廊下に出て待っていた。
私はもう帰るつもりだったので、二人に挨拶して手を振る。涼子とお母さんの二人は連れ立って面談室へと歩き始めた。
少し歩いて涼子が振り返った。
私はまだ二人のことを見ていたから目があった。少し両肩を上げて指揮者のように人差し指を何度か振り下ろす。これは国語の先生が怒ったときの仕草だ。私のクラスでは怒るふりをするときに、この仕草を真似る。だから遠くからでも私の言いたいことは伝わったと思う。
涼子は歩きながら両手を合わせて拝む仕草をした。そして、二人で笑い合ったあと、軽く手を振ってわかれた。
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