第3話 恭子3
三者面談からしばらく経った放課後、涼子とたまたま教室で二人きりになった。
少し前までは、放課後の教室に残って遅くまで喋ったりすることがよくあったけれど、それもなくなっていた。涼子は授業が終わると、するりと教室からいなくなるのだ。みんなに、にこやかに挨拶をして。
学校の誰かと遊びに出ているのかと思っていたけれど、どうやらそういった誘いを断っているようだった。その話も、本人ではなく誰かしらから聞いことだ。
「あ、そういえば三者面談のとき」
「ん? なんだっけ?」
「私の家で勉強会してるなんて言ってるんだって?」
「あー、お母さんね」
「お礼言われたよー。ドキドキしちゃった、思わず来てませんよって言いそうだった」
「ありがとう。誤魔化してくれて」
「こういうアリバイづくりはさ、事前に言っといてもらわないと」
「そうだよね、ごめんねー。思わず恭子と一緒にいるって言っちゃったんだよね。うちのお母さん、恭子のこと百二十パーセントくらい信用してるからさ」
「信用しすぎじゃない? 逆に怖いよ。嘘だってバレたときとか」
「大丈夫、大丈夫」
「あのさ、ちょっと聞くの躊躇っちゃうんだけど」
「うん? なになにー?」
「やばいとことかさ、やばい人とかじゃないよね?」
「やばいってなに? なに想像してんの」
「いや、だってさ、みんなに黙って夜に出掛けてるってことでしょう? なんか綺麗にもなってるし」
「え? 嬉しい!もう一回言って」
「私、真剣なんだけどー」
「ごめんって。 うーん、実はさ、好きな人ができたの」
「えー、良いじゃん。 どんな人なの?年上?」
「そう……年上。男の人なんだけど、綺麗な人なんだ」
そう言って涼子は目を伏せる。長いまつ毛が繊細な影を頬に落とした。髪の毛も艶やかだ。肌も陶器のよう。本当に綺麗になった。でも、昔からこうだったんじゃないかとも思う。私もみんなも気づかなかっただけで。
「何をしている人なの? 夜にしか会えない?」
「そう、なんていうか、生活パターンっていうの? 夜型の人だから。職業は……なんだろ」
「途端にあやしくなってきた。大丈夫なの?その人。お金とか渡してない? 嫌なこととかされてない?」
「えー、ないない。大丈夫だよ。別にあやしい人じゃないの」
「うーん」
「すごく真面目でね、未成年とは付き合えないってきっぱり言われてしまった」
「普通のことだよ」
「そこでよし付き合おうって言われたら言われたで、女子高生と付き合っちゃう人なんだって引いてたから、それは良かったんだけど」
「じゃあ、どうするの? 二十歳になるまで待つの?」
「今のところね」
「あと三年だし」
「そう、この三年で何があるかわからないけれど、今のところは頑張る方向で」
好きな人の名前は聞かなかった。でも、どこで出会ったのかは教えてもらった。閉校になった中学校なのだそうだ。
校舎や校庭を使ってイベントを企画するグループがあって、想い人はスタッフをしているらしい。
「一人でイベント行ってるの?」
「うん。一人参加がルールなの。それに誰にも内緒にしたかったから」
「なんか寂しい」
「えへへ。家族とか学校とか以外にも関係性が欲しかったんだよね。だから、みんなには内緒ね」
「わかった。じゃあ、彼を紹介してはもらえないわけね」
「うん。もうしばらくはね。一人で頑張ってみる」
それからしばらくして、涼子は家からも学校からもいなくなってしまった。行き先も、理由も、誰もわからなかった。
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