第112話 病室

 「葉月は本当に良くなっているのでしょうか?」


 「なっていたはずです・・・」


 「なっていたはずとはどういうことなのでしょうか?」


 「葉月さんを長年苦しめていた7つの悪性腫瘍のうち3つはいつの間にか消えていたのです。治療方法が確立していないこの悪性腫瘍がなぜ消えたのかはわかりませんが、回復の兆しをみせていました。しかし、残りの4つの悪性腫瘍が急に活性化して、1つの大きな悪性腫瘍に変わろうとしているのです。このまま巨大化してしまうと葉月さんの体力では持ちこたえる事はできないでしょう」


 「そんな・・・でも、葉月はこんな幸せそうな顔をしているのに」


 「葉月さんが意識を失ってから2週間が経過していますが、このような安らかな顔をしているのは驚きです。私も医師として30年勤務していますが、意識を失った患者様がこのような笑みを浮かべている姿を見たのは初めてです」


 「葉月!絶対に絶対に死なせないから・・・お母さんが絶対に葉月を助けてあげるからね」



 私は、荷馬車で急に意識を失って目を覚ますと、長年治療を受けていた病室にいた。母と医師が何を話しているかは聞こえなかったが、私が病院のベットで笑顔で眠っている姿を私は天井から眺めている感じだった。


 病室には私のために用意してくれた白のワンピースに麦わら帽子、黒いぬいぐるみ、お菓子やジュースなど私が欲しかった物が並べられていた。おそらく母がよういしてくれたのであろう。


 

 「私は夢を見ていたのかな?もう、私は死んでしまうのかな?神様、もう少しだけ私にあの夢の続きを見せて欲しかったわ。夢の中だったけどとても楽しくてしあわせだったのに・・・」



 私はもう死んでしまうと覚悟した。死ぬ前に夢の中だったけどたのしい冒険ができたことに私は神様に感謝したいけど、まだ、冒険は続きだったのでこのまま死にたくないと思った。



 「ハツキちゃん!ハツキちゃん!」



 私の耳元に誰かの声が聞こえた。



 「よんよん、よんよん」


 「ハツキちゃん、ハツキちゃん」



 私は声のする方に意識を集中させると、病室の景色が消えて目の前にシェーネとショコラが居た。



 「ハツキちゃん!目を覚ましたのね」


 「シェーネちゃん、ここはどこなのかしら?」


 「ハツキちゃんは『赤朽葉の爪』に誘拐されてアジトまで連れて来られていたみたいなのよ」


 「そうなの!」


 「間違いないわ。私たちは『赤朽葉の爪』のアジトをつぶすためにこの場所にきたのだけど、怪しい荷馬車が止まっていたので確認したらハツキちゃんが居たのよ」


 「夢じゃなかったのかしら・・・」


 「夢?ハツキちゃん何を言っているの?」


 「なんでもないです」


 「それよりも体は大丈夫?ケガはしてない?」


 「問題ないですよ」


 「それならよかったわ。でも、ハツキちゃん、なぜ誘拐されたの?」



私は『黒天使』の代わりにキューンハイトを倒すために荷馬車に乗ったのだが、そのことをそのまま伝える事はできない。



 「えーと・・・果実ジュースを貰えると聞いたので荷馬車に乗ったのですよ」


 「ハツキちゃん!知らない人に簡単について行ったらダメよ!」


 「はい。反省します」


 「果実ジュースなら私が買ってあげるから、2度と知らない人について行ったらダメよ!」


 「はーい」



 私は果実ジュースをおごってもらえると言われたので嬉しくて笑顔で返事をした。



 「シェーネ、0の少女は大丈夫だったのか?」


 「お兄様、問題ありません。お兄様こそ、キューンハイトは倒せたのかしら?」


 「もちろんだ。薬に頼っている相手に俺が負けるわけがない」



 シェーネとショコラが私を起こしている間に、バルザックとカーネリアンがキューンハイトを確保したのである。



 「バルザックさん、キューンハイトさんを倒したのですか!すごいですね」


 「いやいや、それほどでもないぜ」

 

 「ハツキさん、私も協力してキューンハイトを倒したのです」


 「カーネリアンさんもすごいのですね」


 「いえいえ、それほどでもありません」



 私に褒められて二人とも嬉しそうである。



 「お兄様もカーネリアンもハツキちゃんに褒めらえて、そんなにデレデレしないの!」


 「0の少女、キューンハイトを倒したご褒美にサインをしてくれないか!」


 「ハツキさん、私もサインをください」


 「私がサインを書いてあげるよん」



 ショコラはバルザックとカーネリアンの背中に大きな字で『ショコラ』と落書きをした。



 「ショコラ!なんてことをするのだ・・・」


 「・・・」


 「ショコラ、ナイス判断よ」


 「よんよん」


 「ハツキちゃん、お兄様たちはほっといて王都へ帰りましょ」


 「あ!そうだ。シェーネちゃん、私皇帝陛下から頼まれ事をされてたのよ」



 私は簡単な経緯をシェーネに説明した。



 「そういうことなのね。でも、1人でフンデルトミリオーネン帝国まで来たの?」


 「どうしても、美味しい果実ジュースが飲みたくて・・・」


 「ハツキちゃん、なんて無謀なことをするの!王都からフンデルトミリオーネン帝国へは危険な旅路よ」


 「ごめんなさい」


 「でも、その行動力がみんなに勇気を与えているのね」


 「そうだぞシェーネ。0の少女は魔力量が0でも、危険をかえりみずにあらゆることに挑戦する姿にみんなは共感をしているのだ。0の少女のやりたいようにやらせてあげるのが良いはずだ」


 「俺もバルザックの意見に賛成だ。確かに一人では危険な旅路だと俺も思う。しかし、0の少女は無謀なことはしないはずだ。綿密に計算し最良の選択肢を選びながら旅をしているのに違いない」


 「ハツキちゃんごめんなさい。私は少し過保護になっていたわ」


 「いえいえ、気にしないで下さい」



 私は行き当たりばったりで行動している事は絶対に言えないのであった。




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る