第111話 デジャブ
私は皇帝の間で特性の果実ジュースを飲ませてもらって退出した。
「さて、果実ジュースもごちそうになったし、ブランシュちゃんのところに戻ろうかしら」
「そこのお嬢さん、いい薬があるけどタダで飲んでみるかい!」
私が美しい帝都イリスの町並みを眺めながら帰っていると、1人の男性が声をかけて来た。
「お薬ですか?」
「そうだよ。魔力や筋力が一時的にアップする特殊の薬だよ。お嬢さんは可愛いから特別に無料でプレゼントしてあげるよ」
「む・・・無料ですか!!!」
「あなたにだけ特別に無料なのです!この幸運を逃しては絶対に損しますよ」
「でも、私魔力も筋力もいらないです」
「待ってください。今なら特別に10錠差し上げます。本来なら1錠しかお渡しできないのですが、あなたは可愛いので特別サービスです」
「10錠も貰えるのですか!」
「はい。あなた様だけ特別です。私はボスに叱られるのを覚悟してお渡しすることにしました」
「うーん・・・でもいらないや」
「おい!そこのお前、何をしている」
「げ!やばい。逃げろ」
男は衛兵に声を掛けられると一目散に逃げて行った。
「逃がすな!あいつを捕まえろ」
衛兵は大声をあげて別の衛兵に知らせる。
「お嬢さん大丈夫ですか?」
「はい。なにも問題はありませんよ。あの方はどちらさんでしたの?」
「おそらくですが、イーグルネイルかホークアイの売人だと思います。あいつらは最初は無料でMYKを提供してMYKの虜にする危険な奴らです。まさか帝都イリスまで乗り込んで来るとは予想外でした。厳重に正門で身分確認をおこなっているはずなのですが・・・」
「そうなんですか。危うく騙されるところでした」
「世の中無料ほど危険なモノはないので気を付けてくださいね」
「はーい」
私は騒ぎをよそに帝都イリスから立ち去って行った。
「さて、本気走りでブランシュちゃんの元へ行きますか!」
「おい!小娘ちょっと待ちな」
「え!」
私が振り返ると先ほどの売人が居た。
「俺様から逃げられると思うなよ」
「私別に逃げてませんよ」
「やかましい!衛兵を連れて来るなんて猪口才なマネをしてタダで済むと思うなよ」
「タダより怖いモノはないと教えてもらったので、タダで済まない方が助かるわ」
「俺にそんななめた態度をとっているとどうなるのかわかっているのか?俺は泣く子も黙る大悪党イーグルネイルの『赤朽葉の爪』の売人アルツナイ様だ」
「初めましてアルツナイさん。私はハツキと申します!」
「なかなか礼儀正しい小娘だな。だがしかし!俺にいくら媚びを売っても無駄だぞ。俺は売人のなかでも毎月トップの営業成績をほこる優秀な売人だ。しかも、MYKを売るだけの3流の売人とは俺は違うのだ。おれは上司の趣味趣向を調べ上げ、何を欲しているか理解しそれをサプライズでプレゼントする超一流のごますり売人だ。お前はボスの好みに見事にマッチしているのだ。お前をMYK中毒者にして、ボスにプレゼントする予定だったが、力ずくでお前を連れ去ることにしたぞ」
「『赤朽葉の爪』のボスさんに会わせてくれるのですか?私ボスさんに会ってみたいと思っていたので案内してください」
「ま・・・まさか!お前は・・・キューンハイト様のファンなのか?」
「ファンじゃないですよ。ちょっと用事があるだけです」
私は『黒天使』に依頼する予定の案件を自分で解決することにした。
「ボスも隅に置けないお方だ。いつの間にかこんな若い女の子のファンを作っていたとは。俺の諜報力もまだまだだな」
私は『赤朽葉の爪』の売人となのる男性の馬車にのってアジトに向かうことになった。
「ここからどれくらいかかるのですか?」
「馬にMYKを服用させたから2時間程度で着くだろう」
「2時間もかかるのですか?私退屈なのでお昼寝でもしときますね」
「好きにするがいい。お前が自由に楽しめる時間はあと2時間ということなのだからな。その2時間を大事に過ごすといい」
私は馬車が揺れる一定の振動のリズムが子守歌のように感じてスヤスヤと眠ってしまった。
「起きろ!着いたぞ」
「もう朝ですか?」
「違う!MYKの製造工場に着いたのだ。お前は今からボスの愛人として一生奴隷として生活をするのだ」
「えい!」
私は売人の男にチョップをしてあの世に送ってあげた。
「悪者は許さないのよ。さて、ここが悪党のアジトなのね。ボスを拘束して皇帝陛下に差し出さないと」
私は馬車の荷台から辺りを見渡した。周辺には小さな家が10件ほど建てられていて、その中心に大きな白い建物が立っていた。
「あ!ここは以前に来た病院に似ているわ」
私は荷馬車から降りようとした。
『バタン』
私は目の前が急に真っ暗になり、荷馬車の中で倒れてしまった。
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