第110話 銀の瞳

 「お客さん!お客さん!もうお昼ですよ。いい加減にトイレから出てきてください」


 「は!私はいつの間にか眠っていたのね。でも、お昼にトイレを借りたから、もうお昼って言い方はおかしいわね」



 私はトイレに入って一日が経過したことに気付いていない。30分程度寝てしまった感覚であった。



 「すぐに出まーす」



 私は果実ジュースを飲み過ぎてトイレに長くこもっていた記憶はトイレにすべて流して忘れてしまっている。



 「おトイレを長く使用してごめんなさい!」



 私は30分程【実際は一日である】トイレを占拠していたことを素直に謝ることにした。


 「ご無事で何よりです。衛兵がお待ちしておりますのですぐにお城の城門までお越しください」



 店長は無事に私がトイレから出てきたことにホッとしていた。



 「はーい。でもその前に果実ジュースを飲みたいわ」


 「もうお客様にお出しする果実ジュースはありません!すぐに城門にいってください!」



 店長のほっとした笑顔が一瞬で消え、鬼のような形相で私を怒鳴りつけた。



 「ちょっとトイレに長居したくらいでそんなに怒らなくてもいいのに」



 私は少しだけ不機嫌になりながらも城門に向かった。城門につくと衛兵が数名立っていた。



 「すいません!こちらに来るように言われたのですが」


 「0の少女ですね。すぐに皇帝陛下の元へ案内します」



 私は衛兵に連れられて皇帝の間に案内された。



 「ここからは私が案内するわ」


 「わかりました。リーベ宰相」


 「あなたが0の少女ね。とても可愛らしいのね」



 リーベは笑顔で私を出迎えてくれた。



 「ありがとうございます。私はハツキと言います。以後お見知りおきを」



 私は初対面のお偉いさんを一人で対応するのに少し緊張していた。



 「そんなに緊張をしなくても良いのよ。皇帝陛下はとてもやさしい方なのでリラックスすると良いわよ」


 「あいあいさー!」


 『クス』


 「ハツキさんは面白い方なのですね」



 リーベは笑いをこらえながら子供を落ち着かせるように、私の手を握って皇帝の間に案内する。



 「ラヴリィ様、0の少女ことハツキさんをお連れしました」


 「そなたが0の少女か!会えることをとても楽しみにしていたわ。噂通りの可愛らしい女の子なのね」


 「ありがたきお言葉感謝いたします」


 

 私は跪いて頭を下げる。



 「0の少女よ、そのような堅苦しい作法など必要ないわ。普段通りに接してくれてもいいわよ」



 「本当ですか!」


 「もちろんよ。私も堅苦しい場は苦手なのよ!」



 ラヴリィ皇帝はウインクをして私の心をなごませてくれた。



 「やったぁー。ではお言葉にあまえさせてもらいます」



 私は用意されてあった豪華な椅子に飛び込んだ。とてもふわふわで気持ちよくいつでも眠れそうであった。



 「その椅子は以前私が使っていた玉座よ。雲の上に座っているかのような弾力のあるクッションは、疲労回復と尾骶骨に刺激を与えヒップアップの効果があるの。それに背もたれにある突起物もあらゆるツボをしげきして、背筋の湾曲を強制する効果もあるのよ!」


 「すごいイスなんですね」


 「もちろんよ。私が使うすべて物は美容魔法を応用して、美を追求するために作られているのよ。リーベ、新作の果実ジュースを用意して」


 「わかりました」


 「果実ジュースを頂けるのですか!」


 「美味しくて美容効果のある果実ジュースを求めてこの地に赴いたのでしょ。長旅の話など聞かせてほしいところだけど、その前に1つ教えてほしいことがあるのよ」


 「私がわかる事ならなんでもお答えします」


 「私が知りたいのは『黒天使』のことよ。ヴァイセスハール王国に突如現れた王者ランクの冒険者、その姿その強さ、すべてが謎のベールに包まれている。私が入手した情報によると、火炎竜王の鱗を入手し、白銀狐との和平にも成功し、ヴァイセスハール王国に迫りくる魔獣たちを退けたとも聞いている。そして、その『黒天使』と0の少女が友達であると・・・」


 「えーと・・・実は私『黒天使』さんとはお友達ではないのです」


 「私の元に届いた情報が間違っていたのね」


 「そうです」


 「あなたは嘘は言っていないようね。私の銀の瞳は相手の嘘を見抜く不思議な力があるのよ」


 「皇帝陛下!銀の瞳の特殊能力を他言してはいけません」


 「0の少女ならいいのよ。私は探りを入れるような事をしたお詫びの気持ちで、私の秘密を教えてあげたのよ」


 「実は『黒天使』に依頼したい案件があったのに残念だわ」


 「皇帝陛下!どのような依頼なのでしょうか?」


 「MYKの新工場の破壊と『赤朽葉の爪』のリーダーであるキューンハイトの討伐依頼よ」


 「私は『黒天使』さんとは連絡はとれませんが、ブランシュちゃんなら連絡を取れると思います」


 「頼んでもらえるの!」


 「確約とは言えませんが、ブランシュちゃんに伝えておきます。もし、ダメだったら私が依頼を引き受けます」


 「頼もしい言葉ね。私の銀の瞳から伝わってくるまっすぐな気持ち、自信あふれる瞳、魔力量が0なのにその堂々たる振る舞いに私は尊敬を念を感じたわ」



 私には怪力と頑丈な体がある。もし黒天使に依頼することができなければ、私が依頼を引き受けるつもりであった。





 






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