第109話 籠城


 「それは本当なのか!」


 「本当だ。冒険者証を確認したので間違いない」


 「0の少女が来たのならなぜ?連絡をしないのだ」


 「今連絡しに来たところなのだ」


 「来るのが遅いぞ」


 「そんなはずはない。馬を飛ばして最速で来たのだぞ」


 「嘘をつくな!現に0の少女の方が早く着いているじゃないか」


 「それは・・・」


 「争いごとはやめてください。私は何も気にしてませんので、早く果実ジュースを飲ませてください」


 「わかりました。皇帝陛下は0の少女に会いたがっていたはずなので、すぐにお城に案内します」



 衛兵は、近くにある部屋に入りボタンを押した。すると、激しい水しぶきを上げて、湖の底から銀色に輝く橋が浮かび上がってきた。



 「私が案内しますので付いて来て下さい」



 私は衛兵と一緒に橋を渡った。橋を渡り終えると橋は湖の底に消えていく。橋を渡り大きな城門をくぐると、数件の店舗や家が立ち並んでいた。そして、その奥に真っ白な大きなお城が聳え立っている。



 「私は皇帝陛下に報告に行ってきますので、あちらの紫色の屋根のお店が果実ジュースのお店になりますので、お店で待っていてください」


 「ありがとう!すぐに行ってくるわ」



 私は一目散で紫色の屋根のお店に駆け出して行った。




 「皇帝陛下、0の少女が帝都に来られたそうです」


 「それは、誠に嬉しい知らせだわ。すぐにここに連れて来ることはできないかしら?」




 ※フンデルトミリオーネン帝国の皇帝 ラヴリィ・ディーオ・アグリーアブル【女性】 紫色のロングヘア―に銀色のメッシュが入っている。銀の瞳と赤の瞳のオッドアイ。40歳とは思えない美貌は、いち早く美容魔法の効果に注目し、アーモンドに援助をするなどをして、最新の美容魔法を導入しているからである。



 「可能です。すでにオーブストにて果実ジュースを堪能していると聞いています。おそらく、0の少女はオーブストの果実ジュースを飲むために我が国に来たと推測されます」


 「オーブストの果実ジュースに目をつけるとは、さすが0の少女だわ。新作の果実ジュースも用意して出迎えましょう」


 「御意」



 宰相であるリーベ『女性』はすぐに兵士に新作の果実ジュースを用意させ、私を呼びに来たのである。



 「おかわりをもらえるかしら!」


 「お客様、これで10杯目になりますが、大丈夫でしょうか?」



 店員は私の体に気遣ってくれている。



 「問題ありませんわ。ここの果実ジュースはいくら飲んでも太らないと聞いているので、飲めるだけ飲んでおきたいのよ」



 10杯目の果実ジュースを飲みほしたが、全くお腹が膨らまないので私は調子にのっていた。



 「お客様、たしかに女王陛下が開発したこの果実ジュースは、カロリーゼロでいくら飲んでも太りはしませんが、飲み過ぎは体によくありません。この辺でおやめになさった方が良いと思います」


 「それならもう一杯だけいただくわ。それで最後にするわ」


 「わかりました。飲み過ぎるとトイレに行く回数も増えると思いますので気を付けてください」


 「問題ないわよ」



 私は11杯目の果実ジュースも一気に飲み干した。



 「う・・・膀胱が・・・」



 私は急にお腹が痛くなってきた。もちろんジュースの飲み過ぎで膀胱がパンパンになってしまったのである。



 「店主さん!おトイレを借りてもよろしいでしょうか」


 「お客さん、だから言ったではないですか!トイレの使用は構いませんが長居はよしてくださいね」


 「わかりました」


 

 私は颯爽とトイレに向かった。



 「0の少女をお迎えに来ました」


 「先ほど来店してきた女の子ならおトイレに行っています」


 「わかりました。しばらくここで待たせてもらいます」


 「どうぞ」



 私を迎えにきた衛兵は店内で私がトイレから出てくるのを待つことにした。


 30分後・・・



 「店主、本当に0の少女はトイレに行ったのでしょうか?」


 「間違いありません。トイレは使用中になっていますので、もう少しお待ちください」




 1時間後・・・



 「店主、本当に本当に0の少女はトイレにいるのでしょうか?」


 「女性店員に確認してもらいましたが、もうしばらくトイレを貸してくださいとのことでした」


 


 2時間後・・・



 「店主!皇帝陛下がまっているのだぞ!いつまでも0の少女を監禁しているとここでの商売ができなくなるぞ」


 「私はあの女性に飲み過ぎは良くないとちゃんと警告をしたのです!いくら太らない果実ジュースでも飲み過ぎると利尿効果を促進し、トイレが近くなることを!それに皇帝陛下もその内容はご存じのはずです。私が故意に監禁したのでないことはすぐに理解してもらえるはずです」



 5時間後・・・



 「衛兵さん、なんとかしてもらえないでしょうか?私は店を閉めたいのですが、お客様がトイレにこもって出てこないので困っているのです」


 「皇帝陛下からは、0の少女は丁重に扱うように言われています。私どもはなにもすることはできません」



 10時間後・・・



 「明日また伺いますが、もし0の少女が出てきたら明日お城に来るように伝えておいてください」


 「・・・」



 私はトイレにこもっているうちに寝てしまったのである。店主は私がトイレから出てこないのであきらめて店にカギをかけて帰ったのであった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る