第103話 手錠デスマッチ


 「アイリスさん、リードの製作代金はいくら支払ったらいいのかしら」


 「ハツキさん、代金はいらないので素材の回収をお願いできないかしら」


 「いいわよ!」


 「助かるわ。実は黒狐の毛皮が欲しいのよ。安価で人気のない素材だったので逆に入手が難しかったのに、今は全く手に入らない安価で人気のないレア素材になってしまったのよ」



 黒狐の毛皮は特に使い道がなかったので、素材価格が非常に安かった。しかし、安い割にはCランクと中級冒険者以上でないと倒せない魔獣だったので、誰も討伐したがらないので入手が困難な素材であった。



 「人気のない素材が欲しいんですね」


 「そうなのよ。黒狐の毛皮にはまだ明るみになっていない特徴があるので、それを研究しているのだけど、毛皮の量が足りないから調達をお願いしたいの」



 アイリスも黒狐の毛皮には魔力量を増進させる作用がある事を発見していたが、まだ研究段階であり、実用化には至っていないのである。イーグルネイルは偶然にも黒狐の毛皮の新たな使い道を発見してMYKを生産したが、完全な実用化はできずに効果以上に副作用が発生し失敗作とも言える作品になっていた。



 「すぐに取ってきてあげるわよ」


 「黒狐はヴァイセスハール王国、フンデルトミリオーネン帝国、オレンジェザフト帝国の三つの国が隣接する中間地点の魔獣の森に生息するの。その森は黒狐王が支配していた森なので、黒狐王が討伐された今は、中級冒険者以上ならば苦戦することはないはずよ」


 「私は初級冒険者だけど問題ないわ」


 「そうね。伝説の鉱石をゲットするハツキさんに危険な場所なんて存在しないわ」


 「早速今から行ってきます!」


 「ハツキさんなら心配は無用だと思うけど、無理はしないでね」


 「はい!」



 私は黒狐の毛皮を目指して魔獣の森に向かう事にした。もちろん、私の真の目的は出来上がったばかりのリードを使ってプリンツと一緒にお散歩する事である。私はプリンツが本来の姿に変身できる場所までひとっ飛びした。




 「プリンツちゃん、見て見て!とっても可愛いリードでしょ」



今回私が10種類あるリードの中で選んだリードはピンク色のリードであった。



 「僕はそのヘンテコなロープのようなモノで繋がれてしまうんだね」




 プリンツにはリードの事はきちんと説明したが、全く理解してもらえなかった。なぜならばプリンツにとって、私とリードで繋がれる事は、私の超高速走りに強制的に引きずられる事であると感じていたからである。プリンツにとってリードとは手錠デスマッチのようなイメージであった。




 「プリンツちゃん・・・なんだか浮かない顔をしているような気がするわね」




 私は飛び上がって喜んでくれるものだと思っていたので拍子抜けである。




 「わかっているよハツキお姉ちゃん。これも修行の一環なんだね」



 プリンツは迫り来る恐怖に打ち勝って堂々たる出立ちで私の方を見る。



 「なんだかプリンツちゃんの表情が硬いような気がするわ。私とのお散歩は飽きたのかしら」


 「ハツキお姉ちゃん、僕は全然問題ないよ!お散歩という名の修行は僕にとっては大事な事だよ。全力で魔獣の森に行こうよ」



 プリンツは私より先に全速力で走り出した。プリンツは今までの私との旅によりレベルも上がりスピードもアップしているので、一瞬で私の視界から姿を消した。万能鉱石で作られたリードはどこまでも伸びていく。



 「もぉ〜プリンツちゃん。私を置いていくなんて失礼しちゃうわ。今回は2人で仲良くお散歩をするのよ」



 万能鉱石で作られたリードは無限に伸びるわけではない。元の長さは10mであり最大は500mである。なので500m以上は私から離れることができないのであった。



 「えい!」



 私が軽くリードを引っ張ると黒い塊が私の方にものすごい速さで飛んできた。悲鳴と共に。



 「グアァァァァ」



 もちろんプリンツの悲鳴である。



 「もぉ!プリンツちゃん私を置いていくなんてあんまりだわ」



 私はプリンツに説教をするがプリンツは全く聞いていない。いや失神して聞くことが出来ないのであった。



 


 「キューンハイト様、ここが新しいMYK並びにMYKSの製造工場ですね」


 


 ※キューンハイト 赤朽葉の爪のリーダーでありMYK・MYKSの製造責任者。坊主頭のブヨブヨ太った中年のおっさんだが、MYKを服用すると力士のような脂肪と筋肉が融合した筋肉質な体になる。目は茶色だが、MYKを服用すると赤く充血する。



 「そうなのだ。ここが新たな製造工場だ。ここでMYKSを作りまくってがっぽり儲けさせてもらうぞ」


 「しかし、キューンハイト様、MYKSはまだ試作段階です。もう少し改良の余地があるとボスが忠告をしています」


 「問題ない。俺は天才魔導技師だ!適当に配分を変えていけば、MYKくらいの副作用で済むようになるはずだ」


 「確かにそうですね。MYKも最初はひどいモノでしたが、適当に配分しているうちに副作用も軽減されましたね」


 「そうなのだ。研究とは失敗の繰り返しだ。緻密に計算された研究など素人がする事だ。俺のような天才は直感とヒラメキで研究するのだ」


 「凡人と天才の差はそこにあるのですね」


 「そうなのだ。では早速だがこの出来あがったMYKSを飲んでみてくれ」


 「私がですが!」


 「そうなのだ。お前以外誰がいるのだ」


 「いつもはMYK中毒者に飲ませているはずでは?」


 「ここは新工場だ。まだ、引っ越しは済んではいないから今は俺とお前しかいないだろ」


 「でも・・・」


 「俺が作ったMYKSを疑っているのか?」


 「そんなことはありません」


 「じゃあ飲め」


 「・・・」


 「飲め!」



 部下は渋々MYKSを服用した。


 部下の体からは血管が浮き出てきて体が膨張していく。部下の体はみるみる膨張して服が張ち切れてしまった。だが、体の膨張は収まらずにどんどん膨らんでいく。部下の体はMYKSの筋肉向上作用に耐えきれずに、風船のように膨らんだ後あっけなく破裂した。



 「やっちまったかぁ!前回成功した分量の倍の雪狐の毛を入れたのが失敗だったな。倍にすればもっと魔力と筋力が向上するかと思ったが無理だった。やっぱり前回の分量でいくとするか」




 キューンハイトの適当な配合によって部下は死んでしまった。『赤朽葉の爪』の団員はキューンハイトの実験台になるのが嫌で違う爪への転属願いを出すものが多く、人材不足で大変なのであった。






 


 



 



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