第104話 果実は体に良いのです!


 「ゼルトザーム様、この辺りで奴隷たちを解放いたしましょうか?」




※ ゼルトザーム 『赤朽葉の爪』の採取部隊の隊長である。肩まで伸びた緑色の髪 に瞳は黒で、全身にMYKの文字のタトゥーが彫ってある。体は常に血管が膨らみ筋肉は絶えずバンプアップ状態である。MYK中毒者で常時MYKを服用している。火炎魔法の使い手である。



 「そうだな。黒狐は獰猛で食欲旺盛な危険な魔獣だ。しかし、餌を食べている時は警戒心が薄れて簡単に討伐できる相手だ。奴隷を餌にして黒狐を討伐するぞ」


 「では、荷馬車から奴隷を降ろしてきます」



 ゼルトザームの部下であるアンドレアスは、荷馬車の荷台に積んでいる3人の奴隷を足で蹴り上げて荷台から突き落とす。



 「お前らの仕事の時間だ!足の手錠は外してやるから逃げたい奴は逃げるがいいぞ」



 3人の奴隷は親子である。男性と女性は30代くらいで、子供の女の子は10歳くらいである。男性がMYKに手を染めて借金が膨らんだため、借金の肩代わりとして奴隷にされたのである。3人は両手両足を拘束されていて、身動きが取れない状態だったが、両足の拘束が外されて動けるようになったのである。


 3人を荷馬車から下ろすとゼルトザーム達は荷馬車に乗り込み、3人が黒狐の餌になるのを少し離れたところから監視するのである。


 恐怖に怯えた3人は逃げることもできずに地面に座り込んでいた。



 「アイツらもやっぱり動きませんね」


 「いつものことだ。俺たちが黒狐を誘き出すしかないな」



 ゼルトザーム達は、毎回奴隷を餌にして黒狐の討伐を行っている。奴隷達は、自分たちが魔獣の森で黒狐の餌になることは事前に知らされているので、恐怖と絶望で魔獣の森から脱出をしようとはしない。それは、黒狐から逃げ出すことが出来ないとわかっているからである。魔法も武器も使えないように手を拘束されている以上逃げるしか方法はない。しかし、黒狐のスピードは時速100kmほどであり、人間のスピードで逃げ切ることは不可能なのである。


 


 「お父さん、お母さん逃げようよ」


 「無理だ。どこに逃げても黒狐に見つかって殺されるだけだ」


 「そうよ。もう、私たちはおしまいなのよ」


 「そんなことないよ。一生懸命逃げれば助かるかもしれないよ」


 「どんなに頑張っても無駄なことは無駄なんだよ」


 「そうよ。みんなここで黒狐の餌になって死んでしまっているのよ。アンネちゃんごめんね。私たちはあなたを守ることはできないの」


 「すまない。全部俺のせいだ。あんな薬に頼った俺がバカだった」


 「お父さん、お母さん諦めちゃダメ!0の少女さんは魔力量が0でも元気に明るく生きているって聞いたことがあるの。私は0の少女さんのようにどんな状況でも諦めたくないの」


 「0の少女・・・そうね。本当に存在するか知らないけど、隣国のヴァイセスハール王国には魔力量が0でも冒険者になった少女がいると噂になっていたわね。私たちも0の少女のように無駄だとわかっていても希望を捨てずに頑張ってもいいかもね」


 「そうだな。俺のせいで大事な家族を奴隷にしてしまった。俺は全てを諦めてしまっていたが、0の少女の境遇に比べればまだ希望があるかもしれない。ここから逃げよう!もしかしたら、偶然通りかかった冒険者が私たちを助けてくれるかもしれない」


 

 

 3人は立ち上がり必死に森の中を走って行く。





 「ハツキお姉ちゃん・・・首が・・・首が・・・」



 プリンツの首は今にももげ落ちそうであった。リードの長さには限界がある。そして、万能鉱石で作られたリードは絶対に壊れないので、首輪を外すことが出来ない。なので、プリンツはリードから逃れることはできないので、私がスピードを出しすぎるとプリンツの首はもげ落ちそうになるのであった。



 「あら、プリンツちゃんごめんなさいね。美味しそうな果実がなっていたので、ついついよそ見をしちゃったわ」



 私には今回の目的は3つある。1つ目はアイリスに作ってもらったリードでプリンツと楽しくお散歩をすることである。2つ目はケーキを食べすぎたのでジョギングをしてダイエットをすることである。1つ目と2つ目は同時に進行できるので一石二鳥である。3つ目はアイリスさんに頼まれた黒狐の毛皮を入手することである。


 私にとって1番大事なのは2つ目のダイエットである。もうお腹が膨れて苦しむ思いはしたくないのである。しかし、病院食ばかりの生活をしていた私には、甘いスイーツはいくら食べても飽きることはない。そこで、アイリスに相談したところ、ケーキと違って果実は、ビタミンも豊富で美容効果に加えて太りにくいと教えてもらった。なので、私は黒狐討伐までの道のりを、果実を採取しながら行くことにしたのであった。



 

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