第102話 リード

 「アイリスさん、ただいま!」



 私はヘンドラー男爵邸に着くと真っ先にアイリスのいる工房へ向かった。それは、万能鉱石で作って貰いたい物があったからである。



 「ハツキさん、おかえり。元気そうで何よりだわ」



 アイリスは笑顔で出迎えてくれた。



 「アイリスさん、実はお願いしたいことがあるの」


 「・・・」



 アイリスは何かとんでもない事を頼まれそうな予感がして声が出なかった。



 「私、モォーモォー山で万能鉱石を拾ってきたのよ!」


 「ば・・・万能鉱石!!!」


 「そうよ」


 「ハツキさん、万能鉱石は伝説上の鉱石であって実在しないのよ」


 「そんなことはないわ。ほら!これが万能鉱石よ」


 

 私は作業台の上に万能鉱石の一部を置いた。



 「確かに伝説に言い伝えられた通り濁りが全くない真っ白な鉱石だわ。これほど真っ白な鉱石は初めて見たわ」


 「でしょ!本当にあったのよ」


 「ちょっと待ってね、夫に鑑定してもらうわ」



 アイリスはヘンドラー男爵を呼びに行った。



 「ハツキさん!本当に万能鉱石を発見したのですか」



 廊下から凄まじい足音をたてながらヘンドラー男爵が工房に姿を見せた。



 「はい!偶然見つけちゃいました」


 「直ぐに鑑定致します」



 数分後



 「これは新種の鉱石であり万能鉱石である可能性が非常に高いと言えます。ハツキさん、この鉱石はどこで入手したのでしょうか?そして、まだそこには鉱石は眠っているのでしょうか?」


 「モォーモォー山の洞穴にあったのよ。全部持って来たからもうないと思うわ」


 「そうですか。万能鉱石は世界の創造神と呼ばれるアースドラゴンが生み出す伝説の鉱石だと鑑定学で学びました。しかし、それはあくまで空想上であり誰も信じていませんでした。まさか本当に存在するとは驚きです。ハツキさんが全て持っているのなら安心です。万能鉱石が発見されたとなると、万能鉱石を巡って国家間の争いにも発展するかもしれません。絶対に万能鉱石のことは誰にも口外しない方が良いと思います」


 「そんなに貴重な鉱石だったのね」


 「そうです。なのでこの事は国王様にも言わない方が良いでしょう」


 「そうするわ。でも加工はできるのかしら?私はこの万能鉱石を使って作って欲しい物があるのよ」


 「ハツキさん、万能鉱石で作られた武器は、おそらく国を一つ落とすほどの威力を発揮する恐ろしい武器になります。そのような武器を作ることは世界の理に反する行為だと思います。申し訳ないですが、考え直してくれないでしょうか?」


 「武器?私はリードを作って欲しいのよ」


 「リード?それはどのような武器なのですか?」


 「武器じゃないわよ!リードとはペットと一緒に仲良く散歩するための道具よ」



 私はプリンツを置き去りにしないようにリードを作って欲しいと思っていた。なので、リードのことをきちんとヘンドラー男爵に説明した。



 「なるほど!それは便利な物ですね・・・って!万能鉱石をそんな使い方をするのですか?」


 「だって、万能鉱石は加工すると伸び縮みする便利な鉱石だと聞いたわ。リードにするのが1番だと思うのよ」


 「あなた、リードなら悪用されることもないし、誰も万能鉱石で作られた物とは思わないわ。万能鉱石を平和利用するには、別の使い道があるかもしれないけど、万能鉱石の存在自体を公にするのは危険だと思うのうよ。ハツキさんはそのことを考慮した上でリードを作ることにしたのよ」



 もちろん、私はそんな深い意味など考えていない。



 「さすがハツキさん。私の想像の遥か上を考えていたのですね」


 「そ・・・そうなのよ」



 私はとりあえず話を合わせるのが正解だと思った。



 「あなた、私も万能鉱石の加工をしてみたいわ。伝説の鉱石を加工できるなんて魔導技師として栄誉のあることだと思うわ」


 「ハツキさん、リードの依頼を受けたいと思います。少し時間がかかるかもしれませんが最高のリードを妻と共に作り上げたいと思います」


 「ありがとう!まだ万能鉱石はあるので全てリードを作ってね。できれば、全部色違いにして欲しいのよ。その時の気分によってリードの色を変えてみたいのよ」



 たくさんの万能鉱石を見たヘンドラー男爵とアイリスは呆然としていたが、そんなことはおかまいなく私はどのようなリードにして欲しいか詳しく説明をした。


 数日後、私の要望通りの10種類のリードが完成する。こうして伝説の鉱石である万能鉱石は、日の目に出ることなくリードとしてデビューするのであった。

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