第101話 裏切り者
「ライゼフューラー様、私は裏切ってはいません」
ライゼフューラーは『紅蓮の爪』のリーダーである。
「お前は三つの爪を監視するため、カラミティ大陸全土を駆け回っていただろう。お前はあらゆる情報を収集する事が出来る立場であった。これらの全ての事件にかかわることができたのはお前だけだ」
「そんなの言いがかりです。私は何もしておりません」
「なぜ?ボスはお前に雪狐の討伐を命令し、そして、その後にロートをお前の元に送ったのかわかるか。ボスはお前の動向を監視するためにロートを送り込んだのだ」
「私は最初から信用されていなかったのですね」
「そうだ。アードラーが殺された頃からボスはお前を警戒していた」
「ロートはボスが私のことを信用していると言っていたはずなのに・・・」
「それは、お前を欺くためにボスはロートに嘘を言っていたのだ」
「私は・・・私は・・・ボスのために、イーグルネイルのために頑張っていたのです。なのに・・・ボスは俺を信じていなかったのだなぁ!」
ファルコンは、上司であるライゼフューラーに礼を尽くしていたが、ボスに信じてもらえなかったことに怒りが頂点に達した。
「ついに本性を現したな!」
「ライゼフューラー、俺がお前にリーダーの座を譲ったのはなぜだかわかっているのか?」
「簡単なことだ。お前が俺より弱いからだ」
ライゼフューラーは言葉を発した後、頭が胴体から離れ、地面に頭が転がっていた。
「違うな。俺が自由に動き回るためだ。俺は自分の目や耳で、ボスやイーグルネイルを裏切る愚か者を見つけ出すために大陸中を移動したかったのだ。お前のように安全な場所で、女を侍らせて贅沢な暮らしをするのが愚かだと俺は思っていたのだ。しかし、ボスは俺よりもお前の方が大事だったらしいな」
「ファルコン様、何があったのでしょうか?」
ファルコンがとある一室から出ると『紅蓮の爪』のメンバーである数名の盗賊たちがファルコンを取り囲む。
「ライゼフューラーを殺した」
「やはりあなたは裏切り者だったのですね」
盗賊たちは剣を抜き取りファルコンに剣を向ける。
「俺の実力は知っているよな。死にたくなければ道を開けろ」
盗賊たちの腕はガクガクと震えていたが、道を開けずに剣を握りしめている。
「道を開けろ!」
ファルコンは大声で怒鳴り上げる。盗賊たちはファルコンの威圧にびびってしまい。そのまま腰を落として尻もちをついた。
「ボスに伝えておけ、俺を敵に回すとどうなるか思い知らせてやると!」
ファルコンは『紅蓮の爪』のアジトを去って行った。
「皇帝陛下!ヴァイセスハール王国より使者が来ています」
「通して構わないぞ」
「わかりました」
ヴァイセスハール王国からの使者は、オランジェザフト帝国のエルガー・エンデ・クランクハイト皇帝に、雪の大地の現状と白銀狐との和平の詳細を説明し、その証拠として、白銀狐の毛皮を献上した。使者は王の間から一旦席を外し、エルガー皇帝の判断を待つ事になった。
「ドロテーア、この毛皮は本物か?」
※ ドロテーア宰相(女性)年齢不詳 身長171cm 金髪のロングヘアー 右目が青で左目が赤のオッドアイ。長身で細身の美しい女性である。
「鑑定しなくても本物だと思います」
「そうか。それなら使者の話を全て信用してもいいのだな」
「はい。嘘をついているように感じませんでしたし、嘘をつく理由もありません。しかし、雪の大地の調査は我が国だけで行うのが良いでしょう」
「どうしてだ?」
「『黒天使』という冒険者が白銀狐と和平を結んだということは、雪の大地だった場所の所有権は誰の者になると思いますか?」
「あの土地は我が領土だ」
「それは10年前の話です。あの土地は白銀狐に奪われてしまったのです。なので、今は誰の土地でもありません」
「それなら再び我が領土にすればいいのでないのか?」
「はい、その通りです。しかし、ヴァイセスハール王国と共同で雪の大地を調査すればどうなるでしょうか?」
「あいつらは領土を奪いに来たのか・・・」
「そうです。しかし、それは当然の権利とも言えるでしょう。実際に白銀狐と和平を結んだのはヴァイセスハール王国の冒険者なのですから」
「白銀狐に奪われた領土は、次はヴァイセスハール王国に奪われてしまうのか・・・」
「ヴァイセスハール王国も全てを奪うことはしないでしょう。そのために私たちは王子をシュテーネン専門魔法学院に通わせて友好関係を結んでいるのですから」
「そうだったな。しかし、どのように対処すればいいのだ」
「先に雪の大地の調査は私たちだけで行い、本当に緑の大地に変わっていれば我が国の領土であることを宣言すべきです。その後は自由にヴァイセスハール王国に調査をさせれば良いと思います」
「それでヴァイセスハール王国は納得するだろうか?」
「我が国が最初に調査するのは、あくまで安全の確保をするためという事にします。安全が確認できれば共に調査するという名目をつければ問題はありません。なので、直ぐにでも調査をすべきだと思います」
「わかった。今直ぐに調査部隊を派遣する。使者にはお前から上手く伝えておけ」
「わかりました」
ドロテーアは、使者に白銀狐の毛皮の鑑定が時間がかかると言って、オランジェザフト帝国に3日間滞在させてから、共同調査の件を伝えたのであった。
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