第83話 MYKSの秘密

 「ロート、俺を監視していたのか?」



 ロートとはイーグルネイルの暗殺部門『殺死隊』の1人である。



 「今回の任務はイーグルネイルの未来にとても重要な案件です。なので、監視というよりも協力しにきたと言った方が正しいでしょう。しかし、ボスの企みを見抜いていたとは驚きです」


 「やはり当たっていたのか」


 「そうです。国の乗っ取りはイーグルネイルの中でも最重要機密事項です。その機密事項を下位の隊員に知られるわけにはいきません」


 「だから、あいつを殺したのか」


 「そうです」


 「俺も殺されるのか」


 「ファルコンさん。あなたはイーグルネイル最強と言われたアードラーを凌ぐ実力者だとボスからは聞いています。私がMYKSを服用しても勝つ可能性は低いでしょう」


 「謙遜はするなロート。お前はボスの右腕として数々の暗殺を成功させてカラミティー大陸最大の盗賊団に仕上げた立役者だ。そして、盗賊ギルドを設立し、各国に盗賊ギルドマスターを送り込み、裏でカラミティー大陸を支配しているのはボスではなくお前だと俺は知っているぞ」


 「さすがですねファルコンさん。なんでも知っているのですね。しかし、そのことは絶対に誰にも口外してはいけません」


 「わかっている。俺はお前と揉めるつもりなど一切ない。しかし、本当に雪狐を討伐するのか?あの事件の惨劇をまた繰り返すつもりなのか」


 「心配しないでください。ボスもまさか白の厄災の女王の呪いがここまで強大で恐ろしいものだと、あの時は理解していなかったのです」


 「ボスは、アードラーに雪狐を討伐させたのは、白銀狐にオランジェザフト帝国を襲わせ、その混乱に乗じて国を乗っ取るつもりだったのだな」


 「そういうことです。しかし、白銀狐の強さを見誤っていたボスの計画は失敗に終わりました。だから、今回は白銀狐を怒らせるつもりはないのです」


 「なら、どうして雪狐の討伐を俺に依頼したのだ」


 「さっきも言いましたが、私は協力しに来たのです。実はある重要なことをボスはあの場ではあえて言うことを避けていたのです」


 「どういうことだ」


 「MYKSを製造するには雪狐の毛皮が必要です。しかし、私の研究結果により雪狐の抜け押した毛でも効果があるとわかったのです」


 「討伐しなくても良いのか?」


 「そうです。雪狐は基本温厚でこちらが襲わなければ大人しい魔獣です。だから、簡単に雪狐の抜け落ちた毛を入手することができるのです」


 「そんな簡単な任務なら俺でなくても良いのでは?」


 「簡単に入手できるのが問題なのです。MYKSはボスの国乗っ取り作戦の重要な薬なのはあなたもご存知でしょう。その薬を作る素材が安易に手に入るとわかるとMYKSの価値が下がり価格の暴落につながってしまいます。それを隠すために雪狐を討伐して来いとボスは言ったのです。雪狐を襲えば白銀狐が報復に来るのは周知の事実です。だから、MYKSを作るには希少な素材が必要だとアピールする必要があったのです」


 「MYKSの希少価値をアピールするのが狙いだったのか?」


 「そうです。MYKの製造過程は極秘にされていましたが、一部の裏切り者により製造方法が他の組織に流れて、安価なMYKのジェネリック品が市場に出回っています」


 「それでボスは嘘の依頼を俺にしたのだな」


 「そうです。あなたは腕も立つうえに頭も良い、あまり自分の考えを他人に伝えない方が良いと思います。ボスはあなたを信用しているが、ほとんどの団員のことは信用していません」


 「わかった。俺の考えは俺の胸の内にしまっておく」


 「さて、雪狐の毛を拾いにいきましょうか」


 「そうだな。ここから先は火炎竜のローブが必要だな」



 ロートとファルコンは火炎竜のローブを纏い雪狐の抜け落ちた毛を探しに行った。



 「プリンツちゃん見て!雪よ」



 私はオランジェザフト帝国領である雪の大地に到着していた。



 一面真っ白の綺麗な景色とは裏腹に、そこは人も魔獣も住めない極寒の地であり、絶えず冷たい冷気の突風が吹き荒れていた。この地に踏み入れるには火炎竜のローブが絶対に必要である。丈夫で頑丈な体を持っている私でさえこの環境は、少し寒さを感じてしまい、念のために用意していた薄手のピンクのカーディガンが役に立ったのである。プリンツは無敵の毛で覆われているので寒さは全く問題ない。



 「ハツキお姉ちゃんは雪は初めて見たの?」


 「見たことはあったけど触ったことがなかったのよ。ふわふわで気持ちがいいわ」



 私は雪の大地を走り回り、雪を手に取って感触を確かめていた。プリンツは私が雪を見てはしゃぐ姿を暖かい眼差しで見守っていた。



 「プリンツちゃんは走り回らないの?とっても気持ちがいいわよ」


 「僕はそんな子供みたいなことはしないよ」


 

 とプリンツは言っているが、深雪の大地を歩くのはかなり困難であり、沈まないように慎重にプリンツは歩いていた。



 「もぉ!プリンツちゃん。私が子供みたいと言いたいのね。そんなことを言うプリンツちゃんにはお仕置きよ」



 私は雪でボールを作ってプリンツに投げつける。私の怪力で作られた雪のボールは鉄球のように硬くなった。そして、私が投げた雪のボールは弾丸のような速さでプリンツの元へ飛んでいく。


 プリンツはあまりの速さに対処することができず避けることができない。雪のボールはプリンツの無敵の毛を数本破壊してどこか遠くへ消えていく。私がノーコンだったからプリンツは命を落とすことはなかった。


 しかし、私たちから数キロ離れた場所にいたロートの頭に雪のボールは直撃して、ロートは命を落としてしまった。

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