第82話 黒幕の正体
次の日、私は朝早くに宿屋を出発した。
「行くわよ。プリンツちゃん」
「自分の足で走れるよ」
「ダメよ。今日はプリンツちゃんとはぐれないで雪を見に行くのよ」
前回、いろんな誘惑に負けた私は、プリンツの存在を忘れて、1人でモォーモォー山を登ってしまったので、今回は、2人で一緒に雪を見るために、プリンツちゃんをワンピースのポケットに入れて出発することにした。
「そういうことなんだね!ハツキお姉ちゃん」
プリンツは理解した。前回は、体力を消耗仕切ってからの戦いを強要されたが、今回の相手は数段格上の白銀狐である。万全の体調で戦わないと絶対に勝ち目などないので、体力を温存するために自分をポケットに入れて、オランジェザフト帝国を目指すのだろうと理解した。
「そういうことよ」
私は、プリンツちゃんがはぐれないようにポケットに入れたことを理解したと思い込んだ。
「午前中までにはオランジェザフト帝国の雪の大地に到着するわよ」
私は地図を片手にオランジェザフト帝国に向かった。
オランジェザフト帝国は、白銀狐によって、国の6割を雪の大地に変えられて人が住めなくなった国。雪に覆われた大地には、白銀狐の呪いによって氷柱にされて死んだ人々が、今もなお大雪を降らし冷たい冷気を発している。この厳しい環境下にあるため、人間だけでなく魔獣すら近寄ることができない。
「ファルコン様、本当に雪狐を討伐するのでしょうか?」
「ボスからの命令だ。アードラーの秘宝のありかは未だに所在が不明だ。アードラーが何者かに殺され、秘宝のありかは完全にわからなくなったのだ」
「アードラーの秘宝とは雪狐の毛皮ですね」
「そうだ。火炎竜の炎ですら無効化する貴重な素材だ。あの事件の時『有頂天』は10匹の雪狐を討伐した。『有頂天』のメンバーは、アードラー以外は白銀狐の呪いによって死んだのだが、アードラーはヴァイセスハール王国の国王軍によって捉えられた。しかし、アードラーが捕まった時には雪狐の毛皮を持っていなかったのだ」
「確か、アードラーはある人物の依頼を受けて雪狐を討伐しに行ったと自供したはずですね」
「そうだ。アードラーは依頼主を決して自供せず、雪狐の毛皮のありかも決して話さなかった」
「一体誰が依頼したのでしょうか?」
「それは未だに謎であるが、アードラーはゼーンブスト国王と司法取引をしたらしい」
「司法取引?」
「そうだ。あの事件でゼーンブスト国王の弟であるメルクーア大公の婚約者であるモンブランが、白の厄災の女王の呪いにかかってしまった。ゼーンブスト国王は、呪いの解除に必要とされる火炎竜の鱗が是が非にも入手したかった。それは、モンブランだけでなく、オランジェザフト帝国で呪いにかかった全ての者を助ける為であった。ゼーンブスト国王は、アードラーに雪狐の毛皮の所在を明らかにすれば、罪を不問にする司法取引をしたのだ」
「そのような取引があったのですね」
「そうだ。これは国家の機密事項なので知る者はほとんどいない。しかし、アードラーは司法取引に応じるふりをして脱獄に成功した」
「あの難攻不落と言われるレクイエムを脱獄できた理由はそういうことだったのですね」
「そうだ」
「でもいったい誰が、雪狐の毛皮を入手するように依頼したのでしょうか?おそらく、雪狐の毛皮は依頼主の元にあると思うのですが?」
「ここからは俺の憶測だが、雪狐の毛皮を依頼したのは俺たちのボスであろう」
「ほ!本当ですか」
「間違いない。アードラーは脱走後すぐにイーグルネイルに入団し身柄を匿ってもらっている。そして、王者ランクと呼ばれる雪狐の毛皮のありかをアードラーから聞き出しもせずに放置していた。おかしいと思わないか?アードラーを入団させて匿う代わりに、雪狐の毛皮を要求するのが普通だろ。それをしないということは・・・」
「ボスが黒幕だったということですね」
「そうだ」
「でも、それが真実だとすれば、わざわざ危険を冒して雪狐を討伐する必要はないのでは?アードラーの秘宝はボスが持っているはずだし」
「雪狐の毛皮には別の使い道があるとすれば?」
「別の使い道?」
「今イーグルネイルの収入源は、略奪、奴隷売買よりもMYKの売買のが上回っているのは知っているよな」
「はい。略奪、奴隷売買には手間と時間もかかる上に安定収入とはいえませんが、MYKは、一度服用させれば次は相手側から要求してくるので効率が良いと聞いております」
「MYKを製造するには、3種類のスライムの素材を混ぜ合わせて、最後に黒狐の毛皮を少量混ぜることによって完成する」
「黒狐の毛皮に、魔力増進作用があるとは驚きでした」
「あれは偶然発見されたのだが、それがイーグルネイルの資金源になるとは大発見だったと言えるだろう。そして、黒狐の上位種である雪狐にも同じような作用があるのでは?とボスは考えて、当初の目的ではない使い方を試してできたのが、MYKSなのだ」
「MYKSはMYKの10倍の効果があると聞いています」
「そうだ。まだ試作段階であるがボスはMYKSを使って国の乗っ取りを画策していると俺は推測しているのだ」
「国を乗っ取る・・・そんな恐ろしいことができるのでしょうか」
ファルコンの部下がそう答えた時、部下は腹部から剣が突き出て、血を噴き出して倒れ込む。
「ファルコンさん、どこまで私たちの計画をご存知なのですか?」
ファルコンの前に、銀色のフルプレートアーマーを着た仮面を被った男が立っていた。
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