第84話 雪で遊びましょ
「何が起こっているのだ。ここには雪狐しかいないはずだ・・・」
ファルコンは怯えている。目の前でロートの頭に何かがぶつかり、頭が吹っ飛んだからである。ファルコンの足元には頭のないロートの死体が転がっていた。
「また、来たぞ!」
ファルコンの数cm横を白い物体がすり抜ける。
「あれにぶつかってロートは死んでしまったのか・・・。あの物体の正体はなんなのだ?白銀狐の攻撃かそれとも新手の魔獣なのか」
ファルコンがあれこれ考えている間に無数の白い球が飛んで来る。しかし、運良くファルコンにはぶつからずに難を得た。
「ここは危険だ。雪狐の抜け落ちた毛は諦めるとしよう」
ファルコンは無我夢中に逃げるのであった。
「全然当たらないわ」
私は楽しくプリンツと雪合戦をして楽しんでいたが、プリンツに全く当たらずに苦戦していた。しかし、これはあくまで私視点の考え方であり、プリンツ視点では全く異なっていた。
「ハツキお姉ちゃんは、僕を本気で殺すつもりで修行をしているんだね」
プリンツは、目に見えない速さで向かってくる雪の球に死を覚悟していた。
「プリンツちゃん、次こそ当てるわよ」
私は狙い済ませてプリンツ目掛けて雪の球を投げる。
「どっちによければ良いのだ。ハツキお姉ちゃんが投げてから判断しては遅すぎる」
足場の悪い環境で身動きが取りにくいプリンツは、私の投げる雪の球をかわせずにいた。直撃していないのは、私のコントロールが悪いからである。
『ビューン』
鋭い音を上げて雪のボールが飛んでくる。プリンツは結局避けることができずに、雪の球がプリンツをかすめてプリンツの無敵の毛が破壊される。
「プリンツちゃん、避けるのが上手いのね。私の投球フォームから予測して避けているのかしら」
私はプリンツが紙一重で避けている姿を見てそのように推測したが、もちろん私がノーコンなだけである。
「ハツキお姉ちゃん・・・もしかしてアドバイスをしているのかな?」
プリンツは、あえて私が直撃を避けて、かすめる程度に抑えていると勘違いしているので、私の発した言葉をアドバイスと捉えたのである。
「そういうことなんだね、ハツキお姉ちゃん。雪の球を見てから避けても遅いから、投球フォームを見て、どの位置に投げるのか判断しろと言いたいんだね」
プリンツは、私の投球フォームを見て、私が雪の球をどの角度から投げるかによって、雪の球を来る位置を予測した。
「わかったよ。こっちの方角だね」
足場の悪い中プリンツは、投球フォームから予測して右側に避けようとした。しかし、私の投げる雪の球のスピードが、プリンツの動きよりも速すぎるため、避けるよりも早く雪の球が襲ってくる。今回も僅かにプリンツをかすめる程度に終わったので、プリンツは難を逃れたがプライドはズタズタに引き裂かれた。
「ハツキお姉ちゃん・・・僕はまだまだ弱すぎるよ」
私との一方的な雪合戦によりプリンツの無敵の毛は4割も破壊された。
「全然当たらないから雪合戦は辞めましょ」
プリンツはホッとした。このまま続けていれば確実に死を迎えていたからである。しかし、私との死を覚悟した雪合戦によりプリンツは、レベルアップに必要な経験を積み重ねたのである。
「えーと・・・えーと・・・あ!そうだわ。次は雪だるまを作って遊びましょう」
プリンツは破壊された無敵の毛を修復するために、癒しのオーラを発動して回復に努める。
「プリンツちゃん、私が雪だるまを作ってあげるからね」
私は勢いよく雪を転がして走り回った。小さな雪の塊はどんどん大きくなっていく。数分後には私の背丈と同じくらいの雪だるまを作ることができた。
「できたわ。そうだわ!この雪だるまちゃんに小枝を刺して腕をつけてあげようかしら」
私は周りを見渡すが、一面銀世界であり木が一つも生えていない。ある物と言えば、少し離れた場所に5mほどの氷柱があるくらいであった。氷柱は、白銀狐の呪いにかかった人間が死んだ後も活動を続け、凍てつく風を発しながら上空に雪雲を誘い込み、雪を降らすのである。
「あの氷柱を折ったら雪だるまちゃんの腕にできないかしら?」
「ハツキお姉ちゃん、白銀狐の呪いによって作られた氷柱は、絶対氷壁と呼ばれて破壊不可能と言われているんだ。氷柱に近づくと警報風と呼ばれる大きな岩も吹き飛ばす、冷たい突風が吹き荒れるので誰も近づくことはできないのだよ。僕たちヴォルフ族でもあの氷柱には絶対に近づかないようにしているよ。そして、白銀狐の住処の大雪山は無数の氷柱によって作られた山なので、立ち入るのは至難の業なんだよ」
「プリンツちゃん!氷柱を持ってきたわよ」
「・・・」
私はプリンツの話を聞かずにすぐに氷柱をへし折って持ってきたのであった。
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