第72話 イケメン倶楽部の末路


 「早速、王都へ行ってきます」



 私は何も支度をせずにヘンドラー男爵邸を飛び出し王都へと向かった。王都に行くには、国が作った安全な公道を通ればいいのだが、本気走りの私が公道を走れば、かなり目立ってしまうので、私はヘンドラー男爵に貸してもらった地図を頼りに、一直線で王都に進むことにした。



 「プリンツちゃん。王都までお散歩をしましょうね」



 私はワンピースのポケットからプリンツを取り出して、一緒にお散歩をすることにした。



 「修行じゃなくてお散歩をするの?」



 プリンツは少し困惑している。



 「そうよ。地図を見たらあの山を越えたら王都に着くはずなのよ。公道を通るよりも近道だと思うし、山を登るから散歩というよりもハイキングかもね」


 「あの山は・・・モォーモォー山。ハツキお姉ちゃんは、やっぱり僕に修行をさせてくれるんだね。モォーモォー山はAランク魔獣牛牛王の縄張りだ。僕に牛牛王と戦わせたいんだね」


 「行くわよ。プリンツちゃん」



 私はずっと病院のベットの上で生活をしていたので、山には登ったことはない。なので私はドッシリと腰を下ろした大きな山を見て、とても興奮してプリンツの話も聞かずに全力で山に向かって走り出していた。



 「ハツキお姉ちゃん。全力であの山まで走れってことだね。僕に万全の体調で牛牛王とは戦わしてくれないんだ。わかったよハツキお姉ちゃん。スタミナ切れの状態で戦ってこそ修行になるってことだよね」



 プリンツは覚悟を決めて全力で私の後を追うのであった。



※少し時間は遡ります



 ここは王都の騎士団所の牢屋になります。



 「薬をくれぇ〜薬をくれぇ〜」



 老人のようにしわくちゃになった一輪の薔薇がMYKを要求する。



 「もう空いている牢屋がない。お前達はここに入れ」



 一輪の薔薇の入っている牢屋に2人の人物が入れられる。



 「覗きはダメだぞお前達。今日一日ここで反省をしたら明日には出してやる」



 一輪の薔薇と同じ牢屋に入ったのは、『赤朽葉の爪』の副リーダーのグレイヘロンと下っ端のオーストリッチであった。



 「反省しています。2度と覗きなんてしません」



 2人は頭を下げて謝る。



 「グレイヘロン様、私たちの正体がバレなくて良かったですね」


 「そうだな。あいつに捕まった時は薬を使うべきか迷ったが、使わなくて正解だったな」


 「はい。グレイヘロン様。MYKS(めっちゃやばい薬ストロング)はまだ試作段階です。あいつらに試すために持ってきたのです」


 「そうだな。イケメン倶楽部にこの薬を使って効果を確認すべきだなって・・・一輪の薔薇ここにいるではないか!!!」


 

 グレイヘロンは『イケメン倶楽部』の暗殺するように指示されたいた。そして、偶然にも一輪の薔薇と同じ牢屋に入ることになったので、MYKSを一輪の薔薇に手渡すことができたのである。



 「一輪の薔薇、これを飲め」


 「薬だ!薬だ!」



 一輪の薔薇はMYKSをすぐに飲み込んだ。すると一輪の薔薇の姿はみるみる若返り、元のイケメン姿になり、体に至っては筋肉モリモリのマッチョになってしまった。



 「これはすごいぞ!いつも飲んでいる薬の数倍の効力があるぜ」



 ヨボヨボで今にも死にそうな顔をしていた一輪の薔薇は、血色の良いツルツルお肌のイケメンに戻ってニヤニヤと嬉しそうに笑っている。



 「力がみなぎるぜ」



 「一輪の薔薇、今のお前なら牢屋を壊して脱獄するのも簡単なはず、一旦ここから逃げ出そう」


 「やかましい!もっと薬をよこせ。俺はもっともっと強くなりたいのだ」


 「グレイヘロン様、やはりあの薬は失敗作です。一輪の薔薇は理性を失っているように思えます」


 「何をごちゃごちゃ言っているのだ!もっと薬をよこせ」


 一輪の薔薇は片手で軽々とグレイヘロンを持ち上げて、タオルのようにグルングルンと回転させる。


 

 グレイヘロンは激しい回転により気を失ってしまう。一輪の薔薇は、気を失ったグレイヘロンを牢屋の壁に投げ飛ばす。グレイヘロンは牢屋の壁に頭から突き刺さり、その衝撃で胸ポケットから薬がバラバラと落ちてきた。



 「まだあるではないか!」



 一輪の薔薇は、薬を全て拾い集めて一気に飲み干した。すると、一輪の薔薇の体は膨張し始め、風船のように膨らみやがて、膨張に耐えきれなくなった皮膚は破裂して、全身から血を流して一輪の薔薇は死んでしまった。



 「騒がしいぞ!」



 騎士団所の団員が、すぐに牢屋に駆けつけたが、そこには、壁に頭が突き刺さって死んでいるグレイヘロンと全身の皮が破裂して血まみれになって死んでいる一輪の薔薇の姿があった。



 「おい!お前一体ここで何が起こったのだ」



 オーストリッチは、あまりにひどい惨劇を見て、ありのままの真実を語ったのである。



 騎士団所で悲劇が起こっていた頃、残りの3名の『イケメン倶楽部』のメンバーは王都から少し離れた町で身を隠していた。



 「たかが冒険者ギルドの決闘で不正をしたぐらいで、指名手配されるなんておかしいだろ」


 「そうですね。決闘は殺し以外はある程度の不正は許されているはずです。なので、指名手配される理由は別にあると考えて良いでしょう」


 「俺たちが、『紅緋の爪』に協力しているのがバレてしまったのか?」


 「おそらくそうでしょう。そして、一輪の薔薇が全てを自供している可能性があります」


 「そうだな。あいつは薬を持っていないはず。薬の効果が切れればなんでも自白するに違いない」



 「それは困ったものですね。私たちの仕事に支障がきたす可能性がありますね」



 「誰だお前は!」



 『イケメン倶楽部』の3名が、宿屋で内密の話をしていると、1人の男性が天井から侵入して来たのであった。



 


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