第71話 町の改革
シックザナール伯爵、クロイツ子爵、冒険者ギルマスのアーベンの逮捕により、カノープスの町はしばらくは混乱したが、王都からきた新しい領主ジャスティス・ゲレヒティカイト伯爵による町の再建計画の発表により、町民たちは安堵の笑みを浮かべた。
今までマーチャント商会が支払っていた多額の税金は、ヘンドラー男爵が減額するのでなく、有効に使用して欲しいと願い出てたので、ジャスティス伯爵は町の魔法学院の学費を無償化して、誰でも魔法を学べる環境を作り、また、今まで低賃金で働いていた町の役人の給料を底上げし、役人のやる気を向上させた。そして、シックナザールの恩恵を受けていた貴族たちは階級を下げられ、セリンセ誘拐に加担した貴族の子息たちは、町の奉仕活動をすることによって罪を許された。これもヘンドラー男爵が領主には逆らうことができない貴族たちへ配慮をしてほしいと述べたことで、未来ある若者の罪を問わない処置になったのであった。
ジャスティス伯爵の新たな町の法律によって町民は豊かとは言えないが、以前のような貧しい生活から抜け出すことができたのである。
「暇だなぁ〜」
セリンセの安全も確保されたので、私の護衛は必要性がなくなり、私はしばらくはマーチャント商会で必要な素材を集めに、こっそり町を抜け出して、魔獣の退治をして自由気ままにのんびりと過ごしていた。
「ハツキお姉ちゃん、また僕の修行をしてよ。この辺の魔獣は弱すぎて修行にならないよ」
「そうね。久しぶりに遊びに行こうかしら」
私はプリンツをペットとして認識しているので、プリンツを連れてどこかに遊びに行くことにした。
「ハツキちゃん、メルクーア大公からお茶会の招待状が届いているわよ」
「えっ!メルクーア大公って誰?」
「知らないのハツキちゃん?メルクーア大公は陛下の弟でこの国の宰相でもあるのよ。そして、最近になって明らかになったのだけど、メルクーア大公には一人娘がいたのよ。メルクーア大公は婚約者が死別したあと、たくさんあった縁談を全て断って、今でも無くなった婚約者を愛し続けていると聞いているわ。メルクーア大公が結婚をしなかったのは、今まで秘密にしていた娘の存在が原因だったのかもしれないわね」
「メルクーア大公って素晴らしい方なのね」
私の父は私の治療費が支払うのが嫌になって母を捨てた後、すぐに別の女性と結婚したらしい。私は意地悪かもしれないが、父とメルクーア大公を比べてしまった。
「そうなのよ。イケメンで死別した婚約者のことをずっと思い続けるなんてとても素敵だわ」
アイリスは頬を赤らめながら言う。
「でも、なんで私なんかに手紙を差し出したのかしら」
「私にもわからないわ。でも、手紙を読めばすぐにわかるはずよ」
「そうだよね」
私はアイリスから手紙を受け取り内容を確認した。手紙にはこのように書いてあった。
0の少女ハツキさん。娘のブランシュが、どうしてもあなたに会いたいと言っています。私の娘は最近まで白の厄災の女王の呪いにかかっていましたが、ある冒険者によって、呪いを解除できる素材を提供してもらい、呪いが解けて普段の生活ができるまで元気に回復しました。しかし、まだ、あなたに会いにカノープスの町に行かせるわけにはいかないのです。なので、もしよろしければ、ハツキさんが王都までブランシュに会いに来てくださると助かります。もちろん、交通費・宿賃・おやつ代などこちらが全て用意させていただきます。
「ブランシュちゃんが私に会いたいみたいね」
「ハツキちゃん。ブランシュ王女殿下とお知り合いだったの?」
「前に王都に行った時に、私のファンだったみたいだったので、一度だけ会ったことがあるのよ」
「ハツキちゃんのファンなんだ。王都では、ハツキちゃんは強さを隠さずに暴れているのね」
「違いますよ!」
私はアイリスに事情を説明した。
「0の少女・・・王都ではハツキちゃんはそんなふうに呼ばれているのね」
「そうなんですよ。困ってます」
私はみんなに同情されるような生活を送っているわけではないので困惑している。
「やっぱり本当の力をみんなに教えてあげた方が良いのでは?」
「だめです。私は普通の女の子でいたいの」
「普通の女の子は、オークを2000体退治したり、盗賊団を全滅させたりしないわよ」
私は町の近くの森で、総勢300名の『真紅の爪』を退治したことはマーチャント家には報告していた。
「偶然襲われたから退治したのです。それに、そんなに強くなかったのよ」
「・・・」
アイリスは呆れて何も言い返さない。
「退屈していたから、ブランシュちゃんに会いに行ってくるわ」
「そうね。ブランシュ王女殿下のお誘いを断るわけにはいかないわね。ハツキちゃん、馬車は私が用意してあげるわ」
「いらないですよ。走って行ってきます」
私はプリンツと王都までお散歩しようと考えていた。
「ハツキちゃん、この前王都に行ったと思うけど、この町からだとかなり遠いわよ」
「問題ないですよ。本気で走れば3時間もかからないわ」
「・・・」
アイリスは、もう私のことで何も驚かないと心に決めたのであった。
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