第63話 肉の壁ハツキの真意を見抜く・・・
シェーネも大事な話をカリーナに伝え、私も腹筋を成功させたので馬車に乗り込みカノープスの町に向かう事になった。
「カリーナさん、今日はブリガントの村に泊まるわよ」
「わかりました。あ!そうだわ。シェーネさんはマグノリアの村ってご存知かしら?」
「知らないわ」
「シェーネさんもご存知ないのですね。実は今回王都に行く際にブリガントの村でなく、マグノリアの村を経由してきたのですが、あの村はどのような村だったのか気になっていたのですが」
「私はこの辺の地理には詳しい方だけどマグノリアの村なんて聞いたことありません。詳しい事を教えていただけませんか?」
カリーナはマグノリアの村での不思議な体験を説明した。
「アーベンのドッキリだと推察したのですね」
「はい。それ以外に考えらえません」
「何も被害が起きていないのなら、アーベンの嫌がらせの可能性は高いかもしれませんね。アードラーの件と同時にその件も併用で調べてみるわね」
シェーネとカリーナさんが話をしている間、私は馬車を運転しているシェーンの隣でいつの間にか眠っていた。
「あらら、ハツキちゃん。馬車の運転を勉強したいと意気込んでいたのに、もう寝ちゃったわね」
「あれだけ腹筋を頑張っていたのだ。かなり疲れていたのだろうぜ」
馬車と並走して騎馬に乗っているムスケルが声をかける。
「そうね。でも、可愛らしい寝顔よね。私たちはこの笑顔を守るためにイケメン倶楽部と決闘をしたのよね」
「そうだな。今回の任務はお嬢ちゃんに結果よりも大事なものがあるって教えてあげるつもりだったが、教えられたのは俺たちの方だったな」
「ああ。俺たちはお嬢ちゃんを守るためにイケメン倶楽部のイカサマに気づかずに、がむしゃらに戦って破れてしまった。しかし、お嬢ちゃんは違った。冷静沈着で周りの僅かな異変も見逃さない、先読みの目・心で闘技場の崩壊を察知して、危機を乗り切って勝利した」
「そうね。私たちに足りないのは魔力量ではないのよ。冷静に周りの状況を察知する観察眼が足りないのよ。イケメン倶楽部のイカサマを見抜くのに、時間がかかり過ぎて、その結果お嬢ちゃんを危険な目に合わせてしまったのよ。戦う前からシェーネさんに、イケメン倶楽部には気をつけるように言われていたのにもかかわらず」
「それにイケメン倶楽部には初めから勝てないと判断した俺たちの弱気の精神も問題だ。お嬢ちゃんは、魔力量が0なのに、一輪の薔薇に啖呵を切って戦いを挑んだと聞いている。お嬢ちゃんは最初から負ける気持ちなど一切なかったのだ。一輪の薔薇の僅かなスキを見つけて、確実に勝利するために起こりうる何百通りの戦いを想定して戦いに挑んだのだろう」
「間違いない。俺たちはお嬢ちゃんの事を子供扱いし過ぎていたのかも知れない。お嬢ちゃんは、小さい頃から魔法が使えない代わりに、どんな小さな出来事も見逃さない観察眼を身につけてきたのかも知れない。俺たちは魔法が使えることにあぐらをかいていたのかもしれない」
「その通りよ。これからは筋力だけでなく観察眼も鍛えないといけないわ。今回の任務で私たちは少し成長できたのかも知れないわ。お嬢ちゃんのおかげでね」
「そうだな。俺はこの笑顔をずっと守ってあげたい。それにはまだまだ力不足だ。これからもイケメン倶楽部のような狡猾な手段を使ってくる奴がいるだろう」
『肉の壁』は私の事を良いように捉えて自分たちを奮起させるのであった。
「ここが、一輪の薔薇が自供した『紅緋の爪』のアジトだな」
「そのようです。しかし、誰もいないようです」
騎士団所の団員50名と王国軍の応援500名を連れて、騎士団所の所団長のアイゼンバーンがマグノリアの村を訪れていた。王国軍は最悪の事態に備えてマグノリアの村を包囲して、騎士団所の連絡を待っている。
「所団長、この村はもぬけの殻です。危険を察知して逃げたと思われます」
「確かに人が住んでいた形跡はあるが人の気配は全くない。しかし、逃げるなら金品は持っていくはずだ」
村の家を探索すると金品など全て置きっぱなしになっているので、アイゼンバーンは違和感を感じていた。
「範囲魔法を使うか」
範囲魔法とは防御系魔法で、辺り一体に魔獣がいないか探索する魔法である。
「生存反応は全くない・・・が、地中から命石の反応が感じ取れたぞ」
「まさか・・・『紅緋の爪』に殺された犠牲者が埋められているのでしょうか?」
「間違いないだろう。命石の情報を読み取れば犠牲者の身元が判明するはずだ。すぐに地面を掘り返せ」
騎士団所の団員が地面を掘り返すとたくさんの命石が発見された。アイゼンバーンは全ての命石を騎士団所に持ち帰り、鑑定をしてもらった結果、この命石は『緋色の爪』のメンバーであることが断定した。
「ライスフェルト所長、あの命石には『紅緋の爪』のリーダーであるナイトバード、『真紅の爪』の副リーダーのヴォルデのモノも確認が取れました。あの村で一体何が起こったのか検討がつきません」
アイゼンバーンは騎士団所のトップであるライスフェルト所長に報告をあげた。
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