第61話 護衛費が心配です

 次の日。



 「『肉の壁』さん、体の調子はいかがですか?」


 「完璧に回復したぜ」


 「何も問題はないぜ」


 「お嬢ちゃん、心配をかけたわね。でも、もう大丈夫よ」


 「それはよかったです。でも、あまり無理はしないでくださいね!」


 「そうですよ。まだ完全に体調が回復したとは言えません。私たちの護衛任務は代役が来るそうなので、無理をなさらないようにね」


 

 昨日私たちの宿に冒険者ギルドの受付嬢が訪ねてきて、帰りの道中は王都の冒険者ギルドより護衛者を手配したと連絡が来た。カリーナは財布の中身を心配しつつも、『肉の壁』に無理をさせたくなかったので、新たな冒険者の護衛を受諾したのである。



 「カリーナ様。気をつかわせて申し訳ありません」


 「気にしなくてもいいのよ。あなた方はハツキちゃんのために勇気ある行動をとったのよ。胸を張って帰るといいわよ」


 「結局俺たちは何もできなかった」


 「そんなことはないわよ。あなた達のハツキちゃんを守りたい大事にしたいという気持ちは、あの決闘でみんなに伝わったはずよ。シェーンさんが、イケメン倶楽部の不正を見抜いて、その事実を『青天の霹靂』が白日の下にしてくれたおかげで、あなた方の名誉を守ってくれたわ」


 「そういえば、アイツらはどうなったのだ」


 「闘技場の崩壊により穴ぼこに取り残された一輪の薔薇は、救出されたのち騎士団所に連行されたわ。残りの3名も指名手配されたので行方を捜索中よ」


 「決闘での不正はある程度認められている。それを見抜けなかった俺はまだ未熟者だ」


 「俺もだな・・・」


 「何をしおれているのよ!あなた達らしくない。日課のトレーニングができていないから、元気がなくなったのと違うかしら。町に帰ったらトレーニングの量を倍に増やして、もっともっと筋肉をつけるのよ」


 「そうだな。今回の反省を糧にして筋肉にさらに磨きをかけてやるぞ」


 「俺もだ!魔法と筋肉の融合の魔筋肉の強さをみんなに知らしめてやるのだぁ〜」


 「筋肉最高 筋肉最高 筋肉最高」



 『肉の壁』は円陣を組んで大声で叫ぶのであった。



 「お客さん!うるさいですよ。騒ぐなら表でやってくださいね」



 「申し訳ありません」



 私たちは宿屋の主人に頭を下げてすぐに宿屋から出て行った。




 「ちょうどいいタイミングだったわね。ハツキちゃん」

 

 「よんよん」


 

 私たちが表に出ると、シェーネとショコラが馬に乗って待っていた。



 「なんでお二人がここにいるのですか?お見送りに来てくれたのですか?」


 「聞いてないのかしら?私たちはあなた方の護衛にきたのよ」


 「よんよん」


 「えっ!『青天の霹靂』が護衛をしてくれるの・・・」



 カリーナが腰を抜かしてビックリしている。



 「あなたがカノープスの町の商業ギルドのカリーナ様ですね。陛下に代わって魔石の納品の感謝の意を述べたいと思います。迅速な魔石の手配本当にありがとうございます」


 「感謝の言葉ありがとうございます」


 「さて、堅苦しい挨拶はこれで終わりにしましょう」

 

 「はい。それで・・・申し上げにくいのですが・・・まさかAランク冒険者で王族専属冒険者の『青天の霹靂』さんが護衛をするなんて、想定していませんでしたので・・・その・・・あの・・・予算が・・・予算がですね・・・」



 カリーナさんがオドオドしながらお金の心配をしている。



 「カリーナさん、護衛費の心配はしなくても結構よ。今回の護衛は陛下からの依頼なので、カリーナさんからは請求はしないわよ」


 「やったぁ〜」



 カリーナは満面の笑みを浮かべてガッツポーズをした。



 「カリーナさん、お金のことよりも大事な話があるのです」


 「お金よりも大事なこと???そんなことがあるの」


 「あります!カリーナさん2人っきりで話したいので馬車の中へ移動しましょう」



 カリーナ達は馬車の中に入って行く。



 「さすが、ヘンドラー男爵の馬車ね。中は広いし防音効果も完璧のようね」


 「アイリスさんが設計から携わった最高級の馬車ですわ。確か同じ馬車を数台陛下に献上したと聞いてますわ」


 「そうね、陛下もこの馬車をいたく気に入っているわ。王国魔導技師でもこれほどの馬車を作ることができないと言っているわよ。さて、本題に入るわね。いろんなことがあって、最初に何から話そうか迷ってしまいますが、まずは、オークキングのことを伝えておくわ」


 「オークキング・・・早く退治しないとこの国も危ないわね」


 「カリーナさん、もうオークキングの脅威は無くなったのよ」


 「どういうことでしょうか?」


 「オークキング並びに2000体のオークは壊滅したわ」


 「えっ!本当なのですか?」


 「間違いありません。私はオークの森に行って確認してきました」


 「確認?もしかして、『青天の霹靂』が退治したのですか?」


 「違います。おそらくデスカーニバルが起こって魔獣同士が殺し合ったのです。オークキング並びにオーク達を倒したのはヴォルフロードだと、私たちは推測しているのです」


 「ヴォルフロードなら、やってのける可能性はあるでしょうね」


 「なので、オークキングの脅威は去ったのです」


 「それはよかったわ」


 「では、本題に入らせていただきます。私は陛下よりイーグルネイルの壊滅を命令されています。そして、この国に拠点があるとされている『真紅の爪』と『紅緋の爪』を最優先に破壊するように言われているのです。その『真紅の爪』のリーダーであるアードラーが、先日殺されたとカノープスの冒険者ギルドより知らせがあったと私は昨日知りました」


 「確か『月華の雫』が命がけで兄の家族を守ってくれたと聞いています」


 「はい。私もそのように聞いております。その時のことを詳しく教えていただきたいので、私たち『青天の霹靂』があなた達を護衛しつつカノープスの町に行く事になったのです」


 

 『青天の霹靂』が私たちを護衛してくれるのは、アードラーが倒された状況を詳しく調べるためである。

 





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