第60話 MYK

 シェーネは私を置いてけぼりにしたことに、すぐに気づいて部屋に戻ってきてくれた。



 「ハツキちゃん、ごめんなさいね。あまりの嬉しさで、あなたのことを忘れていたわ」


 「大丈夫ですよ!ブランシュちゃんの呪いが解除できそうでよかったですね」


 「うん。本当に嬉しいわ。あとはノワールさんにお任せして、私はお城の案内をしてあげるわ」




 私はシェーネにお城を案内してもらってから、宿屋に戻ることにした。シェーネは私を宿屋まで送るとすぐに、ブランシュ王女の元へ戻っていった。宿屋に戻ると『肉の壁』の3人がベットで眠っていた。



 「ハツキちゃん戻って来たのね」


 「はい。『肉の壁』さんはまだ動けないのですか?」



 『イケメン倶楽部』の卑劣な手によって、一方的にボコボコにされた『肉の壁』の3人は、ギルド内で回復魔法をかけてもらったので、大事には至らなかったが、高度な回復魔法でなかったために、まだ、疲労が抜けずに今日もベットで横たわっていた。



 「もう大丈夫よ」


 「そうだぜ。いつまでもベットで横たわっているわけにはいかないぜ」


 「そうだな。日課の筋トレもしていないしな」


 「だめよ。今日はゆっくりと安静にしてください。これは依頼者としての命令です!」


 「そうですよ、皆さん。出発は明日なので、今日はゆっくりと休んでくださいね」


 「そうね。明日は2人を護衛しないといけないから、万全な体調にしとかないとね」


 「そうですよ。今日はゆっくりとしてくださいね」



 『肉の壁』の3人は私たちに気遣って元気なふりをしていたが、明日の護衛任務に備えて、再びベットで眠りだしたのである。



 「ハツキちゃん。用事は済んだのかしら」


 「はい。シェーネちゃんの案内でお城を見学して来ました」


 「それはよかったわね。シェーネさんは公爵家の御令嬢ですから、簡単にお城に入る許可をもらえるからね。田舎の商業ギルドマスターごときじゃ、外からお城を見るのが限界だわ」


 「公爵家???」


 「そうよ。フリューリング家は王族と親しい関係で、自由にお城を出入りできる権限を持っているの。シェーネさんの父であるバルドリック・フリューリング公爵はこの国の宰相であり、陛下の次に権限を持つお偉い方なのよ」


 「はへぇ〜〜。ショコラちゃんは王女様で、シェーネちゃんは公爵令嬢さんなのね」


 「そうよ。『青天の霹靂』は腕も身分も超一流なのよ」


 「ちなみにカーネリアン君は、オランジェザフト帝国の王子様よ。彼は魔法を学びに留学してきたの」


 「王子様・・・ってカーネリアンって誰だっけ?」


 

 私はシェーネとショコラとは仲良くなったのだが、バルザックとカーネリアンとはほとんど面識はなかった。




 ここは王都にある騎士団所、警察署のようなところである。騎士団所の留置場に老人のようにシワシワの顔をした男が座り込んでいた。



 「あいつがあの『イケメン倶楽部』のリーダーの一輪の薔薇の本当の姿なのか?」


 「そのようだな」


 「本当は老人だったのか・・・」


 「それは違うぞ。あれは薬の過剰摂取による副作用だ。アイツはMYK(めっちゃヤバイ薬)に手を染めていたようだな」



 MYK(めっちゃヤバイ薬)とは、ある素材を使用した違法魔導薬である。MYKを使用すると一時的に魔力量が増え、なおかつ複数の魔法の適正を得ることができるようになる。しかし、MYKを服用し続けると体の老化が進み、老人のような姿になってしまうのである。なので、その老化を隠すために耐えずMYKを服用して、美容魔法で老化を隠し続けなければならない。


 一輪の薔薇は、魔力量を増やすためにMYKを服用し続けて、老人のような体になってしまい、その姿を隠すためにさらに過剰にMYKを服用しなければならなくなっていたのである。そして、これは一輪の薔薇だけでなく、『イケメン倶楽部』の全員に当てはまるのである。


 一輪の薔薇は、ギルドの決闘にて不正を働いた罪で、騎士団所に連行されて留置され、事情聴取を受けていた。しかし、決闘での不正での罪は表向きの罪状で、本当は『紅緋の爪』との関わりを調べるために連行されたのである。



 「薬を・・・薬を飲ませてくれぇ〜。こんな姿俺の本当の姿ではない」



 しゃがれた声で一輪の薔薇が薬を求める。



 「MYKは違法魔導薬だ。ここにあるわけがないだろう」


 「俺の仲間が持っているはずだ。仲間を呼んできてくれ」


 「お前が頼まなくても指名手配している。すぐに捕まるだろう」


 「それは助かる。早く捕まえて薬を俺に渡してくれぇ〜」



  一輪の薔薇にとって、老人のようにシワシワになった顔の状態でいる事は苦痛であり、どんなことをしてでも、イケメンに戻りたいのである。



 「もう末期の状態のようだな」


 「そうだな。MYKを多量に過剰摂取し続けると、MYKの効果がなくなると精神状態が錯乱して、正常な判断ができなくなる。コイツは自らMYKの使用を認めて、さらにMYKを要求するなんて、罪の概念すら判断できなくなっているのだろう。この状態なら『紅緋の爪』との繋がりもすんなり自白するに違いない」



 騎士団達の推測通り、一輪の薔薇は『紅緋の爪』との繋がりをあっさり全て自供した。


 


 

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