第59話 無駄なことなど何もない
「これは・・・一体どういうことなのぉ〜、部屋の氷が無くなっているわ」
ノワールは扉を開けるなり腰を抜かして驚いていた。
「何があったのよ?」
扉の前で私を待っていたシェーネが恐る恐る扉の中を覗き見る。
「嘘?嘘?嘘?」
シェーネは目をパチクリとして何度も何度も部屋の様子を伺う。
「あなたがノワールちゃんね。ブランシュちゃんが大事な話があるって言っているわ」
「そうなのですね。私もこの部屋で何が起こったのか教えてもらわないとね」
ノワールは一目散にブランシュ王女の元へ駆け寄った。
「・・・」
ノワールはブランシュ王女の姿を見て言葉を失い、そして涙が溢れ出してきた。
「ブランシュ王女殿下・・・呪いが解けたのですね」
ノワールはブランシュ王女の前で泣き崩れた。
「ノワールさん、これまで私のお世話をしてくれてありがとう。でも、まだ呪いは解けていないのよ。でも、安心して、私の呪いを解除してくれる素材が手に入ったのよ」
「嬉しいです。本当に嬉しいです。最近はブランシュ王女殿下の呪いは悪化していくばかりで、ついには全身が氷漬けになってしまいました。メルクーア大公もブランシュ王女殿下の死を覚悟していました。本当によかったです」
「ブランシュ王女殿下、一体何があったのよ!さっきまではこの部屋は氷河で覆われ冷気の突風があれくれていたわ。この短時間で何があったのよ」
「実は内緒にしていたのだけど、ある方にある素材を用意していただける約束をしていたのよ。やっとその素材の効果が発揮したとこなのよ」
「そのある方とは誰なの。そして、ある素材とは何なのよ」
「秘密ですわ。これはある方が素性を言わないことを条件で、ある素材を私にくださったのですわ」
「ある素材がどの素材かは察しはつくわ。でも、あの素材を入手するのは不可能だわ。英雄ランクの『恒河沙』でさえ近寄ることもできなかったわ」
「シェーネさん、いくらあなたでも、私は話すことはできないのよ」
「そうね。誰がどの素材を用意してくれたなんかどうでもいいわね。今はあなたの呪いが解けたことに感謝しないとね」
シェーネはブランシュ王女を抱きしめた。
「シェーネさん、ありがとう。私のためにあなたがどれほど辛い鍛錬をして、私の呪いを解くために頑張ってくれたのか知っているわ。本当にありがとう」
「でも・・・結局私は何もできなかったわ」
「そんなことないわよ。あなたがどれだけ私に生きる勇気を与えてくれたと思っているの。あなたやノワールさん、それにショコラ王女殿下、私はたくさんの人々に生きる勇気をもらって、今まで生きることができたのよ。そして、この年まで生きることができたから、私の呪いを解くことができるようになったのよ」
ブランシュ王女、シェーネ、ノワールの3人はお互いに抱きしめあって、ブランシュ王女の呪いの解除ができることを喜びあった。
「さぁ、こんな部屋とはもうおさらばしましょ」
「そうですね。やっと私は陽の光を浴びる生活ができるのですね」
「そうです。ブランシュ王女殿下の第二の人生がこれから始まるのです」
3人は私の存在など忘れて、手を繋いで階段を登って行く。私は氷が溶けて無くなった部屋を1人で眺めていた。
「すごい本がいっぱいだわ」
氷が溶けた部屋にはたくさんの本が本棚にぎっしりと詰まっていた。
「なんの本かしら」
私は本を手に取りペラペラとめくって見る。本の中身は魔法について書かれている。
「これは魔導書だよ」
プリンツがポケットの中から飛び出してきた。
「魔導書?」
「魔力をどのように魔法に変換するか書かれている本のことだよ。あの子は自分で呪いを解除できないか必死に魔導書を読んでいたのかもしれないね」
「もしかして、この部屋にある全ての魔導書を読んでいたのかしら」
ブランシュ王女は、自力で呪いが解除できないか、あらゆる魔導書を読み漁っていた。自分のために他の人を危険な目に合わせることができいないので、火炎竜の鱗を使わずに、呪いの解除の方法を5歳の時から探し続けていた。しかし、その方法を見つけることはできなかったが、その代わりに、膨大な魔法の知識を得る事ができ、しかも、魔法を使いこなせるようになっていた。
ブランシュ王女は、生まれながらに『白の厄災の女王』の呪いにかかっていたが、その呪いが持つ魔力が体に作用して、人間が持てる範囲を大幅に超える魔力量を保持していたのである。そして、その膨大な魔力量と豊富な魔法知識により、知らず知らずに呪いの進行を遅らせていた事実は、本人も知らなかったのであった。
「あの子が『白の厄災の女王』の呪いで、長く生存できたのはたくさんの魔導書を読んでいたからだよ」
プリンツはすぐにブランシュ王女が14歳まで生きていたカラクリを見破り、私に説明したくれた。
「ひたむきに頑張ったから、ブランシュちゃんは助かったのね」
「そうだよ。もし、生きることを諦めていたら、14歳まで生きることはできなかったはずだよ」
私は生まれた時に、医者は10歳まで生きることはできないと母に伝えていた。私が14歳まで生きることができたのは、母の看病と母の愛情、それと母を思う私の気持ちが寿命を伸ばしていたのかもしれない。そして、14歳まで生きることができたから、異世界に転移することができて第2の人生を歩むことができたのだと思ったのであった。
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