第43話 0の少女
ギルドの裏には円形の闘技場がある。闘技場は石で出来ていて直径30mほどあり、闘技場の周りには200名ほど観戦できるスペースがある。この闘技場では冒険者同士の決闘以外にも様々な用途で利用されている。
闘技場にはどこから聞きつけたのか、すでに50名ほどの観客が入っており、その全てが『イケメン倶楽部』の応援に駆けつけているのである。『肉の壁』にとっては完全にアウェーな状況であった。
「『イケメン倶楽部』対『肉の壁』の決闘って聞いたけど、『肉の壁』って誰だ?」
「田舎町の3流冒険者らしいぜ」
「そうなのか?そんな3流冒険者がなぜ?『イケメン倶楽部』と決闘をするんだ?」
「3流冒険者が『イケメン倶楽部』に喧嘩をうったみたいだぜ」
「なんて愚かな事するのだろう」
「『イケメン倶楽部』の美貌に嫉妬したらしいぜ」
「それって八つ当たりじゃないのか?」
「そうそう、いきなり3流冒険者に罵倒された『イケメン倶楽部』は、冷静に対処したが、馬鹿な3流冒険者はしつこく『イケメン倶楽部』に突っかかっていき、最後には決闘を申し込んだらしい。俺が思うに1流冒険者に決闘で勝つことによって、有名になりたくて絡んだのだと推測してるぜ」
「『イケメン倶楽部』もとばっちりだな」
『イケメン倶楽部』は短時間の間に仲間を使って情報操作をしていた。この決闘はあくまで、『イケメン倶楽部』が正義であり、『肉の壁』が悪であるように演出をして、自分達の好感度をあげるように自演しているのである。
『肉の壁』が闘技場に着くと罵詈雑言を浴びせられる。『イケメン倶楽部』の情報操作によって、完全に『肉の壁』は悪者になっている。しかし、戦いに集中している『肉の壁』には観客達の罵詈雑言は届かない。
「静かにしなさぁーい。うるさいわよ」
私を除いて。
「おい!あいつが噂の0の少女だぜ」
私はいつの間にか王都では『0の少女』という二つ名が付いていた。
「なんで0の少女がいるのだ?」
「噂では専門魔法学院の面接に来たらしいぞ」
もちろんこの噂の出どころは『イケメン倶楽部』である。
「記念受験ってやつだな」
「自暴自棄にならずに記念受験を受けるなんて健気な少女なんだなぁ〜」
観客達は『肉の壁』には罵詈雑言を飛ばすが、私が『0の少女』だとわかると急に哀しげな目になり静かになった。
『0の少女』とは、生まれながら魔力量が0であり、14歳になった今も魔力量が増えることがなく、魔法を全く使うことができない。しかし、『0の少女』はそんな過酷な人生を悲観することなく冒険者試験を受け見事に合格した。という話は遠く離れた王都まで届いていた。この話を聞いた人々は、『0の少女』のひたむきな生き方に大きな感銘を受けた。
「なぜ、『0の少女』が3流冒険者なんかと一緒にいるのだ?」
「騙されて無理やり連れて来られたのだろうよ」
「なんて酷いことを」
「おいお前ら!あれは『0の少女』の名を語る偽物らしいぜ」
「なんだと!」
「アイツは3流冒険者と組んで、自分は『0の少女』と嘘をついて寄付金を募っているらしいぜ」
「本当かよ!危うく騙されるところだったぜ」
『イケメン倶楽部』は嘘と本当の情報を織り交ぜて流していた。それによって信憑性を増すように仕組んでいるのである。この短時間でこのように情報操作ができるのは、闘技場の観客の1割は『イケメン倶楽部』の手下であるからできるのであった。
私の姿を見て静まり返った観客席も、急にヒートアップしたように私に向けて罵詈雑言をぶつけてくる。
「この偽物少女!恥を知れ」
「そうだ。そうだ。俺たちは絶対に騙されないぞ」
「『0の少女』を名乗るなんてお前はクズだ」
私は観客達の罵詈雑言の内容が全く理解できない。しかし、私に悪口を言っているのは理解できた。
「うるさいわよぉ〜」
私は大声で怒鳴るが『肉の壁』は用意されていた席にゆっくりと座る。
「絶対に俺がなんとしてみせる」
「ムスケル、1人で背負い込まないで。私たちも頑張るから無茶はしないでね」
「これは俺が売った喧嘩だ。そのせいでみんなを巻き込んでしまった。俺が決着をつける」
「違うわ。あなたの意見は『肉の壁』の意見よ。誰もあなたのせいだと思っていないわよ」
「そうだ、ムスケル。これは俺たちが望んだ決闘だ。しかし、お嬢ちゃんを巻き込んでしまったのは失敗だったぜ」
「それでは、今から『イケメンの倶楽部』と『肉の壁』の決闘を開催したいと思います。冒険者ギルドの決闘では殺しは禁止していますので、戦闘不能と判断すれば私がすぐに止めに入ります。もし、私の静止を無視して相手を殺してしまった場合は、失格となり冒険者証を剥奪します。ここはあくまでお互いの腕を競い合う場所であり、殺し合う場所でないことをご理解してください。では、第一試合を開始したいと思いますので、選手の方は闘技場に上がってください」
第一試合 『イケメン倶楽部』一輪の薔薇 対 『肉の壁』ムスケル
2人の試合は開始3分で結末を迎えた。闘技場に血だらけで倒れているのはムスケル。一方、一輪の薔薇はかすり傷一つついていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます