第42話 決闘

 「私の大切なお友達の『肉の壁』さんの悪口を言ったあなた達を、私も絶対に許さないんだからね!」



 『肉の壁』は、私のことをいつも親身になって心配してくれていたとても素敵な冒険者である。そんな『肉の壁』のことを馬鹿にする『イケメン倶楽部』を、私は許すことはできなかった。私は目立たずにのんびりと第二の人生を過ごしたいと思っていたが、ついに私の実力を見せつける時が来たのである。



 「マジかコイツ!魔力量0のガキが俺たちに決闘を望むだと?お前は魔力がなくて頭までおかしくなったのか」


 「本当だぜ。俺たちはBランク冒険者だぜ。おままごと冒険者のお前が、俺たちに挑むなんて身の程をしれ」


 「お嬢ちゃん、なんで付いて来たんだよ。俺たちのことを心配してくれるのはありがたいが、これは危険な決闘なんだ。俺たちはお嬢ちゃんを巻き込みたくないんだよ」


 「そうよ。すぐにこの場から立ち去るのよ。お嬢ちゃんのその気持ちだけで私たちは満足よ」


 「嫌です!私も戦うのです。私のために怒ってくれた『肉の壁』さん達だけ戦わすのは私は嫌なのです」


 「いいじゃないか!戦いたいなら戦わしてやれよ。己の実力もわからない馬鹿には、俺たちが教育してやるから感謝して欲しいものだ」


 「そうです。私たち『イケメン倶楽部』が、そのガキに魔力量0の人間は部屋にこもって、2度と外に出ない方が良いと言うことを体に叩き込んであげます」


 「3流冒険者とおままごと冒険者、とてもお似合いな組み合わせじゃないか。しかし、お前らのようなゲテモノ冒険者と決闘をすれば、俺たちもゲテモノ扱いされては困る。だから、お前らにはハンデをあげようではないか。お前達4人のうち1人でも俺たちに勝てることができれば、お前達の勝ちにしてやろう」


 「一輪の薔薇、それではまだ俺たちが弱い者イジメをしていることなります。もう1つ特別ルールを設けるとしましょう。お前達は潔く土下座して頭を下げれば、戦わずとも負けを認めてあげましょう。自らの愚かさに気づけば、ボコボコにならずとも負けを認めさせてあげる機会を作ってあげるのです」


 「羨望の眼差し、それはとてもいい案だな。調子に乗って俺たちに決闘を望んだことを潔く反省して、土下座して命乞いをするなら許してやろう」



 冒険者ギルドでの決闘は、メンバー同士の1対1のタイマンバトルでる。勝ち負けの判断は、中立の冒険者ギルドの受付嬢が審判をし判定を下すので、途中での棄権は許されていない。



 「ムスケル、ニーゼン、お嬢ちゃんを危険な目にあわすことはことはできないわ」


 「そうだな。俺たちのせいでお嬢ちゃんに怪我をさすわけにはいかないぜ」


 「土下座して謝ろうぜ」




 『肉の壁』は私を危険な目に合わせたくないので、土下座して謝ることを決意する。



 「ふざけんじゃないわよぉ〜誰があなた達のような下品な冒険者に、土下座なんてするわけないじゃないの!私は本当に怒っているんですぅ。私はあなた達が土下座しても絶対に許さないからね!」



 『肉の壁』が膝をついて土下座しようとした時、私は『イケメン倶楽部』に啖呵を切ったのである。



 「あのガキは俺がぶっ殺してやる。俺たちに舐めた態度をとるとどうなるのか俺が教えてやる。所詮魔力量0のガキだ。あいつには生きる資格などない」


 「決闘では殺しは禁止されています。しかし、一輪の薔薇の意見はもっともなことです。受付嬢に追加のお金も渡しておきますので、殺しを見逃してもらいましょう」


 「任せたぞ」


 


 一輪の薔薇と羨望の眼差しは、みんなに聞こえないように耳元でこのような会話をしていた。



 「おままごと冒険者、お前の度胸は褒めてやるぞ。お前との決闘を楽しみにしているぞ」


 「絶対にギャフンと言わせてやるわよ」


 「アベリア、準備はできているな」


 「『イケメン倶楽部』さん、決闘の準備はできています。いつでもできますよ」



  アベリアは王都の冒険者ギルドの受付嬢の1人である。茶髪のショートカットの細身の小柄な女性である。



 「ゲテモノ冒険者たち、俺たちは先に闘技場で待っている。最後の別れの挨拶でもしてから来るんだな!」



 『イケメン倶楽部』は冒険者ギルドの裏手にある闘技場に向かった。


 『肉の壁』は土下座して許しを得るつもりだったが、私が啖呵を切ってしまったので、土下座するタイミングを完全に逃してしまった。



 「どうする?もう土下座をして決闘を避けることはできなくなってしまったぞ」


 「勝つしかないわね。お嬢ちゃんの順番を最後にして、私たちの誰かが『イケメン倶楽部』に勝つことができれば、お嬢ちゃんが戦わずに済むことができるわ」


 「それしかないな。しかし、俺たちであいつらに勝てるのか・・・」


 「ニーゼン何を弱気になっているのだ。お嬢ちゃんは俺たちのために、魔力量が0なのに戦いを挑んだのだぞ!俺たちが弱気になってどうするのだ」


 「そうよ、ニーゼン。もう私たちがお嬢ちゃんを守るには勝つしか道はないのよ。今まで地道にトレーニングした結果をここでぶつけるのよ。筋肉は嘘はつかないわ」


 「そうだな。俺たちの誰かが勝てばいい。しかし、その勝利は果てしなく険しい道のりである事を忘れるなよ」


 「もちろんよ。あいつらの強さは本物だからね。私たちがいくら努力してもたどり着けない領域だわ」



 『肉の壁』はわかっている『イケメン倶楽部』に勝てる可能性はないという事を。しかし、私を守るために、絶望と言いう名の壁に這い上がることにしたのであった。

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