第31話 火炎竜王の鱗
「ハツキさん、プリンツのもとへ急ぎましょう」
ヴォルフロードは新たに黒いモヤをを作り出した。私はその黒いモヤの中へすぐに飛び込んだ。
「プリンツちゃん!プリンツちゃん」
黒いモヤを抜けると目の前にプリンツが炎に包まれて地面に横たわっていた。私はすぐに炎に息を吹きかける。
「フゥ〜フゥ〜」
プリンツを覆う炎はすぐに消え去ったが、プリンツはピクピクと痙攣していた。
「ハツキお姉ちゃん・・・僕・・・頑張ったよ・・・でも、まだまだ力不足だったよ」
プリンツは震えながらか細い声で私に声をける。
「頑張ったわね、プリンツちゃん。もう大丈夫よ」
私はプリンツのそばによりそっと頭を撫でてあげた。
「僕もっと強くならないとね」
「そうね。でも今はゆっくりと休むといいわ」
「ついに来たかヴォルフロード!こんなガキ1人で俺たちを倒せると思ったのか!」
火炎竜王達には人間の私など眼中にない。私のすぐ後に現れたヴォルフロードに対して威嚇するように翼を広げ自分たちの姿を大きく見せる。
「俺が相手をしても良いのだが、ハツキさんがそれを許してくれるだろうか」
「ハツキだと???誰のことを言っているのだ」
「横を見るがいい。お前の相棒はすでに倒されているぞ」
「なんだと!」
フィラメントは横を向くと、先ほどまで隣にいたはずのフレアがいない。
「何が起こっているのだ・・・」
「火炎竜王よ、下を見ろ」
フィラメントは下を見ると、そこには体が真っ二つに切り裂かれたフレアの姿があった。そして、フレアの中心には1人の少女がいた。もちろん私である。
私はプリンツの頭をさすった後、すぐにジャンプして火炎竜王の頭をチョップして真っ二つに切り裂いたのである。
「ロードちゃん、プリンツちゃんの治療をお願いするわ。私はこのドラゴンを成敗します」
「待て、お前は何者だ!俺は『赤の厄災の王』火炎竜王だぞ!人間がどんなに頑張っても倒すどころか近寄ることすらできないはずだ」
「確かにあなたの側にいると少し汗をかくわね」
私は初めて相手の炎に対して暑さを感じていた。それほど火炎竜王の発する熱は桁違いに高温である。
「プリンツちゃんをいじめるなんて絶対に許さないからね」
私は怒りのあまり地面を拳で叩く。すると地面には大きな亀裂ができ『爆炎湖』が真っ二つに割れてしまった。燃え盛る爆炎湖の炎は地中に吸い込まれ、中央にあった小さな島に生えていた聖霊樹も地中深くへ消えてしまった。
「これは夢なのか?それとも幻でも見せられているのか」
「火炎竜王よ、ハツキさんを怒らせると世界は滅亡するぞ。俺は決してハツキさんには逆らわないようにしている」
「ハツキ様!ごめんさない」
フィラメントは大きな体を丸くして土下座をして命乞いを始めた。
「私に謝っても許さないわよ!謝るならプリンツちゃんに謝るのよ」
「プリンツ様、申し訳ありません。どうかお願いします。命だけはお救いください」
ヴォルフロードに回復魔法を使ってもらったプリンツは、意識はしっかりと取り戻したが、体力の消耗が激しく完全には回復してはいなかった。
「ハツキお姉ちゃん・・・僕は・・・もう大丈夫。だから・・・火炎竜王を・・・許してあげて。火炎竜王は・・・僕が・・・もっと強くなって・・・僕が倒さないといけないんだ」
「プリンツちゃん・・・わかったわ。早く屋敷に戻って休むわよ」
「ハツキ様、ありがとうございます。私たちの愚かな行いを許してくださったお礼にこの『火炎竜王の鱗』をお渡しします」
フィラメントは自分の額の辺りの鱗を剥ぎ取って私に差し出した。
「何これ?」
「『火炎竜王の鱗』は人間達が求める最高級の素材だと聞いています。しかも、抜け落ちた『火炎竜王の鱗』と違って、魔力が宿っているこの鱗はかなりの価値があると思います。これをお詫びの品として受け取ってください」
「貰える物は貰っておくわ」
私は30cmほどの大きの『火炎竜王の鱗』をゲットした。
「プリンツちゃん帰るわよ」
「うん」
私はヴォルフロードの作った黒いモヤに入って先ほどいた森に戻ってきた。
「私は漆黒の森に帰ります。今後もプリンツのことをお願いします」
「ごめんなさい。プリンツちゃんを危険な目に合わせてしまって・・・」
まさかこんな事態になるとは思ってもなかったので、私はとても反省していた。
「いえ、強くなるには危険はつきものです。もし、ハツキさんの試練に耐えれなくて死んでしまったら、それはプリンツの力不足であり、黒の厄災の王になる資格がなかったといえます。今後もプリンツが強くなれるように試練を与えてください」
「僕、頑張って強くなるよ」
今回の件に関してプリンツ達は、あくまでプリンツを強くするための試練であると捉えていた。そして、プリンツは試練に失敗して、私が助けてくれたという形で試練が終わったと理解しているのである。
「わかったわよ。次も頑張るのよ!」
私はプリンツ達の熱い思いを踏み躙ることはできないので、話を合わせることにした。
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